【微ネタバレあり】名探偵コナン『100万ドルの五稜星』の重要ポイント徹底解説

(C) 2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』(公開中)が大旋風を巻き起こしている。4月12日に封切られ、公開26日で観客動員数850万人超、興行収入121億円を突破(5月7日時点)し、シリーズ全27作史上最速で100億の大台に到達した(シリーズアニメとして2作連続100億円突破は日本映画史上初)。シリーズ累計観客動員数は1億人を超え、原作連載30周年の節目に大記録を打ち立てた。

劇場版コナンの特徴として、入場特典によるブーストを行わないことが挙げられる。週替わりで新しい特典を用意することでリピーターを獲得する施策は近年の劇場作品の“定石”だが、純粋に中身だけで勝負して新記録を叩き出せるあたり、圧倒的なコンテンツ力の高さをうかがわせる。親子3代でコナンファンも少なくなく、ファンが代替わりしたり変遷したりすることなく積み上げられている点に(オールドファンが離れない)、『名探偵コナン』の強さがある。本稿ではその部分を加味しつつ、決定的なネタバレを避けてファン目線による『100万ドルの五稜星』の重要ポイントを紹介していきたい。(文:SYO)

ファンを裏切らないキャラの理解度・解像度

(C) 2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

そもそも本作は、“怪盗キッドのとんでもない秘密が明かされる”と前々から喧伝(けんでん)し(とはいえそれ以上の内容はトップシークレットとして徹底的に明かされなかった)、一般向けの試写会を一切行わない熱の入れ方で、ファンを煽りまくっていた。要は期待値が非常に高い注目作だったのだ。そのため公開初日の興行収入9.6億円・動員63万人、初週3日間で興収33億円・動員227万人とロケットスタートを記録。キッドの“秘密”は本編を観ていただくとして、一つ言えるのはシリーズの根幹にかかわるレベルの衝撃度だということ。原作ファン、テレビアニメファン、劇場版ファンいずれにしても“観ておかなければならない”と感じるレベルのものであることが、やはり大きい。

この部分に付随するのは、劇場版コナンシリーズの最大の魅力でもあるキャラクターの理解度・解像度の高さであろう。公開タイミングで放送されたNHKの人気番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」による原作者・青山剛昌の密着映像のこぼれ話として、彼が映画の絵コンテ参加のみならず脚本もがっつり監修していることが映し出されたが、第1作から続く原作者との強固なチームアップが劇場版シリーズのクオリティーをさらに高め、内容的にも“ここまで描ける”踏み込んだものにしている。

その究極が本作の“キッドの秘密”であり、コナン・平次・キッドの三英傑による共闘だろう。さらに平次が飛行中のセスナの上で一大アクションを繰り広げるといった映画版ならではのスケール満点なシーンも用意されているが、ただ派手なだけでなくそこにちゃんと“心”が伴うのが重要。原作ファンの目で見たときに劇場版の各々のキャラクターの性格や行動理念にブレがないため、スッと受け入れられるし“推せる”のだ。前出のセスナ機上アクションで平次が言う「忘れんなや」に続くセリフは、彼の代表的なエピソード「浪花の連続殺人事件」と言葉選びが重なるし、和葉についに想いを伝えようとする際の「人には大概、動機っちゅうもんがある」から始まる名ゼリフもそう。ちなみにここは、かつて新一が蘭に告白した際の「厄介な難事件なんだよ」の下りにも通じる“名探偵だが恋心に戸惑う”部分とのミラーリンクを感じさせ、ファンならニヤリとさせられるのではないだろうか。

(C) 2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

こうしたキャラ描写のきめ細やかさは随所に張り巡らされており、例えば子どもの身体のため背が届かず苦労するコナンを平次がさりげなく気遣って持ち上げるシーンや、和葉の耳覚えがいい特技(これは『迷宮の十字路』『から紅の恋歌』といった過去作から引き継いだ設定)、平次のキッドに対する「キスの恨み」などなど、一挙手一投足に一貫性が感じられる。そのうえでキャラクターの掘り下げが行われており、平次が蘭に恋愛相談をするという激レアなシーンや、園子が鈴木財閥の後継者としての才覚を発揮し、その仕事の速さを平次が絶賛するシーン、キッドの中森警部に対する想いなどなどが登場する。

謎解き部分についてもコナンと平次だけでなく、キッド、蘭、和葉、紅葉、園子、少年探偵団、阿笠博士といったメンバーの協力を得て初めて真実にたどり着く“チーム戦”になっており、キャラの解像度とミステリー×ラブも含めた人間ドラマが融合している。前作『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』で灰原や阿笠博士の掘り下げが行われたように、劇場版コナンは原作とキャラがブレないどころからさらに奥へと進むため、ファンを裏切らない&驚かせるのだ。

青山剛昌ユニバース!その先へ

(C) 2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

『100万ドルの五稜星』では「名探偵コナン」だけでなく、青山の別作品「まじっく快斗」からキッド・中森警部に加えて青子、「YAIBA」から沖田と鬼丸が登場するなど、青山剛昌ユニバースの様相を呈しており、コアファンからするとお祭り状態の豪華仕様。細かい部分だが、かつての「YAIBA」のアニメでは沖田が登場するエピソードに到達するまでに終了しており、彼の得意技「五段突き」がスクリーンで拝める『100万ドルの五稜星』は、YAIBAファンとしても垂涎の作品になっている。ちなみに5月8日にはなんと「YAIBA」の再アニメ化が発表。しかも今回は“完全アニメ化”“青山剛昌先生シナリオ完全監修”を謳っており、恐らく原作のラストまで初アニメ化されることだろう。

お約束のオープニング映像が年々凝っていったり、カメラワークやアクションシークエンスがダイナミックなものになったりするといった映像表現の進化、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』では“テロによる憎しみの連鎖”、『黒鉄の魚影』では“防犯カメラの世界連携による犯罪の抑制”、『100万ドルの五稜星』では“国の行く末(と戦争)”と社会性や現代性を盛り込んだテーマ性ほか、作品単体の質の向上と共に、エンターテインメントとしての分厚さを見せつける劇場版コナンシリーズ。贅(ぜい)の限りを尽くした『100万ドルの五稜星』の“先”をどうひねり出してゆくかも含めて、今後の動きにも期待したい。

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