子どもの「心の脆弱性」の背景にある家族との関係性【「不登校」「ひきこもり」を考える】

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【「不登校」「ひきこもり」を考える】#9

同じような育て方でうまくいくケースも世の中には数え切れないほど存在しているのも事実でしょう。ただ、なかにはそのやり方では、心に行き詰まりを抱えてしまう繊細な子どもだったと気づいたなら、何歳でも遅すぎることはないので、今からでもお子さんの心の声に耳を傾けて聴いていただきたいということなのです。

こういう子どもたちは、一見、学校のいじめや職場のトラブルなどを契機に、ひきこもりが始まったり、うつ病など心の病を患ったりしているように見えなくありません。しかし、そのあまりにも儚い心の脆弱性の背景には、重要な他者である家族関係も大きく影響することが精神医学的にも示唆されています。もっといえば、家族との関係性においてつらい感情処理の習慣が適切に育まれなかったために、挫折に弱いクセがついてしまっているのだとも説明されます。

言い換えるならば、不登校やひきこもりになる子どもたちの多くは、「小さい頃からずっと、自らの心を殺して我慢してきた」結果により生じた感情不全であり、親に忖度できるほど大人で賢い“いい子”ほど、不登校・ひきこもりになりやすいという印象が私にはあります。

実際、不登校やひきこもりに限らずに発達障害の不適応や依存症を含む大半の精神疾患に苦しまれる方も、その根本的なメカニズムはみな同じで、長く苦しんできたという患者さんに、「ずっと本音を押し殺す人生はさぞやおつらかったでしょう」とそのことを指摘すると、会ったばかりの初診においても、目を真っ赤にして涙を流される方が大半なのです。(つづく)

▽最上悠(もがみ・ゆう)精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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