土佐兄弟卓也×漫画家みそくろが語る学生時代の黒歴史

「高校生あるある」動画がTikTokやYouTubeを中心に人気を集める、お笑いコンビ・土佐兄弟の卓也。思春期に突入していく中学2年生の双子の姉弟を主人公にした漫画『思春期姉弟』(小社刊)。誰もが経験したであろうちょっと痛い、思春期ならではの日常が描いている漫画家・みそくろ。

それぞれの学生時代の経験や、実際に出会った人物をもとに作品・ネタを作っているという二人が、お互いの作品の魅力、忘れたいけど忘れられない学生時代の黒歴史を語ってくれた。

▲学校職員だったみそくろさんと教員免許を持つ卓也さんのスペシャル対談

「考える」というより「記憶をたどっていく」

――『思春期姉弟』では中学生時代のリアルな痛々しさなどを漫画で、土佐兄弟さんは主に「高校生あるある」をSNSに投稿されていますが、その題材やネタはどのように考えているんですか?

土佐兄弟 卓也(以下、卓也)僕らの動画のネタは主に弟が考えているんですけど、「文化祭の準備のときに腕まくりして仕切るヤツ」いたなとか、弟が学生時代に出会った子を思い出しながら再現してます。だから、「考える」というより「記憶をたどっていく」という感じですね。

▲ 土佐兄弟の青春チャンネル(YouTube)

みそくろ私も一緒で、記憶から引っ張り出していく作業のほうが多いですね。私は学校職員として働いていた経験もあるので、そのときに出会った子とかもキャラクターの参考にしています。

▲『思春期姉弟①』(小社刊)

卓也学校で働いていたんですね! じゃあ、僕らよりもいろんな学生と出会ってきたんですね。

みそくろそうですね。最近まで働いていたので、いろいろな子と出会ってきました。学生時代のことだけじゃなく、何かを表現するときは実際に見たもののほうが、ゼロから作るよりもリアリティが出るんじゃないかと思います。こういう人がいたら……と想像して描くと、セリフを言わせてる感じになるんですけど、実際にいた人を思い出しながら描くと、日常を切り取ったようになるんです。

――なるほど。でも、記憶をたどって表現するからこその苦労もあるんじゃないでしょうか。

卓也:ありますね。僕らの場合は4年ぐらい毎日投稿をしているので、InstagramとかTikTokには1500本ぐらい動画が上がってるんですよ。だから、だんだんネタが尽きてきて(笑)。普通の高校生だったら、もう卒業してますから。

みそくろ:たしかに(笑)。YouTubeをよく拝見させていただくんですけど、スクロールしてもしても違う動画があるので本当にすごいなと……。

卓也:さすがに記憶にある「高校生あるある」は出尽くしたので、最近は大学生バージョンをやったり、僕がメインで「あるある」とは逆の「なしなし」を投稿しています。「なしなし」だったら、あり得ないことをやるだけなので、延々に作れるんですよ(笑)。

みそくろ:ネタの多さに圧倒されますね……。しかも、これまでにやってきたキャラクターの幅も広いじゃないですか。だけど、どの子も「こういう子いたな~」って思えるのがすごい! 個人的には岡林(ダイゴウ)くんがすごく好きです(笑)。

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卓也:岡林くんですか! うれしい!

みそくろ:見ていてワクワクするんですよ。彼のキャラクターはもちろん、特徴的な挙手の仕方など細かい部分にまで彼の性格が表現されていて、すごいなと思います。

卓也:弟は憑依型なんですよ。形態模写というか、憑依させてキャラクターを演じているので、自然とそういう所作も表現できるんだと思います。そういう器用さがあるから、ものまねもできるんですよね。

中学生のときだったら大事件ですね

――さまざまなキャラクターで「あるある」動画を作っていますが、何か共通して意識していることはありますか?

卓也:「陰キャ・陽キャ」みたいなマイナス表現はしないようにしてます。それこそ岡林君も「陰キャ」と言われるようなタイプだと思うんですけど、「しゃべるときにすごく早口になるヤツ」みたいにマイナスな言葉は使わず、おもしろい部分にスポットを当てています。とにかく学生時代の楽しかった記憶だけを切り取って出したいんですよ。

――だから、どんな視聴者も楽しむことができるんですね。みそくろさんは学生時代を題材とした作品を描くうえで大切にしていることはありますか?

みそくろ:私は言語化できない、よくわからない感情も描くことを大切にしています。なんだかわからないけど、ドキドキするみたいな感情も味わってほしいなと。

▲『思春期姉弟』第2話より

卓也:たしかに、『思春期姉弟』で描かれている、あのときの感情はなんて説明していいかわかんないですもんね。

みそくろ:陽介が望月さんに抱いた感情って、言っちゃえばフェチなんですけど、フェチに目覚めたときって、自分でもよくわからないじゃないですか。そのときにしかない新鮮さというか。

▲思春期のまだ名前がつかない感覚を大事にしているというみそくろさん

卓也:そうですよね。僕も中学生のとき、ムラっとするものというか、なんでそれに興奮しているのかわからなかったですね。なんで興奮してるんだ? 俺はこれが好きなのか? 俺って変なのか? みたいな(笑)。

みそくろ:そういう性に対する感情って教わる機会がないから、初めて自分の中に芽生えたときは、その正体がわからず不安ですよね。

卓也:そうですね。本当に読んでいて、いろいろ思い出しました……。逆に読まなかったら、こんな感情になってたことさえ忘れてたと思います。陽介みたいに中学1~2年生の頃は、本当にちょっとしたことで顔真っ赤にしてましたよ(笑)。

みそくろ:そうだったんですね。

▲あの頃の感情を思い出したと話す卓也さん

卓也:あと、マジで俺もパンツを何回も洗いました。夢精って生理現象ですけど、親にも言えないから自分で洗うしかなくて。だから、初めて夢精したシーンは懐かしいんですけど、エモいとかではなく、あのときの感情のまま恥ずかしくなりました。遅かれ早かれ、みんな経験していると思うので、男子は読んで思い出してほしいですね。

みそくろ:共感してもらえてうれしいです。陽介の描写は私自身も迷いながら描いてるので。

卓也:男の子のああいうシーンは、どうやって描いてるんですか?

みそくろ:男性の意見を参考にしています。描いたあとも、「ちょっとこれ、男からしても下品すぎるかも」とか意見をもらったりしながら、すり合わせていくこともあります。

卓也:だからあんなにリアルなんですね。あと、最初の手がお尻に触れちゃうところ! 今だったらマジどうってことない、ただのアクシデントだけど、中学生のときだったら大事件だと思うんですよ。それを機に意識し始めちゃう感じとかね……。

みそくろ:大人になるとなんてことないようなことでも、このくらいの年頃だと一喜一憂しますからね。

一人称を迷って「おいら」に…(笑)

――思い出すと恥ずかしい、思春期ならではの言動など教えてもらえますか?

みそくろ:作品の冒頭に「僕からオレに変える」っていう描写を描いてるんですけど、 私も中学生のときに一人称を迷って、「おいら」と言ってたことがあって…(笑)。

▲『思春期姉弟』第1話より

卓也:それは恥ずかしいですね(笑)。でも、なんで「おいら」だったんですか?

みそくろ:女の子の一人称って「私」「うち」「自分の名前」の3タイプが定番だと思うんですけど、私のまわりは「うち」はちょっとギャル系の子、「自分の名前」はかわいい系の子、そうじゃない子は「わたし」みたいな感じだったんです。だから私も、もともとは「私」だったんですけど……。

『週刊少年ジャンプ』とか『週刊少年マガジン』を読んでいたり、スカートよりズボンほうが好きだったり、ショートカットだったりとか、女の子っぽい感じじゃないかもと思い始めて……。だけど、男の子ではないから、「僕」や「オレ」は違うなと思った結果、「おいら」になりました(笑)。

卓也:そのくらいの年頃って、自分らしさみたいなものに悩むことってありますよね……。そこからずっと「おいら」だったんですか?

みそくろ:最初は親しい友達にだけ使ってたんですけど……。ある日、教室の前に出てしゃべってるときに、「おいらは~」ってこぼれ出ちゃったことがあって(笑)。クラスのみんなに笑われたことはもちろん、担任にも苦笑されたのが一番傷つきましたね。それ以来、使わなくなりました。

卓也:それはかなりキツイっすね(笑)。僕は親の呼び方で悩みました。小学校低学年くらいのときは、「パパ・ママ」って呼んでたんですけど、ある日、急にそれが恥ずかしくなって「親父・おかん」ってなりました。「お袋」って呼ぼうかなとも思ったんですけど、さすがにそれははやりすぎか……とか(笑)。そういうので悩むのも、学生ならではですよね。

みそくろ:別に嫌いになるとかじゃなく、親との関わり方は悩みますよね。

卓也:僕の場合は、思春期真っ盛りのときは家族行事に参加するのも恥ずかったです。うちは年に一度、絶対に家族写真を撮るんですけど、中学1~2年のときだけ、僕いないんですよ(笑)。この日に撮るよって言われてたんですけど、「家族で写真撮るのとかダルいわ」とか言って、学校帰りにわざと寄り道して。そんな僕を見て、こういうふうにはならないようにしなくちゃと思ったらしく、弟は毎年参加してました(笑)。

▲一人称に親との関わり方、思春期の悩みはいろいろある

――そういう思春期の反抗って、今思えば、なんの意味もなかったなって思いますよね(笑)。

卓也:なります、なんならやめとけよ!って思いますね(笑)。僕、アメリカへの家族旅行も参加しなかったんですよ! それはマジでもったいないことしたと、いまだに思います。

みそくろ:えぇ! それは本当にもったいないですね(笑)。

卓也:本当に……(笑)。思春期の反抗的な感情からの行動って、「やめとけよ」ってことのほうが多いですよね。反発してることを表したいから、髪の毛を脱色して学校に行ったりとかもしてましたし……。そういうのを思い出すだけで恥ずかしくなってきます(笑)。

みそくろ:でも、大人目線だとそういう心の成長って、見ていておもしろいですよね。それこそ髪を染めてる子とかって、ちょっとツンとしていて“この子、クラスになじめるのかな”って心配になるんですけど、いつの間にか打ち解けていたりして。そういう状況は外から見ていてほっこりします。そういうのが青春なんでしょうね。

卓也:そうですよね。今の学校にも僕らが学生だった頃と同じように、ちょっと悪い感じの子っているんですか?

みそくろ:どうだろう……。でも、昔の「ヤンキー」っていう言葉に当てはまる子は、あまりいなかった気がしますね。目立ち方が違うかたちになってるんだと思います。金髪にしたり、ピアス開けたりみたいな目立ち方じゃなくて、YouTubeやTikTokでハジけるみたいな。

卓也:なるほど……。今は自分を発信できる場がいろんなとこにありますもんね。

――土佐兄弟さんのYouTubeでは、そういう現代の学生の子のあるあるとかもやるんですか?

卓也:まったくやらないです(笑)。たまにコメントで「休み時間にTikTok撮ってる生徒あるあるお願いします」とか、「Bluetoothのイヤホンであるある見たいです」みたいなリクエストもくるんですけど、弟は実際に見たものしか演じられないので、できないですね。

みそくろ:でも、そういうコメントがくるってことは、今の子たちも土佐兄弟さんの動画を見て共感しているんですよね。

卓也:いやー。TikTokっていう若者が見てそうなプラットホームでバズったから「若者に人気」って言われるんですけど、実際の視聴者層を見ると、僕らと同世代の人がほとんどで、 「懐かしい、こういうヤツいたわ~」って感じだと思うんですよ。学生の子も見てくれてるんですけど、ニュアンスでしか伝わっていない気がします。

――では、最後に二人から『思春期姉弟』で描かれる陽介やみかげのように、今、悩みを抱えている中高生にメッセージをお願いします

みそくろ:『思春期姉弟』でも、大人から見たらどうってことのないことに悩む様子を描いているんですけど、そういうことに葛藤するのって、みんなが経験することだから、「全然大丈夫だよ」とは言いたいですね。

卓也:そうですよね。自分が変なのかなって思っている子がこれを読んだら、みんなもこういうことで悩んでるんだって気づけると思います。みんなも同じように悩んでるっていう事実を知るだけでも、ちょっと落ち着きますし。

(聞き手:梅山 織愛)


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