読者に大きな衝撃!「昭和の少女漫画」数奇な運命を生きた“主人公たちの最期”

フラワーコミックス『BANANA FISH』第1巻(小学館)

「漫画・アニメの主人公は死なない」、そんなイメージを持っている人も多いだろう。たしかに、子ども向けの作品はそういった傾向が強い。しかし、中には主人公に突如悲しい死が訪れ、読者に衝撃を与えた作品もある。今回は、そんな衝撃的な死を遂げた主人公たちを、昭和の少女漫画に絞って振り返っていきたい。

■時代に翻弄される人々を史実に基づいて描く『ベルサイユのばら』

フランス革命に揺れるベルサイユを舞台にした歴史ロマン『ベルサイユのばら』。1972年に『週刊マーガレット』(現:『マーガレット』)で連載が始まり、社会現象を巻き起こした池田理代子さんによる名作漫画だ。

主人公は、男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェとマリー・アントワネット。そこにアンドレ・グランディエやハンス・アクセル・フォン・フェルゼンなど、魅力的な人々の想いが絡む。

同作は史実に基づいたフィクションゆえ、多くの人物が悲劇的な結末を迎えている。中でも、絶大な人気を誇ったオスカルの死にショックを受けた読者は多いだろう。

アンドレの愛を受け入れたオスカルは、革命直前ついに彼と結ばれる。アンドレの長年の想いが報われたこの瞬間、多くの読者が涙したものだ。しかし、7月13日、飢えに苦しむ民衆が暴動を起こし二人の運命が変わる。

オスカルは「人は平等で自由であるべき」という信念のもと、身分を捨て民衆の側に立った。が、その戦の中でアンドレがオスカルをかばって落命してしまう。

廃兵院を襲撃した民衆の勢いは止まらず、バスティーユ牢獄襲撃へと動き出す。オスカルはアンドレの死を嘆き、悲しみを抱えたまま牢獄に攻撃を仕掛け、陥落まであと一歩というところまで追い詰める。

だが、彼女も複数の銃弾を浴び、致命傷を負ってしまう。瀕死の状態で衛兵に指示を出し、先に逝ったアンドレを想いながら死を受け入れたオスカル。その瞬間、牢獄に白旗が上がり、民衆の勝利が確定する。

オスカルは全てを見届け、「自由…平等…友愛… この崇高なる理想の永遠に人類のかたき礎たらんことを… フ…フランス…ばんざ…い…!」と言い落命した。

女に生まれて男として育てられ、軍人として戦に身を投じながら、女としてアンドレへの愛を支えに生きた勇敢なるオスカル。「この戦闘が終わったら結婚式だ」という彼女のセリフが実現してほしかった。

■80年代のNYを舞台に繰り広げられるサスペンスアクション『BANANA FISH』

1985年から『別冊少女コミック』(現『ベツコミ』)で連載されていた『BANANA FISH』は、少女漫画ではかなり珍しい、吉田秋生さんによる本格的なクライムサスペンスアクション漫画。新種のドラッグ「バナナフィッシュ」を巡って巻き起こる抗争、主人公のアッシュ・リンクスと奥村英二の友情など、読者をひき込んでやまない魅力に溢れた名作だ。

アッシュは、IQ210の頭脳を持つストリートキッズのボス。クールな性格に高い格闘スキルを兼ね備えていて、圧倒的な存在感を放っていた。一方の英二はストリートキッズを取材しにきた大学生で、荒くれた世界とは無縁の青年。穏やかで、慈愛に満ちた癒し系である。

そんな正反対の二人がNYで出会い、血生臭い抗争に巻き込まれながら絆を深めていく。だが、一連の抗争にカタがついた最後に悲劇が起こる。

怪我から復帰した英二は日本に帰国することになり、図書館にいるアッシュに届けてくれと、手紙と日本行きのチケットをシンに託す。

手紙には、英二の暖かい想いが綴られていた。暗い過去を持ち一人で生きてきたアッシュにとって、自分の孤独を理解して受け止めてくれた英二の存在はどれだけ大きく尊いものだっただろうか。

手紙を読んだアッシュは急いで空港へ向かうが、図書館を出た瞬間、事態の終息を知らずに待ち伏せしていたラオに刺されてしまう。しかし、病院にいくことはせず図書館に戻ってもう一度手紙を読み涙を流すアッシュ。そして、穏やかな笑顔を浮かべて命を落とした。

「君は僕の最高の友達だ」、手紙に書かれていたこの言葉にアッシュは救われたのだろう。二人が「友達」という言葉では表せないほど深い絆で結ばれていたことがわかるからこそ、彼の死は読者にとってもショックが大きかった。そして、残された英二を思うと胸が痛くてたまらなくなる。

■学生刑事・麻宮サキが悪に挑む『スケバン刑事』

『スケバン刑事』は、1975年から『花とゆめ』で連載されていた和田慎二さんによる学園刑事漫画である。ストーリーは、“脱獄不可能”というアルカトラズばりの少年院「地獄城」に収監されていたスケバン・麻宮サキが、暗闇警視に学生刑事としてスカウトされ、私立探偵の神恭一郎とともにあちこちの学校で起こる事件を解決していくというもの。

1985年から放送されたテレビドラマシリーズも人気を博した同作は、難事件に挑む主人公が女性刑事ではなく女学生、さらにヨーヨーを武器にする「スケバン」という斬新な組み合わせが読者の心を掴んだ。第二部からは敵のスケールが大きくなり、身に迫る危機も大きなものとなっていった。

最大の敵は、日本の転覆を図る悪の根源・信楽老。原作者・和田さんの漫画にたびたび登場する彼は、幕末から同じ姿で生きているという摩訶不思議な人物だ。サキは信楽老の企む陰謀を止めるべく彼が拠点としている「梁山泊」に潜入し、戦いを挑んだ。しかし、それが彼女の身に悲劇をもたらしてしまう。

自身の野望のために多くの人を殺してきた信楽老は、人間らしからぬ力をみせる。そして、その戦いの中で神が命を落としてしまった。サキは一人で立ち向かい大ピンチに陥るが、命を落とす直前に神が握っていた銃が死後硬直によって発砲されたことで形勢逆転し、信楽老を倒すことに成功する。

が、サキもまた傷が深く、脱出用ポッドの中で息絶えてしまった。後日、鷹ノ羽高校の卒業式にサキが現れる。皆の前で卒業証書を貰った彼女は、「このヨーヨーももうあたしには用なしだ みんな… あとは頼んだぜ!あばよ!」と笑顔でヨーヨーを投げ、学校を後にした。

入れ違いで現れたムウ=ミサはその話を聞き、驚きながらサキが半年も前に死んでいることを告げる。皆ショックを受け、最後まで学校と仲間を愛していたサキを想い、涙を流すのだった。

バッドエンドにショックを受け、「読後何も手につかなくなった」という読者は当時も多かっただろう。できれば生きて、幸せになってほしかったと願うところだが、しかし、彼らが残した功績や人との絆は今なお色褪せない輝きを放っている。

© 株式会社双葉社