芸能プロ倒産ラッシュの背景とは 「フワちゃん」と「旧ジャニーズ事件」の影響も?所属タレント独立も逆風

芸能人やタレントのマネジメントを行う芸能プロダクションの倒産・休廃業が相次ぎ、過去5年間で最多であることが、帝国データバンクが2024年5月6日に発表した「芸能プロダクション(事務所)の倒産動向」でわかった。

所属タレントの独立や、ユーチューバーの台頭などが逆風になっているが、エンタメ業界全体が曲がり角にきているようだ。調査担当者に聞いた。

壇蜜、大東駿介、吉岡里穂さんらの各事務所が倒産

帝国データバンクの調査によると、2023年は芸能プロダクションの倒産が目立つ1年となった。合計12件発生した。前年(4件)の3倍に増加したほか、過去5年間で最多となった【図表1】。

(図表1)芸能プロの倒産件数推移(帝国データバンクの作成)

主な有名事務所の倒産をみると、2023年10月にはVR(バーチャルリアリティー)アイドル・グループ「えのぐ」や、VRデュオ・アーティスト「Marpril」(マープリル)などが所属していた岩本町芸能社(東京千代田区)が廃業することを発表した。初のVRタレント専門の芸能事務所として注目を集めていた。

同10月には俳優の大東駿介さん、内倉憲二さん、伊藤麻実子さんらが所属していたA.L.C.Atlantis(エー・エル・シーアトランティス、東京港区)が破産した。

2024年に入っても倒産ラッシュは収まらず、同3月、タレントの壇蜜さん、吉木りささんらが所属していたフィット(東京渋谷区)が破産した。フィットは、グラドルとして一世を風靡した大原がおりさんをはじめ、かつては乙葉さんや杉原杏璃さんも所属したグラビア業界の老舗。

そして4月には、女優の吉岡里帆さん、臼田あさ美さん、酒井若菜さんらが所属していたエー・チーム(東京港区)が休業を発表するなど、芸能プロの行き詰まりが表面化している【図表2】。

(図表2)主な有名事務所の倒産・休廃業(帝国データバンクの作成)

帝国データバンクでは、芸能プロの倒産が急増している理由を、こう分析している。

「近年は、テレビ局の制作費削減に伴う出演料の減少や、番組の整理・終了といった状況に直面したほか、SNSの台頭でYouTuberやインフルエンサーとして活動する個人も増え、芸能プロが従来得意としてきた新人タレントの発掘なども難しくなっている。
こうした逆風の中で、所属タレントの独立、創業者の死去・体調不良といった社内事情が加わり、倒産や廃業に至る芸能プロが目立った」

芸能プロの力がなくても、芸能界で活躍できる時代

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。

――芸能プロの倒産が相次ぐ背景には、やはりテレビの凋落があるのでしょうか。

飯島大介さん そのとおりです。テレビ広告費は、すでに2021年にインターネット広告費に抜かれていますが、それ以上に大きいのはメディアとしての影響力が落ちていること。昭和・平成では家庭で見る娯楽動画といえば、テレビしかありませんでした。スポンサーももっぱらテレビCMで宣伝していました。

今では、テレビを見る若い人が少なくなり、「テレビ一強」から「エンタメの分散化」状態です。ユーチューブ、X(旧ツイッター)、TikTokと楽しい動画があふれ、自分で発信できるコンテンツが多くなっています。

スポンサーにとってもテレビよりSNSを使って商品を宣伝するほうが、効果が上がる時代です。芸能プロに入らなくても、ユーチューバーやインフルエンサー、ライバーとして個人で芸能活動ができるようになりました。

――たしかに、たとえば吉本興業を退社したオリエントラジオの藤森慎吾さんや、旧ジャニーズ事務所を退所した元NEWSの手越祐也さんのように、自分のYouTubeチャンネルを持って活動する人が増えていますね。手越さんは退所会見を自分のYouTubeチャンネルで行ない、百数十万人の視聴者がリアルタイムで視聴したほどです。

飯島大介さん 芸能プロの力がなくても、YouTubeで大受けしてメディアで活躍する先陣を切ったのは、「フワちゃん」ではないかと思います。「フワちゃん」はワタナベエンターテインメントをクビになったという話をテレビでされていましたが、明るいキャラクターのユーチューバーとして大成功し、逆に現在ではテレビでもひっぱりだこになっています。

つまり、「フワちゃん」のように一芸に秀でているところがあれば、芸能プロに所属しなくても、誰でもSNSを使って芸能界で活躍できる時代になったということです。

芸能プロ独特の「重要プレイヤーの退陣」現象

――テレビの凋落とSNSの台頭が、芸能プロ倒産ラッシュの主な理由ということですか。今回の調査では、帝国データバンクの過去の倒産報告によくある負債額や取引状況などの分析がみられないのが不思議です。

飯島大介さん 正直に言って芸能プロの倒産には、ゼネコンの倒産などでは重要な要素になる負債額の増加や、取引状況の悪化などはそれほど意味がないように思えます。つまり、本当の理由がよくわからないのです。

芸能界の人脈に強い経営者の引退とか、稼ぎ頭の看板タレントの退所といった「重要プレイヤー」の退陣が倒産に追い込まれた直接の引き金と思われます。そこが、芸能プロの倒産がほかの業種と違う独特なところですが、なぜプレイヤーが退陣したかとなると、明確な理由がわかりません。

――どういうことですか。

飯島大介さん おそらく、ギャラがからんでいると考えられます。昔なら看板タレントが稼いだ分の多くを、事務所が発掘した新人タレントたちの育成費に回していました。看板タレントも事務所に育てられた恩義があるし、事務所を辞めると芸能界ではやっていけないから、我慢をして後輩の面倒をみていたと思います。徒弟奉公の世界ですね。

しかし、今は全体的に芸能プロの仕事が減り、余裕がなくなっています。自分でマネジメントできる能力のある大物タレントたちがどんどん独立しています。それが、芸能プロの倒産ラッシュにつながっているのかもしれません。

芸能プロの再生は、専門知識によるタレントのサポート

――旧ジャニーズ事務所の事件も、芸能プロの倒産ラッシュに影響を与えていますか。

飯島大介さん 旧ジャニーズの事件では、大手芸能プロとテレビ局、そしてメディアとの間の癒着が問題になりました。あくまで推測になりますが、それまで芸能事務所を辞めると「干される」という風潮があり、その恐怖が所属タレントのプレッシャーになっていたと思われます。

しかし、あの事件以来、大手芸能プロといえども独占的な営業が許されない環境になりました。国民とメディアの目が光っています。芸能プロの力が弱まり、その後、実際に独立する人がどんどん増えているとも聞きます。

――となると、もう芸能プロの時代は終わったということでしょうか。

飯島大介さん いえ、終わっていません。これまでのビジネスモデルは通用しなくなっていますが、多忙な所属タレントの活動をサポートする役割は重要です。

たとえば、ファンクラブの運営や出演番組の交渉、スケジュールの管理などのマネジメントする役割に加え、トラブル対応などの役目もあり、まだまだ存在意義は大きいです。

個人活動をするタレントの中には、脱税が問題になるケースがありますが、税務面で専門知識のあるスタッフが支えていけば、タレントも事務所に所属するメリットを感じるでしょう。どうアピールできるか、芸能プロ各社の手腕が問われています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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