医療的ケアが必要な人の家族が働くカフェ 仙台にオープン「社会とつながりたい」親たちの思いとは

重い病気や障害のために痰の吸引など医療的ケアが日常的に必要な人たちがいます。その医療的ケアを担っているのは多くが親や家族で、仕事に出ることも難しい毎日を送っています。そうした親たちが働く場として、5月1日、仙台市内にカフェがオープンしました。
「働きたい」「社会とつながりたい」という親たちの声に応える取り組みです。

仙台市泉区西田中に、5月1日にオープンした「カフェ・ドゥ・チルミル」。
屋根付きのテラスに設けられたのはおよそ15席。店では通常の接客だけでなく、来店者自身がコーヒーを入れたりホットサンドを作ったり、アウトドア感覚で楽しむこともできる店です。
「おいしいですね。自分で作ったからかもしれない。」
「いい景色の中でちょっとしたキャンプ気分味わえていいと思う。」
「よく通る道なんですけれど、この施設自体も気付かなかったし、こんな素敵なところにあるのなら、また是非来たいと思う。」

店のスタッフは30代から70代の女性6人。全員が、日常的に医療的ケアを必要とする子の親です。たんの吸引や胃ろうなど子どもの医療的ケアを担う毎日の中で、仕事に出ることは難しく、ほとんどの人が、出産後初めて働くと言います。

息子が脳性麻痺を患う伊勢節子さん(75)
「(働くのは)50年ぶりです。すごく嬉しいというか、今まで家の中がほとんどだったので、すごく楽しい。」

息子が脳性麻痺を患う高橋邦子さん(55)
「今まで手帳・カレンダーには、子どもの予定ばかり書いてあったのが、今は自分の勤務時間があって。夫からの明日の予定は?と聞かれて、ちょっとにやけながら仕事って言っています。」

宮城県の調査によると、県内で、医療的ケアの必要な人は634人。そのケアは多くが親や家族が担っています。国が行った調査では、こうした家族の半数の人が、「社会から孤立していると感じる」と回答しています。
また、日々の生活が「緊張の連続である」と回答した人は7割近くに上り、孤立を感じながら、患者である家族のケアで心が張り詰めた毎日を送っていることが窺えます。

スタッフの一人、川代葉月さん(37)。川代さんにとっても「働く」ことは特別なことです。

梅島三環子アナウンサー
「どうですか?働く時間が出来るのは?」
娘が脳性麻痺を患う川代葉月さん
「自分の時間を持てることが今まで無かったので、自分の人生にまた目を向けられる有難いと思って過ごしている。」

川代さんは、長女の綾寧ちゃん(6)が脳性まひのため、医療的ケアを必要としています。多い時には、1時間に1度必要となるたんの吸引。他にも、呼吸状態の確認やご飯と水分の注入など目が離せません。
会社員の夫が仕事で家計を支え、家では、妻の川代さんが、ほぼ一人で綾寧ちゃんの世話をしています。

川代葉月さん
「看護師さんや病院の先生など、綾寧の周りの人と接する機会はあるけれど、他の社会とのつながりが無くて、自分の友達さえも、本当に仲がいい綾寧の事情を話せる人以外は連絡も取らなくなってしまった。孤立感とか疎外感はある。」

今回、同じ境遇の親たちと働ける機会があることを知った川代さん。初めは、働くことをためらったと言いますが、綾寧ちゃんの利用しているショートステイ施設に併設されたカフェであること、体調の変化にも対応できる柔軟なシフト体制など綾寧ちゃんに負担をかけずに働ける環境整備がされていることを知り、一歩を踏み出しました。

川代葉月さん
「自分も家族もきょうだいも色々なことを綾ちゃんがいるから出来ないというのが違うよなって思ったりしていました。周りのお母さんたちのチャレンジしようという姿も存在も大きくて、だったら私もやってみようかなって。」

川代さんは、綾音ちゃんが特別支援学校やデイサービスに通っている平日の週3日、4時間から7時間ほど働くことにしました。同じ境遇の親たちと協力しながら一つ一つの作業に取り組みます。

川代葉月さん
「色んなことを乗り越えたお母さんたちなのでとっても優しくて話しやすい。とっても働きやすいです。今まで働くという選択肢が無かったので、自分の人生の選択肢が一つできてわくわくと緊張とという感じ。」

しかし、こうした親たちの就労を守る支援制度はありません。
カフェを手掛けた社会福祉法人「あいの実」は、医療的ケアの必要な人の通所施設などを運営しています。本業とは異なる事業ですが、このカフェの存在は社会にとって大きな意味があると考え、クラウドファンディングなどで開設費用を賄いました。

あいの実 久保潤一郎専務理事
「障害を抱えている方、本人の支援はだいぶ進んでいると思うけれど、周りにいる家族とかそういったところの支援がなかなか進んでいない。そういう家族がいるんだと初めて知る方もいらっしゃると思います。知らないとどうしても目が向かないし、支援につながらないので知って頂くことが第一歩、そのためにこの場所が有意義なものになればと思っています。」

重い障害がある子を持ち、日々懸命に世話をする親たちにとって、新たな世界を開く取り組みが始まりました。

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