ちゃんみな「弱い自分があなたを助けてくれる日が来る」 人生を体現したエンターテインメントショー

ちゃんみなの全国ツアー『AREA OF DIAMOND 2』の追加公演が4月27、28日に神奈川・ぴあアリーナMMで行われた。彼女が全国ツアーを行うのは約2年ぶりのことで、昨年12月から今年1月にかけて全国6都市8公演を巡ったほか、3月には韓国、香港、台湾で自身初のアジア単独公演も開催。その総仕上げに相当する本追加公演は、単独公演としては自身初となるアリーナ2デイズでの開催となった。その最終日の模様を以下にお伝えする。

大型連休のスタートをちゃんみなとともに切るべく、横浜みなとみらいには約9千人を超える熱心なファンが集結。会場内のコンコースには記念撮影用のフォトスポットパネルが設置されており、開演前にはテーマパークと見まがうばかりの長蛇の列が形成されていた。そこから客席に一歩足を踏み入れると、これまたアリーナ席から4階席までをおびただしい数の観客が埋め尽くしている。これだけの人々が1人残らず全員、ちゃんみな1人だけを目当てに集まっているわけだ。時代のポップアイコンとして着々とその影響力を拡大し続けている彼女の勢いが可視化されたような光景がそこには広がっていた。

開演時刻を迎え場内が暗転すると、ステージには真っ白なワンピースを身にまとった謎の少女が1人、ゆっくりと歩いて姿を現した。何が起こっているのかと客席がざわつく中、少女はお辞儀をして舞台中央に備えられたグランドピアノ前にしずしずと着席。聴衆が戸惑いながらも盛大な拍手を送ると、少女はおもむろに鍵盤に指を落とし、誰もが聴き覚えのある繊細なワルツの旋律を奏で始めた。チェロの独奏曲としてよく知られる、カミーユ・サン=サーンスの「動物の謝肉祭」第13曲「白鳥」だ。そのひたむきな演奏に、息を殺して目と耳をこらすオーディエンスたち。まるでピアノ発表会の会場へと空間転移したかのような不思議なムードがアリーナを包み込み、ピアノ演奏が終わると場内は再び暗闇に包まれた。

すると不意にアブストラクトなシンセサイザーサウンドが場内に響きわたり、ケミカルテイストの照明が場内を鋭く照らし始める。ステージ上段にはいつの間にか巨大な真珠貝型の貝殻が鎮座しており、SEのBPMに同期してピカピカとネオンカラーに発光している。アリーナ内は一気にピアノ発表会会場からダンスクラブへと瞬間移動したかのような様相を呈した。一瞬すべての音がやみ、あたりが静寂に包まれたのち、オープニングナンバー「Baby」のイントロとともに貝殻が口を開ける。その中から真っ赤なドレスに身を包んだちゃんみなが姿を現すと、場内には轟音のような歓声が巻き起こった。

そのまま貝柱よろしく貝殻内部で1曲歌いきってみせた彼女は、続く「RED」で殻の外へと飛び出し、ステージ前方に設けられた花道を通ってセンターステージへ。アグレッシブなダンスパフォーマンスとともに力強いボーカルをオーディエンスに届けると、色とりどりに輝くペンライトの海はますます激しく波打った。その後もサポートダンサー隊を交えてのシンクロダンスやバレリーナに扮したダンサー隊をフィーチャーしたパート、ステージ上に設置したロイヤルなソファを使ったセクシーなパフォーマンスなど、曲目ごとに趣向を凝らした演出を次々に連発。楽曲のみならず、ビジュアル面でも存分に聴衆を魅了していった。

「おととい出たばっかりの新曲」と前置きして披露された「FORGIVE ME」で客席を沸かせたあとは、「BEST BOY FRIENDS」に端を発するアダルトゾーンへ突入。男性ダンサーと体を絡ませ合う蠱惑的なダンスパフォーマンスで悲鳴のような黄色い歓声をたびたび巻き起こした。かと思えばバンドがムーディーなインストゥルメンタルナンバーを奏で始めてがらりと空気を一変させ、さらにダンサー隊が街中を行き交う人々に扮し、都会の雑踏を表現したステージ上でエレキギターを抱えたちゃんみなが「Biscuit」「サンフラワー」をあぐらスタイルで高らかに歌い上げるブロックなど、ステージは目まぐるしく彩りを変化させていった。

ライブ終盤では、“人生にはためになる別れもある”ということを学んだ曲だと語る「Never Grow Up」、盛大なシンガロングを巻き起こした「ハレンチ」、「あなたたちの曲です。歌えよ!」と訴えかけて会場をひとつにした「美人」などを畳みかけたちゃんみな。その後、不意にスクリーンに幼少期のちゃんみなを捉えたホームビデオ映像が映写され始めると、そこには真っ白なワンピースを身にまとった小さな彼女が「白鳥」をひたむきに演奏する姿が収められていた。この映像に導かれるように黒ドレス衣装に姿を変えた現ちゃんみなが「ダリア」を情熱的に歌い上げたのち、彼女は改まった様子で「私がこのツアー、そしてこのショーを考えたときには、今思えば私の精神状態はとっても悪くて」と神妙な口ぶりで話し始めた。

「どうして私ばっかり報われないんだろう。思えばずっとそんなことを思ってきたかもしれない。小さい頃はいじめに遭っていて毎日死にたい気分でした。中学生になったときは両親と対立して、『どうして両親もわかってくれないんだろう』って。そしてデビューしたときは『ヒップホップでもねえしロックでもねえ、あいつなんなんだよ』って言われ続けて。どうして私ばっかり、どうしてこんなこと言われなきゃいけないんだろうってずっと思ってました」と言葉を続ける彼女。「それで私の中にいる、幼いときの自分がどっかに行ってしまった気がして。その子を取り戻したくて、このショーを思いついたんです」と、このライブの構成意図を明らかにした。そして「もしみんなにも私みたいに、自分の中にいるちっぽけな、自信がなくてウジウジしている自分がいたら、どうかその子を追い出さないで、どうか抱きしめてあげてください。いつか、そんな弱い自分があなたを助けてくれる日が来ると思うんです」と切実な口ぶりで訴えかけ、温かな拍手を呼び込んだ。

センターステージに準備されたグランドピアノ前にスタンバイしたちゃんみなは「次の曲は、そんな小さな自分が私に書いた手紙だと思ってます」と告げ、アンセミックなソウルポップナンバー「Good」を晴れやかに歌唱した。舞台上段にもグランドピアノが再度出現しており、そこには本公演冒頭に現れた少女が再び降臨。同曲の後半で2人での連弾も披露された。演奏を終えた少女が幻のように姿を消したあとは、センターステージに残ったちゃんみなが滝のような雨が打ちつける特効とともにラストナンバー「太陽」を高らかに歌い上げ、感動的にフィニッシュ。

アンコールでは、「花火」「Angel」「TOKYO 4AM」を健やかな歌声で軽やかに披露。彼女にとって非常に実りが多かったという長いツアーは、こうしてオーディエンスともども深い達成感に満ちたムードで幕を下ろした。

(文=ナカニシキュウ)

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