あたしらが今、“まぁまぁの幸せ”を享受できてるのって誰のおかげ? その答えを映画「94歳のゲイ」から知ることは、絶対に必要なの。

__映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映画をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第57回目__

4月のTRP楽しんだ方〜、はーい! たくさんのお若い皆さんが楽しんでいらっしゃるのを見て、横目で見ていたおばちゃん(仕事中だったもので)、感無量でしたわ。そこであたしなんかよりもずっとずっと感無量だった95歳の参加者がいらしてたの、ご存知かしら。大阪は西成からいらした長谷忠さん。カミングアウトしているゲイとしては日本最高齢ではないかしら……。そんな長谷さんの人生を追ったドキュメンタリー映画『94歳のゲイ』が全国順次公開中なので絶対に観て!

これ、じつは関西では2022年にMBSで放映された『93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~』というドキュメンタリー番組がオリジナル(なので、既視感ある人もいらっしゃるかと)。その撮影時からかなりアップデートされた情報があり、再編集して劇場公開版の本作ができたわけです。
長谷さんが生きた時代はまさに激動。50代のあたしですら価値観が激動したんだから、90代のパイセンはもっとでしょう……なんてもんじゃない。だって、80年代までの同性愛者の位置づけは「異常性欲」「変態性欲」だったし、90年代まで治療が可能な「病気」扱いでしたから。

気になる男性がいても、恋愛感情と憧れの間の微妙なところで抑圧していたところ、40代にして登場したゲイ雑誌『薔薇族』を知って開眼。だって、それまで「世界で自分一人しかいない」と思っていたんだから、同じセクシュアリティの人がいることを知っただけでも救われたわけです。

TRPなど、ヤフトピにあがるような大型イベントが行われるたびに「活動家が〜!」とか「もっと目立たないようにやれ〜!」とか、当事者の中にもいろいろおっしゃる方いらっしゃいますけど、ちょい待ち。今、あたしらがまぁまぁの幸せ(まぁまぁというところがポイントね)を享受できているのは、長谷さんが経験した「秘匿しないと生きられない時代」に可視化・顕在化を率先した人たちのおかげなのよ。そんなブレイクスルーは何度かあったけど、今もまだブレイクスルーが必要な状態。だって、まだまだ自分らしく生きられないことで、生きるか死ぬかって苦しんでいる人がいるんだもの。それをこの映画で知ることは絶対に必要なことですのよ。当事者としても当事者じゃない人にしても。

さて、『93歳の〜』から劇場版にアップデートされた理由は、ここ数年の長谷さんを取り巻く環境の変化。それはスクリーンで。TRPに参加した長谷さんのインタビューも貴重なので、[(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1130259)もぜひ読んでね。

■94歳のゲイ
監督:吉川元基
出演:長谷忠 ほか
公開:現在、全国順次ロードショー中

文/よしひろまさみち [(https://twitter.com/hannysroom)
イラスト/野原くろ [(https://twitter.com/nohara96)
記事制作/newTOKYO

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