三菱自動車、2023年度通期決算は過去最高の売上高2兆7895億8900万円、営業利益1909億7100万円を計上

by 佐久間 秀

2024年5月8日 開催

2023年度の通期決算説明会で説明を行なう三菱自動車工業株式会社 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏

三菱自動車工業は5月8日、2023年度通期(2023年4月1日~2024年3月31日)の決算を発表した。

2023年度通期の売上高は前年同期(2兆4581億4100万円)から13.5%増となる2兆7895億8900万円、営業利益は前年同期(1904億9500万円)から0.2%増の1909億7100万円、営業利益率は6.8%、当期純利益は前年同期(1687億3000万円)から8.3%減の1547億900万円。また、グローバル販売台数は前年同期(83万4000台)から1万9000台減の81万5000台となった。なお、売上高の2兆7895億8900万円、営業利益の1909億7100万円は過去最高の数字となっている。

三菱自動車の2023年度通期における業績サマリー

構造改革の実施により、中国市場では販売台数がほぼ半減

三菱自動車工業株式会社 代表執行役副社長(CFO)松岡健太郎氏

オンライン開催された決算説明会では、2022年度通期の決算内容について三菱自動車工業 代表執行役副社長(CFO)松岡健太郎氏が解説。

2023年度の通期決算は、下期に入って半導体や船腹の不足に起因する在庫不足がおおむね解消され、販売現場でも販売競争が正常化。しかし、アセアン地域の一部で自動車総需要が大幅に減少したことが三菱自動車の経営環境に影響を与えている。

これによって売上高は13%以上の増加になりつつ、競争激化、資材費・輸送費悪化を受け、営業利益は0.2%増の微増に留まった。また、前年同期から8.3%減となった当期純利益については、2023年度に実施した中国事業の見直しの影響に加え、2022年度に行なったロシア市場からの撤退による損失の影響が残ったことで減益となっている。

2023年度通期のグローバル販売台数と市場別の内訳

前年同期から2%減の81万5000台となったグローバル販売台数では、「アウトランダー」シリーズが販売を牽引した北米市場、「デリカミニ」が好評を博した日本市場で大きく販売増となったが、それ以外の市場では販売が減少。全体需要が大きく落ち込んだアセアンで影響を受け、豪州・ニュージーランドでは港湾の混雑による内陸輸送の停滞、中南米、中東・アフリカほかでは生産回復による競争の激化やモデル切り替えタイミングの影響で販売減となったほか、中国市場では2023年度に構造改革を実施したことにより、販売台数が前年からほぼ半減にまで落ち込んでいる。

2023年度通期の営業利益変動要因
2023年度第4四半期の営業利益変動要因

2024年度は営業利益1%減の1900億円、当期純利益7%減の1440億円を計画

2024年度の業績見通しについて説明する加藤社長

すでにスタートしている2024年度の業績見通しについては、三菱自動車工業 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏が解説を実施。

2023年度には「トライトン」「エクスフォース」といった新型車をタイ、インドネシアを皮切りに市場投入したが、この2市場でとくに大きく需要の停滞が発生しており、旧型モデルの売り切り、新型車の販売立ち上げにも苦労して新型車の投入効果を十分に得られていないと現状について説明。2024年度は上記2台の新型車をフィリピンなど経済が好調に推移している他市場にも展開していき、新型車効果を拡大していきたいと意気込みを語った。

三菱自動車の2024年度業績見通し

2024年度の業績見通しとしては、売上高は3%増の2兆8800億円、営業利益は1%減の1900億円、当期純利益は7%減の1440億円、グローバル販売台数は10%増の89万5000台を計画している。収益計画に基づく株主配当は15円/株への増配を予定しており、将来の成長に向けた投資についても今年度中にめどを立て、さらなる株主還元策も鋭意検討を進めていくとしている。

2024年度のグローバル販売台数見通し
2024年度の業績見通しにおける営業利益変動要因

2024年度における重点取り組み

「トライトン」「エクスフォース」を他地域にも展開

続いて加藤社長は、これらの計画を達成するために進めていく2024年度の重点取り組みについて説明した。

三菱自動車にとっての成長ドライバーと位置付けているアセアン・オセアニアでは、タイ、インドネシア、ベトナムなどの市場が回復するまで一定の時間を要すると予測しつつ、新型車のトライトンやエクスフォースが周辺地域への展開を進めており、各国市場で堅調な受注を得ていること、投入地域をさらに拡大していく計画であることによって販売台数を維持、拡大。ブランド価値をさらに高めていく。

アセアン・オセアニア地域での成長戦略

2023年度からタイで急速に販売台数が拡大したBEV(バッテリ電気自動車)は2024年に入って台数増に急ブレーキがかかっており、BEV販売が踊り場に入っているとの見方を示し、これに対して三菱自動車が2月からタイで販売を開始した「エクスパンダー ハイブリッド」はユーザーから好評を博しており、今後もニーズの高い“三菱自動車らしい”ハイブリッドカーを市場投入していく計画で、アセアンの脱炭素化に貢献しつつさらなる成長を目指していく。また、ハイブリッド技術を活用しつつ、将来的なBEV市場の再成長も並行して見据えて取り組むとした。

中南米・中東アフリカでの成長戦略

中南米・中東アフリカでは、中南米のブラジルで自動車需要の微減が予想されているが、チリやペルーなどの市場でインフレの収束、政策金利の引き下げによって需要増を期待しており、「L200 トライトン」や「アウトランダー スポーツ」といったニューモデル投入によって販売強化を図る。さらに他市場でも好調な「アウトランダーPHEV」も順次発売して、販売の質向上を伴った販売台数増加を目指していく。

中東ではイスラエルでの紛争解決が見通せず大きな懸念となっているが、周辺各国の総需要は前年同期に近い水準になるとの予測で、アウトランダー、エクスパンダーといった人気車種に加え、2024年度第1四半期にL200 トライトンを販売ラインアップに追加。ローンチイベントやキャンペーンを実施してL200 トライトンの新型車効果を最大化していく。さらに一部の国にエクスフォースを投入してSUVラインアップの強化を図り、ブランド力の向上、販売力の底上げなどを実施していく。

日本・北米・欧州での成長戦略

先進技術推進地域となっている日本・北米・欧州については、日本国内ではメーカー各社で在庫水準が正常化して堅調に販売が推移すると想定。“三菱自動車らしさ”を象徴するデリカミニやトライトンが好調な受注を堅持しており、この2モデルを販売のてことしてアウトランダーPHEV、エクリプス クロス、根強い人気を誇る「デリカD:5」などによっていっそうの販売拡大、ブランド力の向上を図っていく。

北米では金利が高止まりする可能性や景気鈍化といったリスクを織り込みつつ、在庫回復とフリート需要の伸張によって自動車需要が2023年度を上まわると予測。同時に競争環境もじわじわと激化しており、販売対策金などを適切にコントロールしつつ、ブランド力の向上、販売の質と顧客満足度の向上を重視した販売戦略を展開していく。また、将来的にはアライアンスを活用して商品ラインアップを強化し、安定した販売・収益を維持していく計画と語った。

欧州の自動車需要はおおむね2023年度と同様に推移すると見られているが、ドイツ、フランスという欧州2大市場でBEVの補助金政策が打ち切られたことも影響し、BEV需要が停滞すると懸念されている一方、「xEV」と呼ばれる純BEV以外の電動車に対して期待が高まっていると説明。三菱自動車として市場投入しているアウトランダーPHEVによってユーザーニーズに応えていくとした。

他社との協業も活用してグローバルで事業を拡大していく

このほか、中期経営計画「Challenge 2025」でも掲げている他社との協業、パートナーシップなどを活用して、地域別事業の強化、新ビジネス領域、新事業形態へのチャレンジ、収益化などを行ない、グローバルで事業を拡大。欧州ではアライアンスパートナーのルノーからOEM供給されるコンパクトSUV「ASX」について、フロントマスクの刷新、コネクティッド機能や先進安全装備の充実といった大型改良を行なって6月から販売を開始する。

また、日産自動車とは「次世代1トンピックアップ」「バッテリの共有」といった戦略をグローバルで進め、北米ではPHEVの提供、日産のBEVアセット活用を進めていく計画で、アライアンスメンバーの日産、ルノーとはアセアン、オセアニアといった地域で将来的なモデルにおいて協業を進めていくという。

最後に加藤社長は、「2023年度は中期経営計画であるChallenge 2025の初年度でしたが、中国やロシアからの撤退を含む地域ポートフォリオの見直し、アライアンスパートナーからの車種導入を含む新型車投入、商品構成の見直し、当社で初となるハイブリッド車の導入など、過去からの流れを大きく変える起点となる年になりました。車種入れ替えの端境期になったことにアセアン市場の景気低迷が重なり、対応に苦慮した面はありましたが、一方で“手取り戦略”は確実に進捗。“三菱自動車らしさ”を体現したデリカミニやトライトンのヒット、開発を進めてきたハイブリッド車のヒットなどにより、一定の収益を上げると共に次の成長に向けた手応えを掴む年になりました」。

「2024年度については地政学的リスクの高まり、各国の景気先行き懸念など、引き続き外部環境は不安定です。また、自動車業界においてはBEVの需要がいったん踊り場を迎え、ハイブリッドやPHEVの存在感が増すなど、わずか半年前とは異なる動きが見られます。世の中の変化は極めて急速、かつ激しいですが、一方で大きな変化の方向性には変わりがありません。いずれにしろ、変化の節目を上手くとらえ、これをチャンスに変えるべく、今年度はいっそう成長に向けた打ち手を具現化してまいります」と締めくくっている。

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