【キーマンウォッチ】 日本の持続的成長に貢献できる会社になりたい――、シスコシステムズ・濱田義之社長

by 大河原 克行

2024年1月1日付で、シスコシステムズ合同会社の代表執行役員社長に、濱田義之氏が就任してから約4カ月を経過した。1月に行った就任会見では、「セキュリティ」、「サステナビリティ」、「AI」を日本における注力領域に掲げるとともに、シスコが推進するプラットフォーム化によって実現する顧客価値の意味について、時間を割いて説明した。

濱田社長は、「テクノロジーイノベーションによるお客さまや社会への価値提供を進めるのがシスコの役割である。日本の持続的成長に貢献できる会社になりたい」と抱負を語る。2024年3月には、Splunkの買収を完了。その狙いについても初めて言及した。

濱田社長に、新社長としての方針や、今後の事業戦略について聞いた。

シスコシステムズ合同会社 代表執行役員社長の濱田義之氏

外資系企業でありながら国内で長年の実績がある強みを生かす

――最初の社長会見を就任後24日目に行い、シスコジャパンとしての新たな方針を発表しました。その時点では、アジアパシフィックジャパン&チャイナ地域のセキュリティセールス事業も兼務していたため、シンガポールからのオンラインでの会見となりましたが、振り返ってみれば、そこから1週間後には兼務が外れたわけですから、それを待って、日本で会見を行ってもよかったのではないですか(笑)。

シスコジャパンが、なにを重点において活動していくのか、どこに向かおうとしているのかといったことを、なるべく早くメッセージとして外に発信したいと思っていました。1月1日に社長に就任してから、月内には必ず、私から発信することは決めていました。ただあまりにも早いと、1月ですから年頭所感のようなってしまいますし(笑)、それで3週間ほどあとにしたわけです。

実は日本で会見をやろうと思ったのですが、会見日程を設定したあと、どうしてもシンガポールに行かなくてはならない要件が発生し、結果としてオンラインでの会見になってしまいました。延期するよりも、オンラインでもいいからやりたいと、私が社内に強く訴えて、この日に実現しました。

Webexを利用してシンガポールから社長就任会見を行った濱田社長

――2016年にシスコシステムズに入社して以来、要職を歴任してきましたが、社長に就任して、あらためて見えてきたシスコの強みはありますか。

社長就任直前まで、シンガポールを拠点としてアジアパシフィックおよび中国におけるセキュリティセールス事業を担当していたのですが、外から日本の市場を見て、あらためて感じた強みがあります。

ひとつは、日本の市場では、お客さまとの戦略的パートーシップを通じて、一緒になってお客さまのビジネスの成功に伴走する仕組みができています。外資系企業でありながら、日本における長年の実績がこうした緊密な関係を築くことにつながっています。また、日本ではパートナーを通じたビジネスが100%となっていますが、パートナー企業とシスコジャパンだけでなく、本社エグゼクティブも参加して、直接話し合いをしながら、長期的な視野に立った議論を行い、パートナーの成長とともに、シスコも成長していくという仕組みが構築されています。ここまで深く、お客さまやパートナーと連携ができている国は、ほかにはありませせん。

さらに日本は、グローバルに見ても注力市場のひとつに位置づけられており、製品やサービスを投入する際に、最初に展開する市場となっています。言語の壁があっても、米国と同じタイミングか、あるいは米国の次に日本ということが多く、日本市場の潜在的な価値を認識し、日本のお客さまのイノベーションを積極的に支援する姿勢があります。これらは、シスコジャパンの大きな強みだといえます。

一方、製品面では、シスコが進めているプラットフォーム化が、これからの強みになると思っています。また、サブスクリプションの導入によるライセンスのスキーム変更などにより、いまの時代にあった導入形態を採用していますし、さまざまな製品に積極的にAIを活用している点もシスコの強みだといえます。日本は、労働人口が減少し、限られたリソースのなかで、AIを活用して、高度化、自動化していくことが求められており、そこにも貢献できます。シスコのテクノロジーイノベーションは、お客さまの価値創造に寄与することなります。

シスコジャパンのビジョン

――一方で、シスコジャパンにとっての課題はなんでしょうか。

伴走型ビジネスへのシフトをより加速することです。製品やプラットフォームを提案するだけでなく、アダプション(適用)し、エキスパンド(拡張)し、価値を使いきってもらうために、お客さまやパートナーとさらに寄り添って、伴走する必要があると思っています。

日本の企業は、製造業を中心に「現場」が強い傾向があります。これはいい面でもあるのですが、ITという観点で見た場合、課題となるケースがあります。例えば、サイバーセキュリティでは、現場最適による局所的な対応では限界があります。エンドトゥエンドで守るためには全体最適が必要であり、これができないと、企業のDXが動きません。お客さまの全体の動きをとらえながら、DX推進とセキュリティ強化を同時に実現するための提案を行っていく必要があります。日本の企業が持つ現場の強さを損なわずに、DXやセキュリティを推進するには、バランスが重要です。そのためにはお客さまと伴走することが、これまで以上に大切になると考えています。これは、シスコが日本で成長する上で、重要なテーマになります。

日本全体のDX推進を考えた場合、学校や医療機関などの公共分野、あるいは中小企業などにおいて、製品やテクノロジーを、もっと簡単に使ってもらえるようにする必要があります。また、シスコだけでは全国のお客さまをカバーできません。製品を販売するパートナー企業との連携強化に加えて、マネージドサービスの提供や、業界および業種、地域に精通したパートナー企業と連携したDXの推進、すべてのものをセキュアにつなぐ提案を進めていきたいですね。こうした事例を日本で作り上げて、より広く提案していく活動も重要だと思っています。

シスコはセキュリティ製品が売れる状況を歓迎していない

――これまでの経験はシスコジャパンの経営にどう生きますか。

私は、2016年にシスコジャパンに入社し、CTOに就きました。当時は、IoTの初期ステージでもあり、さまざまな製造業とのコラボレーションすることが重要な取り組みのひとつでした。しかし、仮に世界中でもっとも売れているIoT製品を米国から持ってきても、日本の市場にはあわない部分があり、そのままでは売れないということに気がつきました。日本の市場を理解し、日本の製造業の仕事のやり方を知り、共創しながら提案することが必要であり、そのためにお客さまとの連携を強化したり、イノベーションセンターを通じた活動も行ったりしました。このときのIoTソリューションの共同開発やスマートシティプロジェクトといった共創の経験は、これからの経営に生きると考えています。

また、専務執行役員として情報通信産業事業統括を担当した際には、通信事業者やモバイル事業者などが、5Gをトリガーとして、どうやって企業のDXに寄与できるのか、顧客ニーズが所有から利用に変化するなかで、シスコはどんな貢献ができるのか、そうした観点から基盤づくりを一緒に行うことができました。これも私にとって大きな経験でした。

――シスコが社内に設置したセキュリティトラスト組織のメンバーとして活動した経験もありますね。

CTOのときに、日本を代表する立場から兼務で参加しました。セキュリティトラスト組織の役割は、シスコ自身をサイバーセキュリティの脅威から守ること、シスコが提供している製品の信頼性を高めること、シスコがビジネスを行っている国のステークホルダーとの連携を強化することです。

シスコをひとつの企業として見た場合に、多くのサイバー攻撃を受けており、それにしっかりと対応できていることを自ら証明しなくてはなりません。また、シスコの製品であれば、OSの脆弱性を突かれるといった問題が起きにくく、正しい部品を利用しているため安心して調達できるといった信頼性の高さを担保し、それを実現する仕組みを作り、管理、監督する役割も必要です。

さらに、各国にあわせたルールに対応し、ビジネスが行えるようにしなくてはなりません。日本では、情報通信機構(NICT)と脅威情報の共有を行い、Cisco Talosのチームが持つノウハウを生かしながら、日本をセキュアにするための支援を行いました。また、「東京2020オリンピック・パラリンピック」の際には、ネットワーク製品のオフィシャルパートナーとして、安定したネットワーク環境を実現するとともに、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)に脅威情報を提供するといったことも行いました。

なぜ、シスコがこうした活動をしているのかというと、セキュアな環境を作るという目的があるからです。シスコはセキュリティ製品が売れる状況を歓迎していません。しかし、セキュアな状況がないと、多くの人がインターネットという基盤そのものを疑い始め、この技術を活用した革新に遅れが生じることになります。セキュアにするための仲間づくりが重要であり、セキュリティトラスト組織は、そのための活動のひとつであるといえます。

インターネットという重要な社会インフラを守り、セキュアにつなぎ、日本のユーザーに安心して使ってもらえる環境を提供する役割を、シスコは担っています。ハイブリッドワークをするにも、AIを活用するにも、インターネットは不可欠です。インターネットを、息をするように、特別に意識をすることなく、安心して使えるように環境を維持することは、シスコジャパンの社長として果たすべき重要な使命だと思っています。

――お手本にしたいと考えている経営者はいますか。

身近な人物としては、以前の私の上司で、CISO(Chief Information Security and Trust Officer)であるアンソニー・グレコがいます。社内にガバナンスを浸透させる上で、アクセルとブレーキをうまく使い分けながらやっている点はとても参考になります。多くのCISOは、ChatGPTの登場によって、社内利用に関する決断を求められましたが、シスコでは、使わないという選択肢は最初からなく、正しく利用する仕組みづくりに力を注ぎました。2019年時点で、Responsible AI Communityを設置し、AIフレームワークを作っていましたから、生成AIの広がりにあわせて、お客さまとの情報共有や、お客さま同士が意見交換を積極的に行える場も提供しました。このように先に手を打っておくということは経営にとって大切なことです。

社長就任から最初の3カ月間は、いかに多くの方々から話を聞くことができるかという点に力を注ぎました。1月24日の最初の会見で説明した内容をもとに、シスコが日本にどう貢献するのか、いまなにを考えているのかということをお話しし、それに対する意見をいただきました。また、社内からのフィードバックももらっています。どんな企業に共感してもらっているのか、どんなパートナーとどんな組み方ができるのか、方針には修正が必要なのか、といったことも視野に入れて検討しています。ただ、現時点では、1月に発表した内容の修正は必要ないと思っています。

もともとシスコは、トップダウンの会社ではなく、マトリックス型で、アメーバのような組織であることが特徴です。私が目指しているシスコジャパンの姿は、自律分散型組織です。社員一人ひとりが自ら考え、行動し、他部門ともコラボレーションしながら自走していく組織にしたいと考えています。ビジョンを共有しながらも、個性あふれるメンバーが、異なる考え方、異なるアプローチを許容し、信頼し、認めあい、成長しあえる企業文化を作りたいですね。

――シスコジャパンは、日本における「働きがいが会社」の大企業部門で1位を獲得していますね。

2年連続で1位を獲得しましたが、その2年間は、私は日本にいなかったので…(笑)。ただ、ここで3連覇を目指すと宣言してしまうと、それが目的になってしまいますから宣言はしません。働きがいがあり、社員に会社に来たいと思ってもらうことがゴールですからね。シスコジャパンは、自由と自律を両立することができている企業ですし、相手の立場で考えて行動するというカルチャーも定着しています。ここに、セルフドリブンという要素を加えることと、さらに多様性を生かすことに取り組みたいですね。組織が同質化するとイノベーションが起きず、それが硬直化につながります。大切なのは同じビジョンを持ち、お互いを信頼し、尊敬し、成長をともに喜ぶ組織にすることです。そして、双方向でポジティブなフィードバックが行えるカルチャーの定着も図っていきます。

シンプルに、わかりやすく製品やテクノロジーを使ってもらうために

――シスコは、プラットフォームを提供する企業を目指していますね。この理由はなんですか。

シスコは製品ポートフォリオが広く、ネットワークやセキュリティ、コラボレーション、データセンター、サービスまでを、プラットフォームとして提供するユニークな会社です。また、お客さまのDXに対して、エンドトゥエンドで伴走することができる数少ない企業の1社です。

課題をひとつずつ解決するポイントソリューションは提案がしやすいのですが、それではお客さま全体のメリットにはつながりにくいのが実態です。シスコには、お客さまと一緒になって課題を解決したり、新たなものを構築したりするカルチャーがあり、それを実現するリソースがあります。また、日本のサイバーセキュリティ関連機関などとも協力できる関係がありますし、IoTにおいても、日本の企業と共創してきた実績があり、これが持続的な競争力の獲得につながっています。

シスコは、統合管理プラットフォームの「Cisco Networking Cloud」や、統合型セキュリティプラットフォームの「Cisco Security Cloud」を提供しています。これによって、お客さまに導入し、運用してもらいやすい環境が実現できると思っています。

例えば、セキュリティでは、数多くの製品が存在していますが、シスコではCisco Securityスイートを新たに発表し、User Protection Suite、Cloud Protection Suite、Breach Protection Suiteの3つに大別しました。ユーザーの端末を守りたいのであれば、User Protection Suiteを選んでいただければ、変化する脅威に対応するために必要な機能をシスコが提供します。具体的には、必要な技術を持つ企業を買収し、迅速に追加するといったことを行っています。昨年の場合は、買収した7社の技術を、このスイートのなかに取り込みました。新たな脅威が登場したら、新しくこれを買ってくださいという、いわば「もぐらたたき」のような提案ではなく、スイートを購入してもらえば、あとはすべてシスコがやります、というのがプラットフォーム化やスイート化による提案となります。

Cisco Security Cloud

また、コラボレーションツールのWebexでもプラットフォーム化を進めており、ビデオ会議を行うだけでなく、会社の固定電話あての問い合わせもWebex Callingによって、在宅勤務やテレワークといった環境でも受けられるようになります。サブスクリプションモデルで提供し、プラットフォーム化したことで、導入コストを低減し、より使いやすい環境を実現しています。

プラットフォーム化したり、スイートで提供したりといったことで、シンプルに、わかりやすくシスコの製品やテクノロジーを使ってもらうことができ、複雑化する利用環境においても、安心して、継続的に利用することができます。

国内では「セキュリティ」「サステナビリティ」「AI」の領域に注力

――社長就任会見では、日本において、「セキュリティ」、「サステナビリティ」、「AI」の領域に注力する姿勢を打ち出しました。

「セキュリティ」は、DXを推進する上で重要な要素であり、これを両輪としてとらえなくてはいけません。セキュリティインシデントが発生した途端に、DXの取り組みは急停止してしまうからです。DXは、多くの企業が「経営課題である」とは言いながらも、日本の実態は、各種データからもわかるように、世界のなかで遅れていると言わざるを得ません。

しかも、セキュリティをしっかりと行わなければ、DXはなしえませんが、その点でも日本の企業には課題があります。ランサムウェアの被害を想定した準備や対策ができていないため、ビジネスを止めてしまっているようでは、DXどころの話ではありません。そして、セキュリティへの取り組みは、キャンペーンのように一時的にやっても効果がありません。マラソンやトライアスロンのようなもので、継続的に取り組む必要があります。その点もしっかりと訴求していきます。

「サステナビリティ」は、日本で関心が高い分野です。しかし、ITの電力使用量はますます増えていきますし、AIを活用することは環境破壊につながると指摘する人さえいます。イノベーションを起こす上で、いかにサステナブルな時代を作り上げるか、という点が重要なテーマになっており、これが企業における社会的責任となります。シスコでは2022年に、Chief Sustainability Officerを任命し、シスコジャパン社内にも担当責任者を配置しています。

また2040年までに、製品仕様やオペレーション、サプライチェーンを含めたすべてのスコープで、温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を目指しています。シスコは、製品やテクノロジーを通じて、世の中に価値を提供する企業を目指しているわけですから、環境を破壊する方向に行くことはしません。電力消費量が圧倒的に少ない製品を作るために、自らチップの開発を進めているのもそのためです。

さらに循環型経済への移行についても積極的に取り組んでおり、シスコ製品の再利用率は99.9%に達しています。所有から利用に変えていくことによって、使い終わったものは私たちが責任を持って回収し、リサイクルでき、サステナブルに貢献ができると考えています。DXを進めることは大切ですし、AIの利活用も広がろうとしています。しかし、シスコは、価値を提供し、持続性のある世界の実現に貢献する企業ですから、DX、AIの提案とともに、サステナブルも同時に提案していかなくてはならないと強く思っています。

Cisco Green Pay

そして、「AI」については、日本がもっとも利活用を進めなくてはならない市場だと考えています。労働人口が減少するなかで、生産性を高めるためにAIが果たす役割は大きいといえます。ただ、日本は、世界的に見てもAIに対する関心が高い市場ではあるものの、進展度合いでは遅れが感じられます。日本では、企業や業務などに特化した基盤モデルが活用されると私は考えています。そこで重要になるのは、どうカスタマイズするかという点です。シスコジャパンはここに貢献したいと思っています。パートナーとともに検証したものを提案するほか、関係省庁などとも連動し、日本のAIガバナンスにも貢献していく考えです。

――3つの注力領域とは別に、「オブザーバビリティ」、「ハイブリッドワーク」、「ハイブリッドクラウド」の3つも、グローバルでは注力領域になっています。特に、「オブザーバビリティ」では、Splunkの買収を完了しました。Splunkの買収によって、シスコはどう変化しますか。

働き方や仕組みが大きく変化するなかで、「オブザーバビリティ」は重要なキーになります。ただ、オブザーバビリティは前に出ていくことはありませんし、あくまでもひとつのピラーであり、これが備わっていないと、IT部門はトラブルシューティングに追われ、現場ではビジネスの機会損失にもつながるという結果になります。シスコは、人、場所、アプリケーション、データ、デバイスといったすべてのものをセキュアにつなぐために、製品やテクノロジーを提供してきました。これらの製品と、Splunkの製品は補完する部分が多く、レジリエントなデジタル世界を創ることができるようになります。また、シスコはオープン性を担保し、柔軟性を持つSplunkの強みを維持することも明確にしています。日本においても、Splunkと相互補完したソリューションを提案していくことになります。

シスコのグローバル戦略

――「ハイブリッドワーク」および「ハイブリッドクラウド」では、日本においてどんなことに取り組みますか。

「ハイブリッドワーク」では、働く人や働く場所が分散化するなかで、いつでも、どこでもセキュアにつなぐことがポイントになります。ここにシスコの役割があります。以前は、会社に来て仕事をするのが当たり前でしたが、コロナ禍においては、在宅勤務に切り替わり、ここにきてオフィスへの回帰がはじまっています。しかし、すべての人がオフィスに出社するという時代は戻らないのは明らかで、本当の意味で、ハイブリッドワークが定着していくことになるでしょう。集中したいときには在宅勤務をしたり、効率よく仕事をするにはリモートワークを活用したりといった柔軟な働き方が増えていきます。

またオフィスの役割も、すべての従業員が出社して、執務を行うという場所から、リアルにつながることによってコミュニケーションを促進する場や、イノベーションを醸成する場へと、役割が変わることになります。同時にシスコの役割も、ホームオフィスやリモートワーク、次世代オフィスに必要なコラボレーション機能を提供することになります。AIを含めた最先端のテクノロジーを使って、日本のハイブリッドワークのイノベーションを促進していきたいと考えています。

また、「ハイブリッドクラウド」は、日本でもかなり浸透してきましたが、今後は、ネットワークとセキュリティ、オブザーバビリティをどう担保していくかがテーマになってくると考えています。論理的に多重化された環境は複雑であり、物理的に分かれた環境とは異なりますから、障害ポイントを発見する際にも自動化や可視化が求められ、オブザーバビリティが重視されると見ています。ここにもAIが活用されることになります。

シスコでは、Cisco Silicon Oneを搭載した製品を、データセンター事業者だけでなく、自らデータセンターを構築している企業や、運用を行っている企業にも提供し、ひとつのアーキテクチャにより、さまざまな分断を解消して、ハイブリッドクラウド環境の構築および運用を簡素化するとともに、高いパフォーマンスの実現を可能とします。

また、Routed Optical Networking(RON)により、運用効率とシンプルさを向上させることができます。シスコは買収によって、デジタルコヒーレントに関するテクノロジーを数多く手に入れており、IPサービスと専用回線サービスを単一のレイヤーに統合し、すべてのスイッチングがレイヤ3で行われるように、ネットワークをフラットにしたり、ルーターなどの機器数を減らしたりといったことが可能になります。

RONによって、運用効率とシンプルさを向上させることができます。2023年11月には、KDDIと富士通との協業により、IPレイヤーと光伝送レイヤーを融合したマルチベンダーのメトロネットワークを商用化することも発表しました。ここでは、RONの採用により、電力使用量を約40%削減するといった成果が出ています。さらにシスコではオプティカルネットワーキングの領域にも積極的に投資をしており、IOWN Global Forumにも参加しています。次世代アーキテクチャの実現にも力を注いでいるところです。

――今後、どんなシスコジャパンを目指しますか。

現在、中期経営計画が最終コーナーを迎えていますが、これはほぼ達成しています。ただ、サステナビリティやAIは、計画策定当初には、ここまで盛り上がることは想定していませんでしたし、地政学的リスクを背景にした国内回帰の活発な動きも想定外のものでした。1年先の動きが見えにくいという状況にありますから、2025年度からは、中期的な視点で経営計画を立案するのではなく、重点領域を定めながら、アジャイルにやっていくつもりです。

私はシスコに入社以来、テクノロジーイノベーションによって、お客さまや社会に価値を提供することを目指してきました。この姿勢は変わりません。中期的には、日本の持続的成長に貢献できる会社になりたいと思っています。パートナーとの共創によって、日本におけるサステナビリティやDXの実現、セキュアにつないだ環境を広げていきます。日本市場全体が成長していくことに貢献し、それをシスコの社員が実感しながら働けることが大切です。日本の経済の発展、競争力の強化によって日本が豊かになり、日本のイノベーションが世界に貢献することを支援していきたいと思っています。

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