ちいかわ、なぜ現代人を魅了する? “癒し”の存在だけじゃない、過酷な世界で生き抜く姿へのシンパシー

日本国内のみにとどまらず、海外でも流行の兆しがみられる『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ(以下『ちいかわ』)』。

本作には“ちいかわ”の他、“ハチワレ”や“うさぎ”など、動物をモチーフとした愛らしいキャラクターが多数登場する。一方で、弱肉強食の厳しい世界を生き抜く強烈な個性をそれぞれが持ち合わせており、「カワイイ」だけでは終わらない部分が大ブームを起こしている理由であろう。そこで本稿では、“ちいかわ”になぜ、今惹きつけられるのか。その魅力をあらためて探っていきたい。

">【写真】『ちいかわをさがせ!!』のかわいい世界を試し読み)

■不憫さと幼児性が守りたくなる気持ちを刺激

2017年当初、“ちいかわ”は作者・ナガノ氏によって「こういう風になってくらしたい」と投稿された、いわば落書きから生まれた存在だった。「なんか小さくてかわいいやつ」として怒られたら暴れ、疲れたら逃げ、嬉しいことがあれば踊りたい。そんなナガノ氏の願望が詰め込まれたキャラクターだった。

子熊のような見た目と赤ん坊のような幼い言動。その特徴は2020年1月から投稿された漫画内でも引き継がれており、ちいかわは感嘆詞と簡単な返事以外の言葉を発することはない。感情が表情に出やすいため、喜怒哀楽を一見して読み取ることができる。苦手なブロッコリーを食べているときや、ラーメン屋でうまくコールができないときなど、ちょっとしたことですぐに泣いて黙り込んでしまう。

そんな臆病な性格だが、トラブルに巻き込まれることもしばしば。自分から首を突っ込むことは少ないが、突進型のハチワレやうざぎの後を付いて行き事件に巻き込まれがちだ。

これらの臆病・か弱い・泣き虫・巻き込まれがちな特性が招く”不憫”という要素が庇護欲を掻き立て、ちいかわの可愛さをより引き立てている。それが多くの人々を惹きつけている点だろう。

過酷な世界で純粋さを失わない強さ

しかし、漫画のストーリーを読み進めていくと、それだけではない魅力に気づく。弱肉強食が掟とされる『ちいかわ』の世界では、強い体を手に入れた途端に加虐性を顕にしたり、武器を手に入れたことで万能感に満ちてしまう様子がしばしば描写されている。ハチワレですら「でかくてつよいやつ」化した際に、一瞬正気を失ってしまうことがあった。

強くなることは厳しい世界に順応しサバイブするための術(すべ)だ。そんな過酷な世界でちいかわは力に溺れず、純粋さを失わず自分らしさを保っている。

ちいかわは非力で無力だ。だが、ハチワレやうさぎがピンチに陥ったときは、勇気を振り絞り二人を救い出す。二人が石化し取り残されたときも、状況を的確に判断し事態を収束に向かわせた。そこには、いつものような泣き虫で弱くて“不憫かわいい”ちいかわの姿はない。だが、二人が無事に戻ると途端に涙ぐみ、元のか弱いちいかわに戻る。また妖精の能力を得た際は、震えながら敵に対峙する非力な自分を思い出し、迷いを見せたこともある。しかしハチワレとうさぎの生活を振り返り、力を捨てる選択をする。

ちいかわの周りには、ハチワレやうさぎだけでなく、鎧さんやラッコ師匠など味方になってくれる仲間が大勢いる。普段は彼らに守られ、ちいかわは弱く臆病な存在でいることができる。一方で、そんな友達に守られるだけではなく自分も守りたい、彼らと一緒にいたいという強い意思が、力に溺れず踏みとどまっていられる理由なのだろう。

■ちいかわの成長は現実世界とリンクしている

この作品には「突然、強い力を持った者はその力に溺れてしまう」というメッセージがあるように思える。だが、ラッコ師匠のように努力で力を得た者はその例に当てはまらないようだ。ちいかわも無力なままでいるわけではなく、先へと踏み出す描写は作中にいくつもある。草むしり検定に何度も挑戦したりと、弱くても変わろうと努力をし続けている。

私たちも同じく、激動の世界に順応しながら過ごす生活に辛さや違和感を抱くことは多い。世間がちいかわに熱狂するのは庇護欲だけではなく、ゆっくり成長していく姿に自分を重ねているからかもしれない。だからこそ、無力なちいかわが奮闘する姿に胸を打たれてします。

更新される度にSNSをざわつかせている『ちいかわ』。予測不可能なストーリーの中で、いつかちいかわの純粋さが失われる展開もあるのだろうか。ちいかわの優しさがどこまで続いていくのか、今後も見守り続けたい。

(文=宮本デン)

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