人と共生できる世界を...飼い主のいないネコを去勢 専門病院開業

ネコの健康状態を確認する柳沼さん。「人とネコが笑って共生できる世界をつくりたい」と意気込む

 本宮市の獣医師柳沼早苗さん(42)が、飼い主のいないネコの不妊去勢手術を専門に行う「もふスペイクリニック」を同市に開業した。繁殖能力が高く過剰繁殖などの課題解決を図ろうと、柳沼さんは「ネコが疎まれる存在にならないためには個体数の管理が必要。多くの人にペットを取り巻く環境を知ってほしい」と話す。

 同種のクリニックは県内初でレントゲンなどの検査機器を設置せず、一般診療は行わない。野良猫を見つけた人がクリニックに持ち寄ってきた場合に手術することなどを想定している。

 柳沼さんは首都圏の大学を卒業後、都内の動物病院に就職した。「動物病院に足を運ぶ飼い主はペットに深い愛情を与えており、人慣れしているペットも多い」と当時を振り返る。その後、28歳で故郷の郡山市に戻り、獣医師として県内の保健所などでネコを取り巻く過酷な環境に直面した。

 動物の中で特に繁殖能力が高いネコは、放し飼いや飼育放棄による過剰繁殖で行き場を失って保護されたり、車や庭園を壊したりする社会問題に発展している。しつけが身に付いていないネコは、社会で邪魔者扱いされ、飼い主が見つからない場合、保健所で殺処分されていた。「保健所と自宅のネコは何が違うのか」。柳沼さんは職場で殺処分し、自宅でネコをかわいがる日々に葛藤していた。そんな時、野良猫を捕獲し、不妊去勢手術を行って地域に戻す「TNR活動」を知った。

 「TNR活動」は全国で浸透し始めているが、東北の認知度が低い。野良猫の不妊去勢手術は、決まった時間にネコを確保することが難しく、動物病院や個人クリニックは労力や費用などから取扱件数が限られる。現状を知った柳沼さんは「過剰に増やさないことで、人とネコが笑って共生できる世界をつくりたい」と、不妊去勢手術専門のクリニックの開業を決意した。柳沼さんは「野良猫に無責任に餌をあげない。正しい知識と責任を持ってネコを愛してほしい」と訴える。

 クリニックの住所は本宮市本宮千代田101の1。水、日曜日、祝日が休診日。時間は午前9時~午後6時。問い合わせは同クリニック(電話0243.24.8275)へ。

 県内22年度に1158匹殺処分

 県によると、2022年度に殺処分されたネコは1158匹で、前年度から123匹増えた。02年度以降で見ると、03年度の4610匹をピークに減少傾向にあり、ここ数年は千匹台程度で推移している。新たな飼い主への譲渡が進んだことなどが要因とみられる。一方、犬の殺処分数は22年度71匹、21年度122匹、20年度147匹で、繁殖能力の高いネコとの違いが鮮明となっている。

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