豆乳の新たな可能性を求めて ~最新の豆乳に関する研究を行っている研究者に聞く~

今回は、東海大学で、乳酸菌や発酵食品の機能性に関する研究をされている木下英樹准教授に、豆乳の可能性や期待できる効果について、お話しをお聞きしました。

自己紹介をお願いします。

木下先生:東海大学農学部食生命科学科 准教授、木下 英樹です。予防医学の観点から、人々の健康に貢献するため、乳酸菌および豆乳ヨーグルト・チーズなどの乳酸発酵食品の機能性を研究しています。また、研究成果を社会に還元するために産学官連携で商品開発なども行っています。特に、最近は、発酵豆乳(豆乳ヨーグルト)の研究に力を入れています。なお、本日は、研究室の中島勇貴(博士課程3年)も同席しています。

豆乳や乳酸菌を使った研究を始めた背景を教えてください。

木下先生:私は、記録的な大震災が発生した際に、たまたま2回も被災地に住んでいました。最初は、2011年の東日本大震災です。当時は宮城大学に在籍していました。また、2016年には、熊本地震をここ東海大学在籍時に経験しました。このような経験を経て、人々が健康な生活を送るために、研究者である自分に何ができるのか問う中で、「社会に貢献する」、「人命に寄与する」、そんな研究をしたいと思うようになったのがきっかけです。特に、東日本大震災後には、福島の原発事故により、被曝の問題が露呈しました。当時は、重金属を乳酸菌に吸着させデトックスをするという研究をしており、それを応用してセシウムやストロンチウムを吸着する乳酸菌を使って内部被曝の低減ができないかと考え研究を行っていました。応用性を考える中で、動物性のミルクでは生育できなかった菌が植物性ミルクでは生育することがわかり、特にたんぱく質が豊富な豆乳に到達しました。乳酸菌は、豆乳で最も発酵・生育したので、これがきっかけとなり、豆乳を乳酸菌で発酵させた豆乳ヨーグルトの研究をするようになりました。

豆乳を乳酸菌で発酵させてどのような研究を行っているのでしょうか?

木下先生:簡単に申しあげると、豆乳ヨーグルトがどのような疾患に効果を示すかという研究を行っています。研究室で独自に開発した乳酸菌を使用し、様々な飲料で発酵させることで、どのような効果が期待できるのか、研究をしています。

具体的に豆乳ヨーグルトにはどのような効果が期待できることが分かったのでしょうか?

木下先生:1,000万人いると言われている糖尿病およびその予備軍の方に対して、豆乳ヨーグルトは適した食事となるのかを検証するために、研究室保有の様々な乳酸菌で発酵させた豆乳ヨーグルトについて、糖類分解酵素阻害、DPP-IV阻害、終末糖化産物(AGEs)生成阻害能を検証しました。その結果、乳酸菌の種類によってその効果が変わることがわかりました。また、イソフラボンのアグリコン化、ペプチド産生量なども関わっていることを見出しました。特に研究室で単離した乳酸菌「Lactiplantibacillus plantarum TOKAI 17」と「Lactiplantibacillus pentosus TOKAI 35」は、α-グルコシダーゼ阻害活性、DPP-IV阻害活性、蛍光性AGEs生成阻害活性が高く、糖尿病およびその予備軍に適した豆乳ヨーグルトスターターとなる可能性が示唆されました。

つまり、豆乳で発酵させたヨーグルトである「豆乳ヨーグルト」は、糖尿病やその予備軍に効果が期待できるということなのですか?

中島先生:はい。2022年には、この研究を論文にまとめ、国際学術雑誌「Food Bioscience」にも、掲載されました。

これは、発酵させていない豆乳には効果が期待できないのですか?

中島先生:いいえ。豆乳でも十分に効果は期待できます。しかし、豆乳に含まれるイソフラボンは、ほとんどが配糖体*です。それを発酵させることで、アグリコン化し、体内に吸収されやすくなるので、発酵豆乳、つまりは豆乳ヨーグルトの方が、より高い効果を得ることが期待できます。

今後は、豆乳や豆乳ヨーグルトを使ったどのような研究を行っていきますか?

中島先生:現在は、乳酸菌で発酵させた豆乳が認知機能の低下の予防、しいては、認知症の予防につながるという仮説を立証するための研究を行っています。すでに、乳酸菌株の選抜を終え、実際にマウスに投与して脳内の炎症が抑えられる可能性を見出しており、そのメカニズムについて研究を進めています。

木下先生が開発された乳酸菌を入手することは可能ですか?

木下先生:はい。大学発のベンチャー企業「プロバイオ」の経営をしており、そこで豆乳ヨーグルトを家庭で作れる「ソイペディオ」という種菌を販売しています。ソイペディオ菌、米から見出した植物性の乳酸菌で、豆乳との相性が良く、一般的なヨーグルト中の菌数が100 mLあたり約1億個程度であるのに対し、ソイペディオ菌で作った豆乳ヨーグルトは100 mLあたり4,000億個の乳酸菌を含みます(※1)。また、2種類の菌体外多糖(EPS)を産生するのでなめらかに仕上がります(※2)。市販の無調整豆乳であれば、どれでも発酵し、簡単に豆乳ヨーグルトを作ることができるので、ぜひ、試してください。

※1 無調整豆乳に2%摂取し、37℃、24時間培養した場合(東海大学農学部食品バイオ化学研究室調べ)

※2 Yamamoto ら, Biosci. Microbiota Food Health.  38(3), 97-104. (2019)


*イソフラボンには「配糖体」と「アグリコン」という2つの形態があります。イソフラボンは自然の大豆の中では“糖”と結合した形で存在していて、これを「配糖体」と呼びます。大豆食品を食べてこれが体内に入ると、腸内細菌の働きで“糖”が切り離され、「アグリコン」という形で吸収されるとされています。

(豆乳あるあるマップ 2024年5月8日掲載記事より)

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