新型「フリード」のデザインに込められた思いとは? 3代目の「ちょうどいいホンダ!」はどう進化した?

by 編集部:塩谷公邦, Photo:安田 剛, 編集部

2024年5月9日 発表

新型フリード開発チームによるデザインやパッケージングに関する説明会が行なわれた

「ちょうどいい」を継承しつつ、より幅広いユーザー層へフィールドを拡張

本田技研工業は、5月9日の新型「フリード」の発表に合わせてデザインに関する説明会を実施した。登壇者は、本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センター 開発責任者の安積悟氏、本田技術研究所 デザインセンターからパッケージ担当 田中未来氏、エクステリア担当 佐川正浩氏、インテリア担当 貝原孝史氏、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)担当 三輪あさぎ氏、さらに純正アクセサリーを担当するホンダアクセスから純正アクセサリー開発責任者 水上寛之氏の6名。

開発責任者の安積氏によると、3代目フリードの開発コンセプト「“Smile” Just Right Mover」は、フリードがずっと継承している“ちょうどいい(Just Right)”というキーワードを大切にしつつ、日常の生活をサポートする乗用車的な快適さや、ミニバンとして重要な使い勝手、SUV的な価値観など、カテゴリーを定めず全てのユーザーに満足していただけるという意味合いで“Mover”というワードをさらに用いたと明かす。また、日常でのストレスから解放され笑顔になれる、笑顔から生まれる余裕を表現する意味で冒頭に“Smile”を入れ、サブキャッチとして「こころによゆう、笑顔の毎日」を付けたと解説。

新型フリードは2024年6月発売予定

さらに、このコンセプトを具現化するにあたり3つの「コア価値」を設定したと安積氏は語り、1つ目は「日々使う際に不安を感じることなく余裕で取りまわせるフォルムとサイズ感」、2つ目は「ミニバンとしていろいろなシーンに対応できる余裕で、便利で使い勝手のいいパッケージ」、3つ目は「みんなが乗っても安心して快適に感じられるような余裕のある乗り心地と動力性能」と新型フリードに込められた思いを語った。

加えて新型フリードのグレード体系は上下関係ではなく、横方向への広がりをイメージしていて、安心・快適・家族中心といった基本パッケージはそのままに、「エアー」は日常と多様性を継承しつつ進化させ、「クロスター」は非日常・個性を磨きつつ機能価値と遊び心を追加しているという。エアーは同じ大型ミニバンのステップワゴンにも使用しているグレード名で、クロスターは従来モデルやフィットなどにも採用しているアクティブ感を表現したグレード名と、どちらも「洗練された親しみのあるネーミングを継承した」と説明した。

本田技研工業株式会社 電動事業開発本部 BEV開発センター 開発責任者 安積悟氏。1985年に入社し、視界部品・外装部品設計配属時代は、シティ・インテグラ・S-MX・シビック・CR-Xデルソルなどを主に担当。2000年にフィットARIAプロジェクトリーダーに就任。2003年以降は開発責任者代行として、エアウェイブ・エリシオン・エリシオンプレステージ・アコード・S660を担当。2016年にアジア圏向けのシティセダン/ハッチバック開発責任者に就任。2021年から新型フリード開発責任者に就任

余裕の「視界・空間・荷室」と3つの思いやりが込められたパッケージ

続いてパッケージデザインを担当した田中氏は、開発時にユーザーインタビューを行ない、同乗者が快適に過ごせるかや、運転に自信のないパートナーのために運転のしやすさを重視するなど、他者を思いやる傾向が強い点に着目し、思いやりが自然とできるパッケージをコンセプトに掲げ、余裕の「視界」「空間」「荷室」と3つの思いやりを軸に開発したと語る。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター パッケージ担当 田中未来氏

歴代フリードの特徴である、取りまわしがしやすく狭い駐車場でも扱いやすいコンパクトなボディサイズを継承するため、新しいハイブリッドシステムe:HEVを搭載しても全長の拡大を45mmにとどめつつ、グランドコンセプトを実現する余裕の視界と余裕の空間、余裕の荷室を具現化したとしている。また、全幅や全高はそのままだが、クロスターはクロスオーバースタイルをさらに際立たせる「ホイールアーチプロテクター」を装備したことで、全幅を25mm拡大していると紹介した。

新型フリード エアー
エアーのボディサイズは、4310×1695×1755mm(全長×全幅×全高)
クロスターのボディサイズは、ホイールアーチプロテクターを装備しているので、エアーよりも全幅が25mm拡大し、4310×1720×1755mm(全長×全幅×全高)

車室内は1列目シートの背面形状を工夫することで、2列目の膝まわりの空間を現行モデルに対して30mmほど拡大に成功。また、3列目の肩まわりの空間も65mmほど増幅することで空間に余裕を持たせた。

さらに、車室内全体を水平基調とすることでノイズレスなすっきりとした開放的な余裕の視界を確保したほか、ピラーの位置を工夫することで前輪の場所を分かりやすくし、車幅感覚をつかみやすく、狭い道でのすれ違いや駐車場の不安を軽減させたとしている。そのほかにも、リアクォーターウィンドウを大きくすることで、車室内への日当たりを向上させている。

2列目シートについて田中氏は、「ウォークスルーがしやすい形状にしたほか、現行同等のロングスライドを持ち合わせ、チャイルドシートに座らせた子供のケアを車内でできたり、買い物かごや保育園の荷物といった大きな荷物をシート前に置けるようにした」と利便性の高さを強調。また、3列目シートは座り心地はきちんと維持しながらも、跳ね上げた際にほぼ垂直となるように改良しつつ、跳ね上げたシートの最上部を約90mm下げることに成功し、後方視界も向上させたという。

3列目シートは軽量化も実現していて、女性でも跳ね上げやすくしている

水平基調により丈夫で安心感のあるエクステリアデザインを実現

エクステリアデザインについて佐川氏は、「最大の特徴であるパッケージや使い勝手のよさがひと目で魅力的に伝わるようなデザインを目指し、“誰でもどこでも、自由な気持ちであつかえる”をデザインコンセプトにした」と説明。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター エクステリア担当 佐川正浩氏

フロントグリルとヘッドライトから、ドアハンドルやサイドのスライドレール、リアのライセンスガーニッシュまで、意匠につながりを持たせて車体を一周取り囲む水平基調のキャラクターライン上に全て配置し、機能部品を整然と配置することで、芯の通った丈夫で安心感のあるスタイルを表現しつつ、前方に向けて伸びやかで爽快に走りそうな印象に仕上げ、おしゃれだったり、頼りがいのある姿だったり、愛らしさがあるなど、「懐の深いデザインになった」とアピールした。

また、3列目まで広いグラスエリアのデザインを採用することで、快適で自由な明るい空間がイメージでき、信頼感ある凛とした表情で暮らしのパートナーとして愛着や誇りを持っている存在を両立。リアビューも、広い空間をしっかりと支える台形基調のフォルムとし、スタンスのよさを強調。「安心して移動ができ、何でも自由に積めそうな、可能性や楽しさを表現しました」と佐川氏。

リアクォーターウィンドウを大きくして車室内への日当たりを向上させている

15インチアルミホイールは、ボディと相性のいいクリーンでジオメトリックなデザインとし、特徴的なヘッドライトの形とイメージをそろえることで、新型フリードの個性を際立たせたという。さらに、ヘッドライトははっきりと認識しやすいシンプルなオーバル形状のデイタイムランニングランプを採用しつつ、ポジションとウインカー機能を兼ね備えた。リアコンビネーションランプは、シンプルな四角形状でデザインし、遊び心のあるアクセントを付与している。

ヘッドライトはメーカーオプションのアダプティブドライビングビーム搭載仕様
特徴的な表情を狙ったリアコンビネーションランプ

一方、クロスオーバースタイルのクロスターは、エアーのシンプルさや信頼感をベースに、力強さを大胆に強調し、「いってみたい」「やってみたい」という好奇心を後押しするようなデザインを採用。ボディ下部に黒基調のガーニッシュを大胆に施して、タフな印象を強調しつつ、各所に質感の高い金属調ガーニッシュをあしらうことで、洗練されたモダンな印象を合わせ持たせている。

ヘッドライトのオーバル形状とイメージを寄せたというエアーのホイールの切削面

また、リアコンビネーションランプと共通のイメージの“角丸四角”のモチーフを車両の随所にちりばめることで、剛性の高い印象とモダンさを演出しながら、全体に統一感を持たせた。さらに、強くてアクティブな印象をより一層高める専用フォグランプやアルミホイールを装着するほか、グリルやバンパーのガーニッシュとともに、金属調に統一したドアミラー、ドアハンドル、アルミ製ルーフレールで力強さとモダンな印象を両立させたとしている。

ゆったりとした気持ちでやさしくなれることを目指したインテリアデザイン

インテリアデザインの解説は担当の貝原氏が実施。新型フリードの開発コンセプトのサブタイトルにある“こころによゆう”を実現するために、家族全員が「ゆったりとした気持ちでやさしくなれるインテリア」を目指し、「やさしくなれる使い心地」「自然体でいられる空間」「活き活きするアレンジ」の3つのキーワードを設定して開発を進めたという。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター インテリア担当 貝原孝史氏

やさしくなれる使い心地については、日常の使い勝手を考え、さっと置けてパッと使える収納レイアウトを基本にインパネを構築。大容量のインパネアッパーボックスや、置きやすさと取り出しやすさにこだわったインパネトレー、運転席と助手席のどちらからも使えるセンターまわりのユーティリティを実現したとしている。ドアには、仕切りの工夫で長物も入る大開口のポケットや、使いやすい位置に配置したボトルホルダーも完備した。

インパネまわりはシンプルな構成と操作性を追求しつつ、運転視界のノイズになる要素を極力排除するとともに、必要な機能部品を緻密かつ質感よく仕上げることで、すっきりとした視界と優れた操作性を両立。また、フロントピラーの1本化や要素を減らしたインパネ処理によるすっきりとした視界、運転と空調に関するスイッチを分かりやすくゾーニングして集約した操作パネルなど、運転のしやすさに配慮してデザインしたほか、エアコンの吹き出し口は子供が暑かったり寒かったりしたときに、風の向きがひと目で分かる意匠に仕上げたという。

新型フリードのインパネまわり
スイッチを分かりやすくゾーニングして集約している

続いて、自然体でいられる空間については、1列目と2列目シートのヘッドレストと肩口のボリュームを小さく抑えることで、後席に座る子供のケアがしやすくなるなど、一体感を得られる工夫を随所に施しつつ、スムーズな移動と快適でコミュニケーションの取りやすさなどを重視した空間作りに取り組んだという。

また、コンパクトクラスとして初めて後席用クーラーを設定し、2列目と3列目の冷房時間を大幅に短縮でき、夏場の快適性を向上させたほか、リアクォーターウィンドウを大きくし、窓から光が差し込む開放的な3列目も実現している。さらに、人の触れる部分にはやさしい触感の素材を採用し、乗員をおおらかに包みながら安心感のある室内を実現させたという。

最後に、活き活きするアレンジについては、現行モデル同様に、キャプテンシートの6人乗り3列シートと、ベンチシートの7人乗り3列シートを設定し、家族構成やシーンに応じた多彩なシートアレンジを継承した。

なお、クロスターのインテリアは、内から外へ広がる「もっと遊べる空間」をキーワードに、特に5人乗り2列シートの使い勝手を向上。荷室はユーティリティボードで2段に分割できるだけでなく、磁石がくっつくステンレス素材を採用し、ギア感の演出とともにマグネットトレーやフックを取り付けて有効活用できる「ユーティリティサイドパネル」と、市販のフックやバーなどを取り付けられ、キャンプでランタンやタープ、または着替えなどを干せる「ユーティリティナット」をテールゲートに設けるなど、アウトドアレジャーをはじめ、さまざまな趣味を後押しする工夫を施したという。

CMFは、安心感・扱いやすさ・フレキシブルさを柱にコーディネート

CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインを担当した三輪氏は、「新型フリードのCMFでは、こころに余裕を持てないユーザーに対し“私にもできそう!”“使いやすそう”と思ってもらえる安心感と扱いやすさ、フレキシブルさを柱に沿えたコーディネートを目指した」と語る。

株式会社本田技術研究所 デザインセンター CMF担当 三輪あさぎ氏

エアーでは、運転や子供のケアで余裕がなくなりがちなユーザーがホッとひと息つける空間を目指し、リビングライクな空間コーディネートを実現させつつも、敏感な子供の肌にもやさしく触り心地のよいシート表皮や明るい色調の内装への汚れ対策など、しっかりとケアをすることで安心できる雰囲気だけではなく、実際の使い心地としても安心感を与えられる素材コーディネートを目指したという。

また、汚れや傷に対して実際にタフネスのある素材を使用しただけでなく、シート表皮やインパネトレー・センターパネルなど、手に触れやすいところや汚れ・傷の気になるところに汚れや傷が目立ちにくい表面意匠を施すことで、気持ちに余裕を持って使える1台に仕上げている。フレキシブルさの観点では、「性別や年齢、使用シーンなどに縛られることなく、自分らしい1台として乗れる。誰にでもマッチするインテリアコーディネートと豊富なカラーラインアップを用意した」と三輪氏。

クロスターのCMFについては、安心感・扱いやすさ・フレキシブルさを、よりアクティブ方向に振り、アウトドアライクなアクティブスタイルをテーマにタフネスイメージでコーディネート。アウトドア用品によく見られるような素材感や色を採用し、そこに優れた機能性や防錆性を付与することで、本気のアウトドアレジャーでも安心して扱える質感を表現したという。なお、ホンダ新色となる「デザートベージュ・パール」を採用している。

「普段美」をテーマに純正アクセサリーを採用した2種類のスタイルを設定

新型フリード クロスター向け「Active-Tough Style(アクティブタフスタイル)」

新型フリード用純正アクセサリーは、“普段の生活をより嬉しく楽しく幸せに”という思いを込めて、開発コンセプトを「普段美」と設定。「エクステリアとインテリアともにデザインと機能性の両立を追求しつつ、ライフスタイルの幅をさらに広げられる純正アクセサリーを用意した」とホンダアクセスの水上氏。

株式会社ホンダアクセス 純正アクセサリー開発責任者 水上寛之氏

シンプルさが特徴のエアー向けには、ベルリナブラックとクロームメッキを組み合わせたフロントグリル、LEDフォグライト付きのエアロバンパー、テールゲートスポイラー、切削クリアとブラック塗装の15インチアルミホイールを装着した「スーペリアスタイル」を提案。フリード エアーをより上質な存在感に仕立ててくれる。

クロスター向けには、ベルリナブラックとブラッククロームメッキを組み合わせたフロントグリル、フロントバンパー中央部、下部、サイドから構成されるフロントガーニッシュ、サイドビューに躍動感をもたらすボディサイドモール、ブラック塗装の15インチアルミホイールといったシルバーとブラックのアクセサリーを中心に構成した「アクティブタフスタイル」を提案。フリード クロスターのアクティブかつタフなイメージをより一層高めてくれるメニュー。

ブラック塗装の15インチアルミホイール

エアーとクロスター共通のインテリアアイテムとしては、ちょっとした小物を置ける「折りたたみセンターテーブル」や、急速充電にも対応する「USB_PDチャージャー(Type-C)」、ドアオープンに連動して発光する「サイドステップガーニッシュ」、広範囲に滑り止めを設定し、安心して乗り降りができる「サイドステップガーニッシュカバー」などを多数のアイテムを用意。

また、クロスターの2列シート仕様(5人乗り)の荷室まわり用アイテムとして、天井付近に寝具などを収納できる「ルーフラック」、遊び心のあるデザインで収納を楽しめる「トランクサイドボックス」、吸盤フックで簡単に取り付けられる「テールゲートタープ」は3分割仕様で使い勝手の幅も広いなど、ユーザーの多様な趣味嗜好に対応できるアイテムを用意している。

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