「友達価格で安くして」「初回はええよ」「2回目もお願い!」「えっ!」→断ったら疎遠に…知人からの依頼を引き受ける際に注意すべきポイントは?【弁護士の助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

フリーランスとして働く場合、「価格設定」は収入に直結するため非常に重要です。しかしながら、知人からの依頼などで相場より安い「友達価格」で仕事を引き受けてしまうこともあるでしょう。そこで本記事では、クリエイティブ分野に特化したリーガルサポートを行っている弁護士の宇根駿人氏・田島佑規氏による著書『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』(翔泳社)から一部抜粋して、友達価格から「通常価格」への交渉をスムーズに行うコツについて解説します。

友達価格でやってと言われた

類似のケース

●実績にもなると思うから、安い金額でやってほしいと言われた

●初回取引なので、トライアルとして安い金額でやってほしいと言われた

相談事例

友達だと思って信頼してたのに!!

駆け出し動画クリエイターのXさんは、案件獲得のため、自らのSNSで「フリーランスになったので、動画制作の案件があればぜひ声をかけてほしい」と発信していました。

すると、学生時代の友人Zさんから、「新たにY社を起業したのだが、Y社の採用ページに掲載する会社紹介動画を制作できる人を探している。Xは学生時代から動画を作るのが得意だったし、フリーランスとして働き始めたという発信を見たので、ぜひお願いできないか? 起業したばかりで正直予算はないので、申し訳ないが友達価格でお願いしたい」と連絡がありました。

Xさんが具体的な予算を確認したところ、相場の半額程度しか予算はありませんでしたが、友人のZさんが起業したY社を応援したいと思ったことや、ひとまず売り上げになり、また、実績にもなることから、友達価格で案件を受けることとしました。実際に制作した動画は好評で、Y社の案件は無事終了しました。

その後、Xさんは、他のクライアントからの引き合いも増え、フリーランスとして安定的な収入を得られるようになってきました。

そんな折、Zさんから「SNSでY社の企業アカウントを運用しようと思っている。そのSNSに掲載する動画制作を頼めないか? 予算は前回と同程度くらいでお願いしたい」と連絡がありました。

Xさんは、フリーランスとして実績も出てきていたことやY社の業績が順調という噂を聞いていたことから「前回は予算が厳しいということで、応援の意味も込めて友達価格でやったが、今回は通常価格でお願いしたい」と回答しました。

すると、Zさんから「予算的に難しいので、通常価格になるのであれば他の人にお願いする」と言われました。

Xさんとしては、友人だと思って応援の意味も込めて友達価格で受けていたのに、単純に安く使われていただけのような気がして、もやもやした気持ちが残ってしまいました。

それ以来、Zさんと連絡を取るのが億劫になり、Zさんとは学生時代から仲がよかったのですが、この案件を機に疎遠になってしまいました。

対応策

予防策をきちんと講じるしかない

今回の事例は、通常の案件であれば費用感が合わなかっただけの案件として済むのですが、友人からの案件ということで感情的な部分が絡んでややこしくなってしまっています。

残念ながら、残ってしまったもやもやの気持ちは、どうすることもできないので、今後は予防策をきちんと講じるようにしましょう。

予防策

友人関係だからこそ、条件をはっきりと

仮に、Xさんが採用ページに掲載する会社紹介動画を受注する際に、「正直、これだと相場の半分くらいの予算感で厳しいけど、駆け出しの私に声をかけてくれてありがたかったし、Y社の応援の意味も込めて、今回限定で特別に友達価格で引き受けるよ!」と伝えていたらどうでしょうか?

仮に、Zさんが安く使ってやろうと思っていたのであれば、2回目に声がかかることはなかったでしょうし、また、どうしても予算が厳しいのであれば、「何とか今回も特別に友達価格でお願いできないか」という旨の連絡が来るなど、もやもやが残るやりとりを防げた可能性はあるでしょう。

知人からの案件は、お互いがお互いを思って受発注を行うこともあり、お互いの信頼関係をベースに取引が行われます。そのため、一度トラブルになってしまうと、ビジネスライクな対応を超えてお互いが感情的になり、収拾がつかなくなることが少なくありません。

「信頼している知人からの案件だから詳細に意図を説明したり条件を詰めたりしなくてもわかってくれるだろう」と思うことなく、知人からの案件だからこそ、きちんと説明し条件を確認することをおすすめします。

■ワンポイントアドバイス

類似のケースにもある通り、特に駆け出しのころは相場より安い金額でやってほしいと依頼を受けることはよくあります。

実績作りなどを考慮して安く受注する分には何ら問題ありませんが、その際にはきちんと相場より安い金額であるということや今回限りの特別価格であることを見積書などで明示しておきましょう。

次回受注する際に、通常価格での受注を交渉しやすくなります。

宇根 駿人

大道寺法律事務所

弁護士

田島 佑規

骨董通り法律事務所

弁護士

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