『オッペンハイマー』観客動員100万人突破記念イベント開催、物理学者が映画を読み解く!

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現在公開中の映画『オッペンハイマー』の観客動員100万人突破記念トークイベントが5月7日(火)、新宿ピカデリーにて行われた。

本作は、第二次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者J・ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を実話にもとづいて描いたクリストファー・ノーラン監督最新作。第96回アカデミー賞で作品賞・監督賞をはじめ最多7部門を受賞し、公開から37日となる5月4日に観客動員100万人越えを達成、興行収入は16億円を突破し、2024年公開洋画作品No.1を記録している。

スペシャルゲストには、来日時の講演に参加してオッペンハイマー本人に会ったこともあり、現在は世界平和アピール七人委員会のメンバーでもある慶應義塾大学名誉教授・小沼通二氏と、映画『オッペンハイマー』の字幕監修を担当した京都大学大学院理学研究科教授・橋本幸士氏のふたりが登壇した。

字幕を監修した橋本氏は、「字幕監修で何度も観ましたが、毎回新しい視点があり、自分の原点に返らされる作品。初めて観た時には物理学者を辞めようかと思いました。科学の兵器転用について自分のなかに内省の意識があり、それに蓋をして生きてきたことに気が付きました。多くの科学者の心の蓋を外し、各人が作品を観てどう感じたかや、科学の価値や社会的意義、責任について語り合っていくきっかけをくれた」と作品を受けとめた。

今回で3回目の鑑賞という小沼氏は、観るたびに印象と感想が変わったそうで、「無駄がない。オッペンハイマーの聴聞会に関してある程度知っていたつもりだったが、知らないこともあった。過去の出来事と思う一方で、いや、これは過去の話としてしまっていいのだろうか」と作品が投げかける普遍的なテーマについても言及した。

また、1960年に来日したオッペンハイマーの講演に参加した経験を持つ小沼氏は、「今でもその会場の様子が目に浮かびます。当時、彼は50代でしたが、肩を丸めた、ひどく疲れたくたびれたおじいさんだなというのが最初の印象。その頃には聴聞会も終わっていましたから、痛めつけられたんだろうな」と、『オッペンハイマー』の大きな見せ場のひとつである「聴聞会」によって、オッペンハイマー自身がいかに傷つけられたかを慮るコメントも。さらに小沼氏は、1955年に出版されたオッペンハイマー編「科学50年史―20世紀の科学」の貴重な翻訳本も持参。オッペンハイマーが執筆した序文を当時大学院生だった小沼氏が翻訳し、彼の文章を初めて日本に紹介した人物であることも明かした。

京都大学の物理学科で『オッペンハイマー』を語り合う会を開催したという橋本氏は、「原爆に関する教育がしっかりとされている日本では、原爆と科学について素直に感じたことを口にしてはいけないような雰囲気があるが、この映画は科学者に深く考える機会を提供した。これからの科学を皆で議論するような雰囲気を、日本の科学者たちの間で醸成していく機会になったと思う」と若い科学者たちに与えた影響を語った。

最後に小沼氏は、日本の現在の状況などと絡めながら「この作品で描かれることを他人事だと思わないで、過去の話であると同時に現代の日本にも通じる、決して蔑ろにしてはならないテーマが描かれており、学ぶべきことがたくさんある」と締めくくった。

『オッペンハイマー』
公開中
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