「ヴィトンで爆買い」中国人パワー健在 訪日旅行者数は韓国人の6割も買い物額では圧倒

ゴールデンウィーク(GW)と歴史的な円安が重なり、訪日外国人旅行者の動向が連日報道される中、中国人旅行者のブランド品"爆買い"が脚光を浴びている。

2023年4月末に水際措置が撤廃された後も中国人の訪日旅行は回復が鈍く、コロナ禍前のような爆買いはもう起きないとの分析もあったが、観光庁の統計や欧州高級ブランドの決算からは以前と変わらず買い物にお金をつぎ込む中国人旅行者の姿が見える。

中国人旅行者は2019年の半分ほど

GW中に観光地に出かけた人は、中国語の会話を相当耳にしたのではないだろうか。中国は5月1日から労働節の5連休で、この時期は1年の中で日本と中国で大型連休がかぶる唯一の期間なのだ。

観光庁の調査によると、2019年は訪日外国人旅行者約3188万人のうち 959万人を中国人が占めた。しかしコロナ禍を経て2023年4月末に日本が水際対策を撤廃して以降、中国人旅行者の戻りは鈍い。

2023年の訪日外国人旅行者が2019年比78.6%の約2506万人まで回復した一方、中国人は同74.7%減の約242万人にとどまる。外国人旅行者に占める中国人比率は約30%から10%弱まで低下した。東京電力福島第一原子力発電所が2023年8月下旬に処理水を海洋放出したことで日本叩きが起きたことや、物価の安い東南アジアの国々が同年末から2024年初めにかけて相次ぎ相互ビザ免除措置を実施したことなど複数の要因が重なり、昨年10月の国慶節、今年2月の春節と2回の大型連休も日本のインバウンド業界が期待したほど中国人は来なかった。

2024年1~3月も訪日中国人旅行者数は2019年の半分ほどで推移し、韓国の6割ほどにとどまり、台湾を下回っている。

京都観光切り上げブランド店へ

だが、このGWは日本に来る中国人がこれまでになく増えた。現地旅行予約サイトの調査では、海外旅行先の人気ランキングで日本がトップだった。中国に住む筆者の友人もかなりの人数が来日しており、「大学時代の同級生とたまたま飛行機で一緒になった」「東京のホテルで旧友とばったり会った」という話も聞いた。

中国のモバイル決済アプリ「アリペイ(支付宝)」を展開するアント・インターナショナルによると、今年5月1~2日の海外でのアリペイ利用額は前年同期比10%増えた。中でも日本は同164%増と急伸したという。

処理水放出の影響が薄れてきたに加え、一時1ドル160円をつけるほどの歴史的な円安が背景にあるのは間違いない。円は元に対しても安くなっており、爆買いが流行語になった2015年よりも円安の水準にある。5月に10年ぶりに来日した中国人男性は、「物価は北京とほとんど変わらない」と驚いた様子だった。

4月末には中国のSNSで「日本のヴィトンにいるのは皆中国人」というハッシュタグがトレンド入りした。中国人が日本のブランド店で爆買いする動画も拡散している。

ルイ・ヴィトンやセリーヌ、プラダなど高級ブランドのバッグや小物は、空前の円安と免税措置によって日本での価格が中国に比べて2~3割安くなっており、SNSには売れ筋アイテムの日中の定価を比較した情報が飛び交っている。

日本で買って免税の優遇を受ければルイ・ヴィトンのキャリーオール(モノグラム)は日本円換算で約7万円、ディオールのトゥジュールなら約13万円安くなる。日本円で20万円を超えるバッグだと飛行機代を入れても日本で買った方がお得になることが多い。

5月1日から3泊4日で日本を訪れた会社員の徐さん(仮名、32歳)は、京都観光を半日で切り上げ、大阪に買い物に向かった。旅行中の写真をSNSにアップしたところ、職場の上司から「ヴィトンの小物とミュウミュウのバッグを買ってきてほしい」と頼まれたからだ。

1人あたりの買い物額、圧倒的トップ

実は中国人による日本での高級ブランド漁りは最近始まったことではない。2023年夏にも中国のSNSで「中国人のおかげで日本のヴィトンが大繁盛」というハッシュタグがトレンド入りしている。

前述の通り訪日中国人旅行者の数は回復せず、日本でも「爆買いはもう起きない」「中国人もコト消費にシフトしている」との分析が広がったが、ツアー客から個人客にシフトしるため爆買いが目に見えなくなっただけで、データを見る限り中国人は相変わらず日本で買いまくっているのだ。

レジャー・観光で日本に来ている外国人旅行者の1人あたりの買い物金額(2024年1~3月、速報値)は、中国人が12万2005円で2位の香港人(8万5099円)、3位のフィリピン人(7万7885円)を大きく引き離し、韓国人の5倍以上に上る。

https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001738293.pdf

中国人の日本旅行での支出は、買い物代が突出して多い。出典:観光庁プレスリリースhttps://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001738293.pdf

欧州高級ブランド、日本が絶好調の理由

欧州の高級ブランドの決算からも、中国人が日本で高額品を購入していることが分かる。

ルイ・ヴィトンやセリーヌを傘下に持つ仏LVMHは2023年 4~6月の売上高が北米市場で前年同期比1%減少した一方、日本では同29%伸びた。ジャン・ジャック・ギオニ最高財務責任者(CFO)はその理由を「中国人旅行者の欧州での消費はまだ回復していないが、日本では急回復しており、コロナ前の2019年の水準に近づいている」と語っていた。筆者は2023年4月に都内にあるヴィトンの店舗を訪れたが、中国語を話すスタッフがカバンをいくつも持ってきて「月に2、3回は買いに来ている」と話す中国人を接客していた。

LVMHが4月16日に発表した2024年1~3月期の売上高は前年同期比2%減少し、日本を除くアジア(つまり、主に中国のことだ)の売上高も同6%減少したが、日本市場は同32%伸びた。ギオニCFOはこの時も「中国人による世界需要が前年同期比約10%増加し、特に日本市場の伸びに影響した」と分析し、中国人が自国ではなく日本で買っているとの見解を示した。

グッチやサンローランを傘下に持つ仏ケリンググループは2023年10~12月期の決算説明会で、「中国の旅行者は日本市場に大きな貢献をしている」と述べた。

同グループは売上高の半分近くを占めるグッチが不振に陥っている。2024年1~3月のグッチの売上高はアジア太平洋(同28%減)、西欧(同15%減)、北米(同18%減)が2ケタ減となったのに対し、日本だけが同7%増えた。

サンローランの売上高はアジア太平洋が同12%減、西欧が横ばい、北米が同6%減で、日本は同34%増。決算資料には「日本で力強い成長」と記載されている。

グッチとサンローランの2024年1~3月期の業績:https://www.kering.com/api/download-file/?path=Kering_Presentation_Q1_24_a82b507321.pdf

プラダやミュウ ミュウなどを展開する伊プラダ・グループの2024年1~3月の地域別売上高はミュウ ミュウの好調を背景にアジア太平洋(日本を除く)が同16%増、欧州が同18%増、アメリカが同5%増、中東は同15%増といずれも伸びているが、中でも日本は同46%増と突出している。日本市場について同社は「外国人旅行者の貢献」と説明している。

プラダ・グループの決算資料よりhttps://www.pradagroup.com/content/dam/pradagroup/documents/investors/Q1-2024/Prada%20Group_Q1_24_Revenue%20Presentation.pdf

LVMHのギオニCFOは2024年1~3月期の決算会見で「日本では何度も値上げした」と述べた。円安が急ピッチで進み日本で買うと割安になることを是正する目的だが、値上げが繰り返されることで「今が一番安い」と消費者が考え、購入を急ぐという循環が生じている。

インバウンド需要の拡大で都内のホテル宿泊費が高騰し、出張難民も増えているが、GW中に日本に旅行した中国人男性に聞くと、「この時期は中国も高いし、東京のホテル代も元換算だとそこまで割高感はない」と返ってきた。「コスト的に国内旅行感覚で来られることが分かったので、6月の3連休でまた来たい」とのことだった。(浦上早苗)


【筆者プロフィール】

浦上早苗:経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。新聞記者、中国に国費博士留学、中国での大学教員を経て現職。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。

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