ズワイガニのオス「松葉がに」は山陰の冬の味覚の王者ですが、ズワイガニのメス「親がに」も冬の食卓の味として山陰の人々に親しまれています。他にもセコガニとか、石川県では香箱ガニなどとも呼ばれています。
この「親がに」は、資源保護のため、山陰では1年のうち11月と12月の2か月間しか漁を行っていないはずなんですが、最近山陰のスーパーでは「親かに」というカニが販売されていて、消費者の人気を集めていると言います。
この「親かに」、調べてみると、意外なことが分かりました。
先週、鳥取県米子市内のスーパー。
鮮魚コーナーで1枚270円で販売されていたのは、「親かに」です。
スーパーの鮮魚担当者
「結構引き合いが多くて、うちの店でも1日に1ケース・2ケースぐらい売れる時もあります。普通の値段よりもかなりお買い得な値段で入ってきている感じです」
山陰地方で親のカニと言えば、「セコガニ」とも呼ばれる、ズワイガニのメス「親がに」。
濃厚なカニみそや内子・外子など色んな味が楽しめるほか、みそ汁にも持って来いの山陰の食卓には欠かせないカニです。
このスーパーで販売されていたのは北海道産の「親かに」。
最近では1週間のうち3日程度は店頭に並び、1日40枚売れることもあるといいますが…
山陰の「親がに」の漁期は11月と12月の2か月だけのはず。松葉がによりも漁期が短く、わずか2か月程度しか食卓には登場しません。
実は、スーパーの鮮魚担当者も…
スーパーの鮮魚担当者
「(仕入れ業者からは)北海道産のセコガニと聞いて仕入れています。鳥取市に10年前に5年くらい勤めていましたが、北海道産のカニがこの時期に入ってくるって話は一切なかったですし、聞いたこともなかったです」
このカニは、山陰でポピュラーな「親がに」なのでしょうか。
取材班はスーパーで1枚購入し、早速、水産試験場の研究員に見てもらいました。
鳥取県水産試験場 藤原大吾 研究員
「これはうちで言う、親がに、ズワイガニのメスではないですね。オオズワイガニのメスになると思います」
私たちが知っているズワイガニのメスではなく、「オオズワイガニ」というカニのメスではないかと話します。
その理由について…
鳥取県水産試験場 藤原大吾 研究員
「こちらが、鳥取県沖で捕れるズワイガニのメスですね。口の形状を見ていただくと、下の方が直線的で、これは口がM字型になっています。これはオオズワイガニのメスですね」
ポイントは口の形です。
親がにの口の形は「平」なんですが、スーパーで販売されていたカニの口の形は「M字型」です。
確かに形が異なることが分かります。
「オオズワイガニ」と言えば…
北海道立総合研究機構 栽培水産試験場 渡野邉雅道さん
「地元で刺し網という漁具でカレイとかを捕っているのですが、オオズワイガニがかかることで、カレイが捕れなくなってしまいます」
オオズワイガニは現在5種類確認されているズワイガニのうちの一種。
見た目こそズワイガニ(松葉がに)にそっくりですが、松葉がによりも甲羅が大きく脚が太いのが特徴で、実は全くの別物です。
去年、北海道の一部地域で大量発生し、網にからまったり切ったりして、北海道の漁業に深刻な被害をもたらしました。
しかも…
北海道立総合研究機構 栽培水産試験場 渡野邉雅道さん
「実際今捕れているものは、大きさが7センチ8センチで、どちらかというと小型のカニなもんですから、あまり商品価値がないんです」
オオズワイガニと言いながら、網にかかってしまうのはどれも小さいものばかり。
北海道は駆除目的で特別採捕許可を出しましたが、あまりに捕れすぎるため地元の直売所で1杯150円で販売。すると激安ガニとしてニュースにも取り上げられ、厄介者から人気者に変身しました。
そして今回、スーパーで販売されていた「親かに」は、このオオズワイガニのメス。
オオズワイガニは冬以外も捕っているため、山陰では「親がに」を捕っていない今の時期も、新鮮なカニが店頭に並んでいたというわけです。
去年の10月頃から北海道からカニを仕入れ、中国地方のスーパーに卸しているという業者に話を聞きました。
仕入れ業者は
「北海道の漁協さんの方から、処理しきれないくらい捕れているので、親がにとかを扱われている鳥取でも売ってくれないかってことで」
去年、多い時には300ケース・900キロを仕入れ、山陰では4つのスーパーマーケットチェーンに販売しているそうで、今後も水揚げがある限り入荷していきたいとしています。
また、オオズワイガニを扱う北海道の漁協によりますと、オオズワイガニのメスもオスと同様、一定数の水揚げがありますが、そもそも北海道ではメスを食べる文化が根付いておらず、道内ではあまり売り物にならないとのこと。
また、鳥取県のほかに石川県などからも引き合いがあり、オオズワイガニのメスを道外に出荷しているそうです。
年中メスガニが食べられるとあって、山陰の消費者にとってはうれしいニュースですが、漁業関係者にとってはちょっと複雑なようで…
鳥取県水産試験場 藤原大吾 研究員
「まあ、漁期を守って資源管理を進めている上で、メスガニの時期じゃないときにカニが出回ることは、ちょっと複雑な思いを抱いています」
ちなみに、このオオズワイガニのメスの味。いつもの「親がに」と同じように味はおいしいということです。
また、北海道の栽培水産試験場によりますと、捕獲されるオスのオオズワイガニのサイズは去年より大きくなっていて、生息域も拡大しているといいます。
詳しい生態については現在も調査が続いている「オオズワイガニ」。北海道から遠く離れたカニどころ・山陰でも注目が集まっています。