輪島から漆芸を後世に…地震を乗り越え晴れて卒業 多くの人の支えで 研修生が卒業制作に込めた思い 富山

能登半島地震で被災した石川県輪島市で人間国宝の技術を学ぶ輪島漆芸技術研修所の研修生たちが、2か月遅れで卒業を迎えました。卒業制作の真っ只中で一度は制作の場を失いましたが富山大学などの助けを受けて卒業制作を完成させました。

5月7日、石川県金沢市で開かれた卒業式。輪島市で人間国宝の技術を学ぶ輪島漆芸技術研修所の研修生14人が、およそ2か月遅れで門出を迎えました。

輪島漆芸技術研修所 小森邦博所長:「この地震を機に私たちの生活は一変し、大変厳しい状況に置かれました。研修所も大きな被害を受けて休講を余儀なくされました」

元日に北陸を襲った能登半島地震。漆の里として知られる輪島市も甚大な被害を受けました。

輪島漆芸技術研修所も建物や敷地に亀裂が入り、漆の制作に欠かせない水も使えなくなり卒業制作が佳境を迎えるなか休講を余儀なくされました。

そんな研修生たちを受け入れたのが漆を制作する環境がある複数の大学や施設です。

そのうちの一つが漆器産業が盛んな富山県高岡市にキャンパスがある富山大学芸術文化学部です。漆を専門とする教員が数多く在籍していて設備も整っています。

芸術文化学部では1月末から受け入れをはじめあわせて4人の研修生が卒業制作に打ち込みました。

地震直後の心境について研修生の小野美汐さんは…。

専修科2年 小野美汐さん:「完成させたいっていう気持ちが少なくなって、どちらかというと地震の方に意識がむいてしまって、モチベーションが無くなってしまった感じはあります」

富山大学や研修所の講師からサポートを受けるなかで、一度は投げやりになってしまった気持ちに変化があったといいます。

専修科2年 小野美汐さん:「ここで先生たちが、すごく自分たちを支えてあげようっていう意思を感じて、それだったら、私もそれに報いるようなお仕事をしなきゃって思って…」

思い出の街並みを題材に

黙々と制作に打ち込む吉田有沙さんには地震の前から題材に選んでいた風景があります。

吉田有沙さん:「好きな風景で自分が輪島で生活しているときに助けられた場所なので」

地元長野県から輪島に来て日が浅いころに研修所の帰り道でみた輪島の夜の街並みです。

吉田有沙さん:「川と家の街並みから出てくる光がすごく温かくて、この地に生きている感じがするなっていうのがあって、それを作品にできたらいいなって。当時は輪島にきてまだ1年も立っていなくて、生活とかがあまり慣れなくて…ストレスだったんですけど…そういう街並みを見て少し好きになったというか…なんかここもいいところだなと思って」

街並みは変わり果てた姿に…

吉田さんは地震から2か月後小野さんと一緒に輪島を訪れました。

吉田有沙さん:「住んでいた町が大きく変わるっていうのはショックでしたし、ひどすぎてここからどうやってもどっていくんだろうみたいな」

2人が3月3日に輪島を訪れたときに撮影した映像です。広がっていたのは慣れ親しんだ街の変わり果てた姿でした。吉田さんが題材に選んだあの場所も…。

吉田さん:「道路のほうにお家がでてきちゃったりして…で、その道が通れないとか…」「全部を全部元通りにすることは難しいのかなとは思うんですけど、その土地に輪島の人たちが安心して元の制作に戻れるような感じになればそれが一番いいかなと思います」

被災後の輪島に足を運び作品に向き合う姿勢にも変化がありました。

吉田さん:「どうにかして完成させようという気持ちは強くなりました」

記者:「見る人にはどんなことを感じてもらいたい?」

吉田さん:「土地の温かみを感じていただけたらいいなと思います」

輪島から漆芸を後世に…卒業制作に込めた思い

そして7日。富山大学で卒業制作に励んだ4人の研修生が卒業の日を迎えました。

金沢市のしいのき迎賓館では卒業作品展がはじまり、地震を乗り越えて富山大学で制作に励んだ研修生たちの作品がお披露目されました。

「先生ありがとうございました」

専修科2年 中川綾子さん:「一区切りできたなっていう自分の中でもほっとした感じですかね」

専修科2年 富樫知優さん:「慣れない環境で大変な作業ではあったんですけど、支えてくださった皆様に感謝の気持ちしかないですね」

小野さんの作品です。

小野さん:「完成度でいうとそこまでは高くないんですけど…まぁやり切れたかなとは思いますね。普通では会えない先生方とか周りの方もいっぱいいたので、すごく大きな経験になりました。漆への向き合い方とかもちょっと変わって、もっと漆を好きになりたいなと思えるような環境だったので、そこがすごくよかったです」

小野さんは作家として独立し漆作品の制作を続けることにしています。

吉田さんの作品。タイトルは「灯(ともしび)」です。

貝殻を使う「螺鈿(らでん)」とよばれる技法を用いて星の輝きを表現しました。

吉田さんは卒業後も輪島に残り輪島漆芸技術研修所の次の研修過程で漆を学ぼうと考えています。

吉田有沙さん:「3年また輪島で勉強しようかなと思っています。震災が起こってそのままで終わってしまっていたら漆をやめちゃおうかなという気持ちになるかもしれなかったというか…。ここまで出来たので次の目標が見えてくるっていうのがあったので、そういう風にしてくださった方々にすごく感謝しています」

新たな一歩を踏み出した卒業生たちの作品が並ぶ輪島漆芸技術研修所の卒業作品展は金沢市のしいのき迎賓館で今月12日まで開かれます。

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