悲劇後30年で進化も、完敗マリと再戦、久保建英の招集は【優勝U23日本代表「決勝AT17分間」の舞台裏とパリ五輪「上位進出」の課題】(3)

日本代表が次に狙うのはパリ五輪本大会での上位進出! 撮影/渡辺航滋(Sony α1使用)

サッカーU-23日本代表が、アジアの頂点に立った。U-23アジアカップで、パリ・オリンピック出場権を獲得するのみならず、優勝したのだ。サッカージャーナリスト後藤健生が、若き日本代表が見せた「プロフェッショナルな戦い」と「パリ五輪本選への課題」を検証する。

■「絶対に負けられない戦い」規律を守ってプレー

まず、“歴史”を途切れさせるわけにはいかないという意識も強かっただろう。また、新型コロナウイルスによるパンデミックでほとんどの世界大会が中止になったため、パリ・オリンピック世代の選手たちの多くはU-20ワールドカップに参加することができなかったのだ。それだけに、将来の日本の強化のためにも、パリ・オリンピックでの戦いにはどうしても参加する必要があった。

つまり、選手たちは「絶対に負けられない戦い」という重圧を背負って戦っていた。

そんな中では数的優位に立ったときにも、精神的に未熟だったら、浮足立って攻め急いでバランスを崩してしまうこともありうる。

さらに、1対1の同点で迎えた後半の立ち上がりには、数的不利のカタールにゴールを決められてしまい、日本は1点ビハインドに追い込まれた。

数的優位の状態で失点して、リードを許す……。普通だったら、慌てたり、焦ったりで自分たちのプレーができなくなってしまってもおかしくない。

だが、日本代表の選手たちは慌てることなく、しっかりと規律を守ってプレーし続けた。67分にCKから同点に追いついた後も決して攻め急ぐことなく、後は慌てずに相手の足が止まるのを待って延長戦で2ゴールを決めた。

■思い出される1993年の「ドーハの悲劇」

今から30年余り前の1993年秋に、ドーハの地では集中開催方式のアメリカ・ワールドカップ・アジア最終予選が行われた。

6チームの総当たりで、2位までにワールドカップ出場権が与えられるレギュレーションだった。そして、ハンス・オフト監督率いる日本代表は4試合を終えた時点で首位に立って最終戦に臨んだ。イラクに勝利しさえすれば、無条件にワールドカップ出場権が手に入る。

そして、日本は1対0でリードして前半を終えた。すると、初めてのワールドカップ出場を目の前にして、選手たちは冷静さを失っており、ハーフタイムの控室は選手の怒号が響き、オフト監督の言葉が聞こえないような状態だったという。

そして、後半に1点ずつを取り合って、日本が2対1でリードした状態で試合が終盤に差し掛かった。だが、日本の選手たちは冷静に試合をコントロールすることができず、アディショナルタイムにイラクに同点ゴールを許してワールドカップへの切符を失った。

現在の23歳以下の若い選手たちがただただ冷静沈着に、プロフェッショナルに戦って結果を手繰り寄せた姿を見ていて、僕は30年前のドーハを思い出していた。

この30年間の日本のサッカーのさまざまな経験と努力が、今の若い選手たちの精神的なたくましさにつながったのだろう。

■「強化試合で完敗」マリ代表と本大会で再戦

ただし、このような戦い方が通用するのはアジア予選までである。

アジアのチーム相手には、選手のテクニックや戦術能力、選手層の厚さ、監督以下スタッフの準備などを含めたチームの総合力で、明らかに日本が優位な立場にある。

もちろん、アジア諸国にもそれぞれのストロングポイントがあり、日本が90分間にわたって圧倒して勝てるような大きな差はないのだが、それでも日本が優位にあることは間違いなく、今大会のようなプロフェッショナルな戦い方をすれば、かなり高い確率で勝利を手繰り寄せることができる。

だが、オリンピック本大会での戦いでは、それだけでは通用しない。「チームの総合力で日本が劣る」と決めつける必要はないが、必ずしも日本が優位にあるわけではない。

本大会で対戦することになったマリ代表とは、3月22日に強化試合ですでに対戦している。

そのマリ戦で、日本は開始早々に平河悠の得点で先制したのだが、その後はマリのスピードに圧倒されて3点を奪われて完敗を喫した。

その他、オリンピック本大会で対戦するのはパラグアイとイスラエルだが、南米の古豪パラグアイは粘り強さと堅固な守備を持っている。イスラエルの力は未知数だが、昨年のU-20ワールドカップで日本代表はグループリーグ最終戦でイスラエルと対戦して、相手に退場者が出たにも関わらず、まさかの逆転負けを喫してラウンド16進出を阻まれた。

こういう相手には、いくら沈着冷静に戦っても、計算通りの結果が出るとは思えない。冷静さと規律はもちろん必要なのだが、時にはリスクを負ってでも強気で勝ちに行く姿勢も求められる。90分を計算することもできはい。キックオフ直後から90分の笛までフルパワーで勝負するしかない。

U-23アジアカップの開催が本来の1月開催から4月開催にずれ込んだため、アジア予選突破決定から本大会まで、わずか2か月強しかない。だが、オリンピック本大会で上位進出を目指すのなら、「アジアモード」から「本大会モード」に切り替える作業も必要になる。

メンバー選考でも、海外組の選手をどれだけ招集できるかは未定だし、久保建英のようなA代表で中心となっている選手もオリンピックで起用すべきか……など、オリンピック本大会に向けた大岩剛監督の動きからも目が離せない。

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