“完全食” 煮干し文化を世界へ 産地5県が参加「煮干しサミット」ウィークリーオピニオン

煮干し業界が全国規模での再活性化を目指して動き出しました。消費低迷や漁獲量の減少など、様々な課題に直面しながらも、煮干し文化を守り、広めるための取り組みが進んでいます。

【住吉光アナウンサー(以下:住)】長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン今週も平家達史NBC論説委員(以下:平)とお伝えします。

【平】今回のテーマは「全国に広げよう!煮干しの輪」です。

【平】煮干しの代用品としては《だしパック》や《粉末・顆粒タイプの出汁》それに《白だし等の液体タイプ》もあります。煮干しの消費量は、総務省の家計調査によりますと、1世帯あたりの煮干しの年間購入額が2000年では《692円》だったのが、2010年には《379円》と半減しています。

60代:
「(Q煮干しって食べますか?)食べますね。味噌汁もへたすりゃカレーライスまで、煮干しで出汁取って」

70代:
「大好き!あの粉末のあるでしょ。あれを使ってます」

80代:
「使わないですね。とりあえず便利になりましたものね。

30代:
「食べない。時短で出来る商品もたくさんあるので。」
20代:
「手間かかっちゃうから」

18才:
「食べないです。幼稚園の時はおやつで出てたから(食べてた)」

50代:
「家では使わないです。ちっちゃい頃は食わされてました。味噌汁の中に入ってたりとか、甘辛く煮た甘露煮みたいにして食卓に出てた記憶はありますけど」

【住】簡単で時短できる便利な商品が好まれる時代ですから、なかなか煮干し消費には結びつかないのが現状なんですね。

消費量が減少するなか「魅力を知って」

【平】全国の煮干しの生産量は、20年前に比べて半減しています。

長崎での煮干し生産量は、2021年には日本一だったんですが、2022年には広島県に抜かれて2位となっていて、20年前の半分以下となっています。

生産量が減った要因として「消費量が減ったこと」に加え「カタクチイワシの漁獲量減少」や「漁業者数の減少」などが挙げられます。

長崎のほか産地4県が参加 全国初開催「煮干しサミット」

そこで「煮干しの魅力」を知ってもらおうと、2024年4月、雲仙市で全国初の「煮干しサミット」が開かれました。

煮干し文化を次の世代に繋げようと、初めて開かれた「全国煮干しサミット」会場には、全国トップクラスの生産量を誇る長崎県の煮干しのほか、千葉・香川など様々な産地の煮干しが並びました。

煮干しイヤリングに、煮干しヘアクリップ、煮干しTシャツなどのグッズも販売され、長崎県の内外から約1万人が訪れました。

長蛇の列ができたのは煮干しラーメン店です。橘湾産を含む全国20種類以上の煮干しをブレンドして作った濃厚なスープが特徴です。

「風味が本当に珍しいなと思って」

「煮干しの味がやっぱ凄いっすね。めっちゃうまいです」

全国の煮干し生産量の減少などを受け「煮干し文化」を守ろうと、各地の漁業者・加工業者らが立ち上がりました。

全国煮干しサミットin雲仙大会 竹下千代太 実行委員会委員長:
「色んな食べ方があるので、ぜひ煮干しをいっぱい味わってもらいたい」

全国煮干しサミットin雲仙大会 井上幸宜会長:
「これがいい起爆剤になって広がっていくんじゃないかなっていうことで」

実行委員会では、今後、全国各地での煮干しサミット開催を目指すとしています。

【平】今回は、千葉、香川、熊本、佐賀の煮干し漁業者や加工業者が参加しました。しかし、まだ呼びかけていない県もあるそうです。次のサミットではより多くの煮干し産地に参加を呼び掛けたいということです。

煮干しの未来に危機感

【住】県外の方から学ぶことも多いでしょうね。
【平】今回のサミットに参加した香川県伊吹島の漁業者に参加した理由と、伊吹島での煮干し業界をめぐる現状について、聞きました。

伊吹大網組合(香川県)真鍋和弘総代:
「人手不足でちょっと困ってます。若手も来るんですけど、育っていかないというか季節雇用(6~9月)なんで。今の現状を変えないといけないのは分かってるんですけど、なかなか行動に移せないというか、実際何をしたらいいか分からないというところがあって」

長崎の漁業者からの“猛アピール”を受け、全国煮干しサミットへの参加を決めました。

真鍋さん:
「漁業者や加工業者ら色んな人と交流をしたかったので参加することにしました。このまま何もせずに島の中でいても次に進めないじゃないですか。これからのことを考えたら、そういうことは続けていなかいかんのちゃうかなとは思いますね」

【住】煮干しをめぐる課題は、全国共通のものも多いんですね。
【平】その課題を共有し、解決に繋げられないかと、雲仙市の巻き網漁業の会社社長が、全国サミット開催に踏み切りました。その社長の持続可能な漁業に向けての取り組みについても取材しました。

他県に出向き「やろうよ」猛アピール

雲仙市南串山町の巻き網漁業会社「天洋丸」。竹下社長が、全国煮干しサミットの発起人です。

天洋丸 竹下千代太社長:
「同業者が課題を共有して情報を交換したりすれば課題解決にも繋がるし、色んなプラスの情報も入ってくるし。やるなら今しかないなっていうので」

サミット開催の4か月前から、他県に出向き、社長自ら出店を依頼し、開催が実現しました。

竹下社長:
「やろうっていう人もいれば、いやちょっとそこまでは無理、新しいことになかなか踏み切れない。目の前の仕事に追われてしまうんですよね。忙しいからできないって、ついなってしまうんですよね。
地域を盛り上げて観光にも繋げてっやった方が将来ためになるんじゃないかっていうのもあって…で、やろうよと」

竹下さんは、5年前から、漁で使用した網を捨てずに有効活用しようとタワシにリサイクルして販売しています。しけで漁に出られない日などに漁師自らが作業しています。

NIBOSHIは世界に誇れる“完全食”

網エコタワシは地元や首都圏などで毎月1,500個の売上があるそうです。また煮干しをエサに混ぜて育てたサバ=《ニボサバ》の養殖を2年前から始めました。

竹下社長:
「脂分が多くて煮干しには向かないやつを選別して抜いたやつを(巻き網にかかった)サバのエサで与えたら、それで結構太ったんですよね。それがきっかけで。煮干しを食べたサバってことで《ニボサバ》って名前をつけて」

煮干しとしては大きすぎたり、脂分が多すぎたりして商品にはならないカタクチイワシを活用しています。生け簀でおよそ2万3,500匹のニボサバを養殖し、主に地元の旅館などに販売しています。

竹下社長:
「(煮干しは)常温保存が効いて、栄養はカルシウム・たんぱく質が豊富で完璧。煮干しは世界に誇れる完全食。
『世界煮干しサミット』が海外で何年後かにできるように進化していけばいいなとは思いますけどね。楽しみながらやるっていうのが長続きするんじゃないかなと思います」

【住】次々に出てくる活性化策がすごいですね!
【平】将来の「煮干し」関連業者のために、自らが動き、全国の同業者に呼びかける姿勢に頭が下がります。竹下社長は「NIBOSHI」を世界共通語にしたいと意気込んでおられます。長崎発の取り組みが、全国を巻き込み、注目を集めているのは、喜ばしいことだと思います。
目先のことだけでなく、将来のことを考えて行動されているこの取り組みは、煮干し業界だけでなく、全国に誇れるものを持つ長崎の他の業界の参考になる取り組みだと思います。今後の煮干し業界の取り組みに期待したいと思います。

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