〈月収8万円〉実家暮らしの50代・独身長男、80歳母死去で「俺も少しは遺産がほしい」に長女、ブチギレ

金持ちは大変だね……他人事と思っていた「相続トラブル」。しかし、裁判沙汰にまで発展するのは「遺産総額1,000万円以下」が最も多く、実は一般人のほうが相続トラブルに巻き込まれやすいというのが実情です。実家暮らしの独身男性の身に降りかかったという争族についてみていきましょう。

親に寄生する「実家暮らしの50代長男」vs.「不満爆発の長女」

令和2年に行われた『国勢調査』によると、親と同居する40代以上の未婚者は全国で420.8万人。そのうち男性は258.2万人、女性は162.5万人。このなかには、離婚して実家に戻ったケースもあれば、親の介護のため実家に戻ったというケースもありますが、なかには一度も実家を出ることもなく、周りからは「いつまでも親に寄生して……」と揶揄される人も。

【親と同居する未婚者数】

40~44歳:736,800人/479,497人
45~49歳:763,007人/486,607人
50~54歳:532,452人/336,595人
55~59歳:317,905人/189,897人
60歳以上:230,134人/131,838人

※数値左より男性/女性

少々懐かしい言葉でいうならば「パラサイト・シングル」。これは1997年に社会学者・山田昌弘氏(現中央大学文学部教)により提唱された造語。親を宿主として寄生する独身者を意味する言葉ですが、前出のように、親の介護などで実家暮らしのケースも含み、かつ、内閣府なども使用したことから侮辱的な言葉ではないのが特徴です。

そんないつまでも実家暮らしの子。そんな子を心配しつつも強く言えない親。双方を白けた目でみつめる、実家を離れたほかの子(兄弟姉妹)……そんなよくある構図はトラブルの元凶になることも。

生まれて一度も実家を離れたことがないという、50代アルバイト・独身男性の悲痛な投稿。なんでも、先日、母が亡くなった際に、妹から「遺産はすべて私のモノよ!」と怒鳴られ、トラブルになっているとか。

状況を整理すると、父親は10年前に死去。その際、遺産は自宅のほか、株式や現金などが2,000万円ほどあったとか。母と、男性(長男)、妹(長女)で話し合った結果、長男に1,000万円、長女に500万円、母に500万円と自宅、という分け方に。長男と長女の相続額に違いが生まれたのは、「お母さんの面倒は長男が見るから」という理由からだといいます。

それから10年、80歳になった母が死去。その間、約束通り母の面倒を長男がみていたかといえば……母は晩年こそ体調を崩し入院していたものの、それ以前は家事をすべてこなし、長男はぬくぬく実家暮らし。仕事で忙しいならまだ納得できたのですが、長男は週3回ほどアルバイトに行く程度。その状況に対し長女は相当フラストレーションをためていたといいます。しかし「お母さんが何も言わないなら、自分が言うことではない」と不満を口に出すことはなかったとか。

そして遺産分割の話し合いの場。引き続き「実家で暮らしたい」という長男に、長女は「なら、ほかの遺産はすべて私がもらうわ」と主張。長男のアルバイト代は月8万円ほど。父からの相続分はすでにゼロに。親のすねをかじりながらお気楽に暮らしてきた長男は、現金等の遺産もあてにしていたこともあり、「家は売るわけじゃないから、お金にならないだろ。俺も少しは遺産がほしい」と主張。しかしその言葉に堪忍袋の緒が切れたのか、「親に甘えて生きてきて、さらにお金が欲しいなんて……どこまで親のすねをかじるんだ!」とキレられたといいます。

遺言作成の際に気をつけたい「遺留分」…不動産評価の際の注意点

男性の不甲斐なさを責める声がほとんどですが、このケースのように、父(母)が亡くなった際の一次相続では穏便にことが進んだのに、母(父)が亡くなった際の二次相続では残された家族が揉めるということはよくあること。それは母(父)が、争いごとのストッパーになっていたから。そんな存在がいなくなったとき本音が噴出し、トラブルに発展するというわけです。

このようなトラブルを避けるためにも、遺す側は遺言書の作成が基本。遺言には遺言をする人(遺言者)が自分の手で書いて作成する「自筆証書遺言」、遺言の内容を記載した文書(自筆でなくてもよい)に遺言者が署名押印してこれを封筒に入れ、文書に用いた印で封印し、これを公証人1人及び証人2人以上の前に提出して作成する「秘密証書遺言」、遺言者が、2人以上の証人の立会いのもとで遺言の趣旨を公証人に述べ、公証人がこれを筆記し、その内容を読み聞かせ、筆記の正確性を承認した全員が署名押印して作成する「公正証書遺言」の3つがあります。

そして遺言書作成の際に気をつけたいのが「遺留分」。これは「一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分」。簡単にいえば、「残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利」です。遺留分の権利が認められるのは、配偶者、子(代襲相続人も含む)、父母などの直系尊属で、兄弟姉妹は認められません。遺留分の相続財産に対する割合は法定相続分の半分です。

遺留分の計算をするとき、基本的に相続が発生した時の時価で計算します。不動産を評価する場合、相続税の計算すでは相続税評価額を採用しますが、遺留分を計算する際には実際の売買価格を基準とします。相続税評価額ベースでは遺留分を侵害してなくても、実際の売買価格ベースにすると遺留分を侵害しているケースがあるので要注意です。

もしこの男性(長男)が「遺留分の侵害だ!」と主張したら……「いや、実家を相続するあんたのほうがもらっているから」と反撃され、実家まで失うことも。静かに身を引いたほうがいいかもしれません。

[参考資料]

総務省『令和2年度国勢調査』

法テラス『遺言書には、どのような種類がありますか。』

法テラス『遺留分とは何ですか。』

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