【今を生きる】福島県の会津野菜海越え届け JAに就職・香港出身譚若曦さん 風評払拭に情熱

会津の農産物の魅力を世界に発信することを誓う譚さん

 福島県会津の農産物を世界に広めたい―。香港出身の譚若曦(タン・ジャクギ)さん(29)は今春、JA会津よつばに入り、国内外に農畜産物の販路を広げる「ふるさと直販課」に配属された。東京電力福島第1原発事故の発生後、世界各地で根強く残る風評を払拭したいとの思いに突き動かされた。輸入規制の続く故郷で、会津地方の野菜や果物を味わえる日を思い浮かべながら、仕事に打ち込んでいる。

 台湾の大学に通っていた2016(平成28)年から会津美里町出身の友人の案内で県内を訪れるようになった。「食べ物は大丈夫なのか…」。原発事故発生後の県産食品に不安があった。会津にも赴き、良質な農産物を育む土地柄に愛着が芽生えるようになった。友人宅に招かれ、祖母が自家栽培した野菜の手料理でもてなしを受けた。旅先で出会う人の温かさや食の豊富さに感動し、当初の心配は次第に消えていった。

 転機が訪れたのは、2018年だった。香港の量販店で催された会津の物産展に関するインターネットのニュースが目に留まった。「(会津が)福島県と知っていたら買わなかった」と心ないコメントがあり、友人の祖母の姿が脳裏によぎった。「もっと福島県産の食材のおいしさと安全性を知ってほしい」。偏見を取り払いたいという思いが強まった。

 その後も何度も県内に足を運んだ。そのたびに味わう作物の素晴らしさを実感。移住する決心が固まった。2022(令和4)年に来日して2年間、郡山市の専門学校に通った。日本で働くために接客や簿記などの基礎を身に付けた。JAを志望したのは食材の原点である農業に携わりたかったからだ。県内の5JAによると、輸出の担当部署に海外出身職員を起用するのは初めてという。

 ふるさと直販課に配属され、1カ月が過ぎた。現在は会津若松市にある直売所の「まんま~じゃ」で日本人向け交流サイト(SNS)の運営や店のチラシ作成に励む。新鮮な野菜の魅力をどう伝えるか。農家のこだわりや熱意をくみ取り、投稿文や写真の構図に工夫を重ねる。「会津の魅力は語り尽くせない」とほほ笑む。「少しずつ農産物の勉強を重ね、香港などに出向いて人々に味わってもらえるよう努力していく」。自らが食材を届ける日を思い描く。

 JA会津よつばはアジアを中心にコメを輸出し、年々規模を拡大している。市場をさらに開拓し、品目を増やすことを目指している。原喜代志組合長は「(譚さんは)明るくて好感の持てる職員。語学も堪能で、きっと産地と海外をつなぐ起点として大きな力になってくれる」と期待を込める。

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