国公立 理工系・情報系の学部別女子比率ランキング。今後「女子枠」の新規導入が進む中、どの大学が成果を出すのか?

国立大学の理工系・情報系学部を中心に「女子枠」の新規導入が進んでいます。「女子枠」のはじまりは、名古屋工業大学工学部の1994年度入試。ここから少しずつ増えてきて、2023年度の名古屋大学工学部、2024年度の東京工業大学(理学院・工学院除く)の新規導入が発表されたあとは、教育未来創造会議第一次提言における、女子学生の確保等に積極的に取り組む大学への基盤的経費による支援強化もあり、多くの国公立大学が、立て続けに「女子枠」新設を発表しました。このように、この数年で爆発的に増えている「女子枠」ですが、現状の女子比率がどのようになっているのかを学部別に集計したうえで、今後どの大学が成果が出やすいかを考察してみました。

[(https://univ-journal.jp/wp-content/uploads/2024/05/table1_main-scaled.jpg)

2023年4月入学者では、東京工業大学 情報理工学院が女子比率4.1%で最も低い

大学改革支援・学位授与機構が発表している国公立大学の理工系・情報系 学部別女子比率を低い方から並べると、最も低いのは、東京工業大学情報理工学院となりました。東京工業大学情報理工学院は、2024年度から「女子枠」を採用していますので、来月以降に正式に公表される男女別の入学者を見れば、初年度から成果が出ているかどうかは分かります。

このランキングは学部別に出していますが、理工系の中では女子比率が高い建築系学科コースが設置されている学部とそうでない学部では、違いが出てきますので、表の中には建築系学科コースがあるかないかも表記しています。建築系学科コースが設置されていても、女子比率が低くなっているのは、琉球大学工学部、京都大学工学部、九州大学工学部などとなっています。

「女子枠」の注目度上昇は、2021年に芝浦工業大学が女子比率30%以上へ引き上げる発表したことが大きかったのではないか

2006年の文部科学省「女性研究者支援モデル育成事業」で、女性研究者の採用目標を、理学系20パーセント・工学系15パーセントと定められ、さらに2009年からは「女子中高生の理系進路選択支援プログラム(JST)」がはじまったこともあり、だんだんと理系女子が盛り上がりはじめていました。「リケジョ」という言葉が出てきたのは、この時期です。しかし、大学としては理工系の女子学生を募集強化することはしていても、「女子枠」を新設する動きまでは行っていませんでした。

このような状況の中で、2021年9月に芝浦工業大学が2027年までに女子比率30%以上にする目標が発表されたことで、各大学の意識が変わってきたのではないかと思います。目標数値を、時期まで含めて公表しているのは、本気度が伝わる発表でした。

加えて、経済協力開発機構(OECD)から、STEM(科学・技術・工学・数学)分野に占める女性の割合が加盟国別に公表され、日本は加盟国中で最低の割合で、女性の理工系人材の育成が遅れている実態が改めて浮き彫りになりました。

[(https://univ-journal.jp/wp-content/uploads/2024/05/table2_sub-scaled.jpg)

「女子枠」に拍車をかけたのは、やはり国からの支援金か

2023年5月10日、教育未来創造会議第一提言が発表されました。この中には、女子学生の占める割合の少ない分野の大学入学者選抜における女子学生枠の確保等に積極的に取り組む大学等に対して、運営費交付金や私学助成による支援を強化することが示されています。この発表により、急ぎ「女子枠」新設を考え出した大学もあったのではないでしょうか。2024年度入試から、急いで導入した大学の中には、高校への周知する時間がなく、厳しい募集結果になった大学も多かったようです。

成果を出すには、どのような施策が必要なのか

数学や物理の点数で不合格になっていた女子の層が多いとすれば、国公立の偏差値上位層を対象した大学は、女子枠を新設することで、集まる可能性はあると考えられます。ただし、それだけでは希望者が増えているわけではなく、志望する大学や学部が変わっただけになってしまいます。よって、「女子枠」の募集人数だけが増えていっても、集まるわけではないことは想像がつきます。希望していない学部分野に、無理矢理入学させても、退学者が増えるだけですので、理工系・情報系学部への希望者が増えなければ話になりません。

では、希望者が増えていく高校とは、どのような高校なのでしょうか。理工農系学部の新設が多くなることで自然と希望者が増える部分もあると思いますが、やはり国の支援があった高校は大きな変化が見込まれます。それが、2024年度から指定がはじまった「DXハイスクール」です。ただし、この指定は女子だけを対象にしたものではありません。

高等学校 DX 加速化推進事業(DX ハイスクール)1010校採択決定

この事業は、高校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化を図るため、「情報、数学等の教育」を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICT を活用した文理横断的・探究的な学びを強化する学校などに対して、1校あたり上限1000万円を補助するものです。申請校数1,097校(公立812校、私立285校)の中から、2024年4月16日に採択校1,010校(公立746校、私立264校)が発表されています。

各都道府県の高校数に応じた採択数になっていると考えてしまいますが、結果としては偏りがあり、高等学校数に対して採択割合が最も多い県は島根県(57.4%)、最も少ない県は、広島県(11.6%)となっています。

参考:

【文部科学省】「令和6年度高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」の採択校をお知らせします。(2024年4月16日発表)

[(https://univ-journal.jp/wp-content/uploads/2024/05/table3_sub.jpg)

DXハイスクール採択校における大学理系進学率(※)は現状19.5%、2028年度の目標は28.9%

DXハイスクールに採択されると1校あたり上限1000万円が支援されることになりますが、採択された場合の、求められる取組の例として、

●情報Ⅱや数学Ⅱ・B、数学Ⅲ・C等の履修推進(遠隔授業の活用を含む)

●情報・数学等を重視した学科への転換、コースの設置(文理横断的な学びに重点的に取り組む新しい普通科への学科転換、コースの設置等)

などが挙げられています。

これを考えると、DXハイスクール採択校は、理工系・情報系学部の進学者が増えると予測されます。実際に、大学理系進学率も、現状19.5%から2028年度には28.9%にする目標が掲げられています。

(※)卒業生全体(就職や専門学校への進学等を含む)に占める割合

成果が出やすいのは、島根大学、福井大学、高知工科大学か

DXハイスクール採択校で、理工系・情報系学部の希望者が増えると仮定すれば、採択された高校が多い県のある地方国公立大学が集まりやすいのではないかと考えられます。現時点の学部別女子比率と、都道府県別 DXハイスクール採択率を合わせてみると、島根大学、福井大学、高知工科大学の3大学が成果が出やすいのではないかと予測されます。

とはいえ「女子枠」で入学した学生の満足度が重要

理工系・情報系の学部希望者を増やすことを考えれば、希望者が増える可能性が高い高校から志願者を獲得していくということになるかと思います。特定の高校と高大連携協定を結んでいくという手法も考えられます。しかし、一番重要なのは、「女子枠」で入学した学生の満足度になることは間違いないと思います。そして、最後は「女子枠」で入学した学生が、希望通りの就職ができるかどうかにかかっています。今後も、「女子枠」を新規導入する大学は増えていくことが予測されますが、どのような結果になっていくのか、卒業するまで注目していきたいと思います。

[(https://univ-journal.jp/wp-content/uploads/2024/05/table4_sub.jpg)

© 大学ジャーナルオンライン