あれっ、おかしいな…年金月15万円見込の59歳サラリーマン〈ねんきん定期便〉に疑問→後日、年金事務所の職員に感謝したワケ【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ねんきん定期便は、毎年1度、誕生月に日本年金機構から送られてくるはがき(または封書)です。このねんきん定期便について、「あまり関心がない」という人も多いのではないでしょうか。しかし、確認を怠ると「本来受け取れるはずだった年金が受け取れない」という悲劇も……。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の井内義典CFPが、具体的な事例を交えて解説します。

「ねんきん定期便」にはどんな情報が記載されている?

2009年より、年金制度の加入者には毎年誕生月(1日生まれの人はその前月)に「ねんきん定期便」が送付されるようになりました。これは、自身の年金加入記録についての情報通知となり、35歳、45歳、59歳の節目年齢の時は青色の封書に入った詳細な内容が届き、それ以外の年齢の時はハガキ形式で簡略化した内容で届きます。

ねんきん定期便では、自身の年金記録に間違いがないか、漏れがないかなどを確認することができます。また、年金の被保険者としての加入記録、自身の将来の年金額のことや年金の繰下げ受給制度についての説明なども記載されている重要な資料です。

あれっ、おかしいな…ねんきん定期便に感じた「違和感」

サラリーマンのAさんは、仕事が忙しかったこともあり、これまで老後について真剣に考えたことがありませんでした。しかし、59歳を迎えたAさん、来年はいよいよ定年です。再雇用の場合、年収は大幅に下がるといいます。さすがに、そろそろ老後のことを考えなければと思っていたところ、ちょうど「ねんきん定期便」が封書で届きました。

「おぉ、ナイスタイミングだな」Aさんは早速封書を開けて中身を確認しました。すると、ねんきん定期便にはAさんの年金記録が詳しく記載されており、過去に勤めた会社の一覧なども載っていました。20~30代のころに何度か転職していたAさんは、過去に勤めていた会社の名前を見て、その当時のことを思い出しました。

「自分の人生がここに詰まっているんだなぁ」としみじみしながら確認していると、65歳からの年金受給見込額が。

「へえ……月額だと15万円くらいなのか。意外と少ないけど、こんなものなのか?」と、少々がっかりしたAさん。

そして過去の勤務先・厚生年金加入記録の一覧を見て、「あれっ、おかしいな……そういえば20代のころに働いていたX社とY社の記録が載っていないぞ」と疑問に思いました。

年金事務所で聞いてみよう…決心したAさん

Aさんは当初、「それぞれ短期間のアルバイトみたいなものだったし、厚生年金には入っていなかったのかな」「ずいぶん前のことだし、いまさら言っても仕方ないかもな」などと諦めムードでした。しかし、確かに働いたはずのX社とY社の記録がなかったことになっているのは、どうにも納得がいきません。

数日もやもやしていたAさんは「うーん……やっぱり気になるな。ダメもとで調べてもらったらスッキリするかもしれない。自分の年金のことももっと詳しく知りたいし、年金事務所に行ってちゃんと聞いてみよう」と決心。後日、ねんきん定期便を持って年金事務所へ向かいました。

“まさかの展開”にAさん歓喜…年金受給額が増額されることに

年金事務所では、自身の年金に関する説明を受けることができます。そして、年金の記録についても確認してもらえることになっています。

Aさんは、ねんきん定期便に記載のとおり65歳から年金を受給することができること、繰下げ受給によって年金受給額の増額が可能となることなど、年金制度の基本を教えてもらいました。

そして、かつて若い頃にX社とY社に勤務していたこと、それぞれの勤務地など、当時のことを伝えました。職員がすぐに確認したところ、ねんきん定期便に記載されていなかったX社とY社、両方の厚生年金の記録が判明したのです。

厚生年金の加入期間は、X社とY社あわせて約10ヵ月。X社とY社の記録はずっと持ち主不明の記録のままとなっていましたが、ここでAさんの記録と判明したため、Aさんの加入記録に、この10ヵ月の厚生年金記録が追加されることになりました。

Aさんは職員から「X社とY社の記録をAさんの記録として追加した結果、65歳からの年金受給額が増えます。増加額は年1万円程度ですが、65歳から生涯受給できるとなると、生涯で20万円以上になるかもしれません」との案内を受けました。

「危うく損していたところだ! 危なかった……調べてくれてありがとう、助かったよ」

そもそも、年額1万円の増加分は、元々Aさんの年金です。ただAさんは、X社とY社での厚生年金の加入記録が判明するとは思っていなかったため、年金が増えると知り得をした気分に。窓口の職員に感謝を伝えて、年金事務所をあとにしたのでした。

老後の備え…まずは「ねんきん定期便の確認」から

今回紹介したAさんのように、漏れていた年金記録が見つかった結果、年金受給見込額が増えるケースは少なくありません。言い換えれば、自身の年金記録に間違い・漏れがあっても、確認を怠ると見逃してしまうかもしれない、つまり「本来受け取れたはずの年金を受け取ることができない」ということが起こり得るのです。

ねんきん定期便は、記録が正しいかどうかを確認するための非常に重要な資料です。記載されている内容に疑義が生じた場合は、年金機構の専用ダイヤルや年金事務所の窓口に相談しましょう。

これまで年金に関心がなかった人も、受給可能年齢が近づいてきたタイミングでは、年金記録についてしっかり確認することをおすすめします。Aさんのように、特に何十年も前に転職を繰り返していた人は注意が必要です。

公的年金は、老後の収入の大きな割合を占めます。老後の不安を軽減するためにも、まずはねんきん定期便をチェックすることからはじめてみてはいかがでしょうか。

井内 義典

株式会社よこはまライフプランニング代表取締役

特定社会保険労務士/CFPⓇ認定者

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