プーチン氏、戦勝記念日にロシア軍の「英雄」たたえる 西側諸国へ警告も

スティーヴ・ローゼンバーグ、BBCロシア編集長

ロシア・モスクワの赤の広場で9日、第2次世界大戦の対独戦勝記念日を祝う軍事パレードが行われた。毎年恒例の行事だが、今年はいつもと違う雰囲気だった。

ロシアで春に雪が降るのは異例だ。しかし、それだけが理由ではなかった。

9000人が広場を行進した。そう言われれば、大人数だと思うかもしれない。しかし、ロシアがウクライナに侵攻する前の数年間は、参加者の数はもっと多かった。

この日に披露された軍用装備品も少なかった。登場した戦車はT-34が1台だけだった。

対象的に多かったのは、ロシアが仕掛けたウクライナでの戦争への言及だった。パレード参加者の中には、ウクライナで戦ってきた兵士もいた。

「我々は特別軍事作戦(ウクライナ侵攻をロシア政府はこう呼ぶ)を遂行している最中に、戦勝記念日を迎えた」と、ウラジーミル・プーチン大統領は赤の広場での演説で述べた。「前線で(作戦に)加わっている者たちは、我々の英雄だ」。

「常に戦闘態勢」と西側諸国に警告

ロシアはここ数日、イギリスやフランスなどの西側諸国がロシアを脅かしていると非難している。エマニュエル・マクロン仏大統領は、地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除していない。

プーチン氏はこの日、西側諸国に警告を発した。核兵器を使用する可能性を再びちらつかせて威嚇しながら。

「ロシアは国際的対立を回避するためにあらゆる手だてを尽くす」とプーチン氏は述べた。「しかし同時に、我々を脅かす者は許さない。我々の戦略軍は常に、戦闘警戒態勢にある」。

プーチン政権下の戦勝記念日は、ロシアで最も重要な、世俗的な祝日となっている。

この戦勝記念日は、旧ソヴィエト連邦がナチス・ドイツを打ち負かしたことだけでなく、その勝利のために払った膨大な人的犠牲を思い起こす日でもある。旧ソ連の民間人2700万人以上が死亡したこの戦いは、ここロシアでは大祖国戦争と呼ばれる。

しかし、戦勝記念日はさまざまな点で、過去の出来事だけを象徴しているわけではない。この日が映し出しているのは、現在のロシアの姿だ。

過去を利用し現在起きていることを正当化

今日のロシアに何らかの国家理念があるとすれば、勝利という理念だろう。ロシア国民は、この国が歴史を通じて、フランス皇帝ナポレオン1世やナチス・ドイツの指導者ヒトラーといった外国の敵から攻撃され、その度に勝利してきたと、絶えず教えられている。

当局は過去を思い起こさせているだけではない。その過去を、現在起きていることを正当化するための武器にしている。それが、今日のロシアだ。

当局は国民に、ウクライナでの戦争を第2次世界大戦の続きとしてとらえさせることで、外部勢力が再びロシアを滅ぼそうと戦っているのだと信じ込ませようとしている。今日の敵というのは、ウクライナ、そして西側諸国を指す。

しかし実際は、2014年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合し、東部ドンバス地方に軍事介入したのはロシアの方だ。そして2022年にウクライナへの全面侵攻を命じたのは、プーチン大統領だった。

ロシア国内で「不穏な」流れ

ウクライナで戦争を始めた結果、ロシア国内ではかなり異常な、そして不穏なことが起きている。

第2次世界大戦での恐怖を経験したロシア国民は、その後数十年間はこう口にしていた。「私たちはあらゆる類いの窮乏を耐えられる。これ以上の戦争が起こらないのであれば」と。

「戦争はもうごめんだ」というフレーズを、この巨大な国の至るところで耳にした。町でも村でも、どこに行っても。

旧ソ連最後の指導者ミハイル・ゴルバチョフ氏がロシア国内を旅した際、国民から言われたのがまさに「戦争はもうごめんだ」という言葉だったという。彼が涙ながらに私に語ってくれたのを今でも覚えている。

だが、そのメッセージは変わってしまった。

モスクワ郊外の小さな町で9日、私は戦争記念碑の除幕式が行われるのを見ていた。旧ソ連時代のアフガニスタン紛争、ソ連崩壊後のチェチェン紛争、そしてウクライナでの戦争で死亡したロシア兵にささげられたものだ。

地元の役人が演説をしていた。彼はそこに集まった大人や子供たちにこう伝えた。

「常に戦争があった。これからも常に戦争は起きるだろう。それが人の常というものだ」

かつて戦争で多くの苦しみを味わった国で、戦争が常態化している。これが今のロシアの姿だ。

(英語記事 Putin hails army 'heroes' and warns off West in WW2 parade

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