放送作家卒業の鈴木おさむ52歳が主宰する「スタートアップ版トキワ荘」と「会社を辞められない人」への仕事ドック

撮影/小島愛子

2024年3月31日、その男は筆を置いた。20年と9か月続いた国民的グループのバラエティ番組、スマスマこと『SMAP×SMAP』で放送作家をつとめ、オートーレース界に森且行が去りし後、メンバーから“6人目のSMAP”とまで言われた鈴木おさむ、その人である。
バラエティ番組『めちゃイケ』『¥マネーの虎』『お願い!ランキング』『Qさま!!』、ドラマ『人にやさしく』『M 愛すべき人がいて』『離婚しない男』など数々の大ヒット番組や、国民的な海賊マンガ「ONE PIECE」の劇場版『ONE PIECE FILM Z』の脚本などを手掛けたことで知られる彼が、SMAPの小説『もう明日が待っている』と、テレビ界への遺言ともいえる『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)を置き土産に、放送作家を辞めるという。
なぜなのか。日本列島を笑いと感動で包み込んだ大ヒットメーカーの、断筆に至るまでの「チェンジ」と、放送作家を卒業後の「ビジョン」に迫った。(全5回 第5回)

そこに向かって頑張っている若者を応援したい

――現在、鈴木さんは、スタートアップ企業を応援するシェアオフィス「ゴーイングメリー」も主宰されています。スタートアップ版トキワ荘(手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら昭和を代表する漫画家が暮らしたアパート)とも称されていますが、具体的には、どのようなことをされているのでしょうか?

現在、入っているのは4社ぐらいです。シェアオフィスを、ただで貸していて、これまでは、その中で飲み会やったりとか、僕が話を聞いたりとか、飲み仲間でもありますけど、必要であればアイディアを出したり、人を紹介したり、ビジョンが合えば出資もするという感じです。
その中で会社を育てたり、勝手に育っていったりしてきたのですが、今後は、本格的に事業として取り組んでいきます。最終的には、サイバーエージェントみたいな新しい会社を作りたいですよね。あとは、そこに向かって頑張っている若者を応援したいですね。
若手育成だけじゃなくて、企業育成もやっていきたいと考えています。
現在も、いろんな企業との打ち合わせをしていますが、会社によって考えていくことが全然、違うので、大変です。すべて本気で考えているので。

「自分が何で仕事嫌いなのか」明確に知ることが大事

――では最後に、あとひとつだけ。鈴木さんは『仕事の辞め方』(幻冬舎)という本を書かれていますが、仕事や会社を辞められない40~50代は多いと思うんです。どうしても、そこで生きていかなければならない人々に対して、会社や今の仕事で生きていくために、何かアドバイスをいただけませんか?

なぜ『仕事の辞め方』を書いたのかというと、「会社をやめてくれ」ということではなくて、自分の仕事がどのぐらい好きなのかとか、自分の周りにいる上司のことがどのくらい好きなのかとか、自分が部下にどう思われているのか、どう思っているのかということを、立ち止まって、自分の中でチェックをしてほしいと思ったんです。
仕事が好きなのか、嫌いなのかもわからず、日々やり続けている人は多いと思うんですよ。だから、まず仕事に対して、どう思っているのか? という採点表を作って、自分が好きか嫌いかだけじゃなく、周りの人間関係も含めて、どう思っているかをちゃんと一度、整理するきっかけを作りたかったんです。仕事が日々、1個1個流れていく中で、自分がどう思ってるかということを、ちゃんとマーケティングしてみることは、すごい大事だなと思うんです。
健康診断の人間ドックはあるけれど、仕事のチェックはないじゃないですか。だから、自分自身で、自分の仕事のことどう思っているのかとか。何が好きで、何が嫌いで何がどうなのかっていうのを、じゃあ営業するのが嫌いとか、人づきあいは嫌い、でも、会議が好きとか、そういうことも含めてですね。それを 1 回整理することで、自分のことがちゃんと見えてくるし、自分が何で仕事嫌いなのか、何でストレスを感じているのかっていうのを、明確に1回知ることが大事なんじゃないかなと思っているんです。

――ありがとうございます。鈴木さんの今後の活躍を楽しみにしております。ズバリ注目ポイントは?

単純に、放送作家を辞めて、次の仕事をチャレンジするうえで、成功するかしないかじゃないですか。そこは見ていてほしいですね。失敗するかもしれないですが、覚悟をもって辞めて、その中で人脈と応援してくれる人がいるので、それを武器に全力でチャレンジして成功させたいと思っています。誰かが時代を変えようと思わなきゃ、絶対に変わらないですから。これからマネタイズ(収益化)も含めて、テレビや新聞、出版の構造を変えるのって、大変だと思うんですよ。僕みたいな人間が外に出て、うまくいったりしたら、メディアの人々の考え方も、変わっていくと思うんですよね。

すずき・おさむプロフィール
1972年4月25日、千葉県生まれ。19歳のときに放送作家になり、それから32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。2024年3月31日に、放送作家を引退。著書に『仕事の辞め方』(幻冬舎)、そして大ヒット中の『もう明日が待っている』『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)などがある。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業(急成長をする組織、会社)の若者たちの応援を始めており、コンサル、講演なども行う。

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