高橋一生「岸辺露伴」密漁海岸で「くしゃがら的試み」 じわじわ忍び寄る恐怖を意識

「密漁海岸」より岸辺露伴(高橋一生)とトニオ・トラサルディ(Alfredo Chiarenza) - (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS / SHUEISHA (C)NHK / NEP /P.I.C.S.

「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの漫画家・荒木飛呂彦の原作を高橋一生主演で実写化したNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」の新作エピソード「密漁海岸」が10日に放送。相手を本にして記憶を読む能力を持つ風変わりな漫画家の岸辺露伴を演じた高橋が、前半と後半、異なる舞台で展開される本作の撮影の裏側を語った(※一部ネタバレあり)。

本シリーズは「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ漫画である「岸辺露伴は動かない」を原作のメインとし、2020年から2022年にかけて3シーズンにわたって計8エピソードを放送。ドラマの9作目のエピソードとなる「密漁海岸」では、岸辺露伴(高橋)が家の近くにひっそりとオープンしたイタリアンレストランで客の体の悪いところを改善させる不思議な力を持った料理を提供するシェフのトニオ・トラサルディ(Alfredo Chiarenza)と出会い、どんな病気でも治してしまうという伝説のヒョウガラクロアワビの密漁に巻き込まれていくさまが描かれた。

同エピソードでは前半が「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部「ダイヤモンドは砕けない」の「イタリア料理を食べに行こう」を、後半が「岸辺露伴は動かない」の「密漁海岸」を軸にしたストーリーが展開。前半はトニオのレストラン、後半では海が舞台だった。

「前半は場面転換があまりないのでそういった意味ではアクティブではない。観てくださる方々にとって、露伴の心の動きがどれぐらい見えるだろうかと。割と会話劇に近いものになるんです。もちろん途中でバタバタと暴れたりはするんですけれど、後半と前半でどれだけ差がつけられるかということは考えていました。レストランのシーンは割と『くしゃがら』的なことですよね。密室の中でじわじわと忍び寄ってくる恐怖のようなものは意識して演じていました。とはいえ、僕よりも料理を作ってくださるコーディネーターの方や特殊造形の方が大変だったんじゃないかなと」

「くしゃがら」はシリーズ1期(2020)の第2話として放送。高橋が、謎の言葉にとりつかれた漫画家の志士十五にふんした森山未來と二人芝居を繰り広げた。ちなみに、「くしゃがら」では露伴が飲まず食わずの志士十五のために宅配ピザの出前を頼む場面があり、そのピザ店が「トニオピザ」だった。

後半の海のシーンでは、水中での撮影を実施。高橋は「息が続かないから酸素ボンベを背負って下りて適宜耳抜きして……という状況でした。1メートルごとに水圧がかかっていくので5、6メートルに潜ると結構痛いんです。そこを全部クリアにした状態から“ヨーイスタート”になるので、そこは結構大変だったかもしれません」と体を張った撮影を振り返る。

シリーズを重ねて、同じ露伴でもシーズンごとに芝居を変えている高橋。第2期の際には1期よりも「芝居の出力をあげた」、3期では「あえて1期のころの芝居に戻した」と語っていたが、本作ではどうだったのか。

「割とデフォルメというか、芝居を少し大きくしているかもしれないです。ジョジョ、露伴の世界では、“そんなこと受け入れられるの?”というところまでジャンプしなくてはいけないところもあるわけで。トニオの“毒”(薬)入り料理を食べて眼球の皮が剥けてもそのまま食事を続けるという描写がありますが、そういったところで拡張、拡大しなくてはいけないんです。なぜあの場所(レストラン)にいようとし続けるのか、なぜああいうことにトライし続けるのか、密漁する方向に向かっていくのかという心の流れのようなものを、ある程度凝縮してお芝居に出せたらと思っていました」

ところで、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017)や映画を含めた「岸辺露伴」全シリーズで組んできた渡辺一貴監督の仕事ぶりは、相変わらず高橋を高揚させるものだったようで、高橋は「予想外の事態も全部芝居に取り込めるので、露伴がかっこいいままじゃないんです。それはすごく良かったなと思います」と振り返る。

「一貴さんはいつもあまりカットを割ることなく、一連で撮ってくださる。それは海中でも同様で、トニオが溺れてその行方を追っていくという一連の流れも、僕がアワビを持っているところから一連で何度か撮って、いろんなところを組み合わせて編集されている。水中は足場が確保できていないと予期しないことが起きるわけです。そういったことも全部ちゃんと撮ってくださっていて、いいところをピックアップしてくれている。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の(ルーヴル美術館にある)Z-13倉庫でのシーンもしかりでしたが、いくらなんでも水中ではカットを割らないと成立しないんじゃないかと思っていたんです。でも全部一連で撮ってくださったので芝居はやりやすかったです。ぶれたりするところも全部芝居に取り込めるので、露伴がずっとかっこいいままではない。それはすごく良かったなと思います。露伴の人間的なムーブメントが出るので面白かったです」

さらなる続編も期待したいところだが、次に挑んでみたいエピソードを尋ねると高橋は「夕柳台(『岸辺露伴は戯れない』所収)などやってみたいですね。“ジョジョ”4部の話も混ぜたりして。あとは『ジョジョ』の『ハイウェイ・スター』もやってみたいんですけれど、原作のようにバイクに乗れるのかという問題がありますよね(笑)」と目を輝かせていた。(取材・文:編集部 石井百合子)

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