“あったかインナー”は睡眠の大敵!?ぐっすり寝るために必要な「2つの体温」の考え方とプロおすすめ3つの睡眠改善法

赤ちゃんが眠くなると手足がぽかぽかと温かくなるのを、子育て世代なら知っている人も多いだろう。また、冷え性の人は、なかなか寝つけないという経験があるだろう。

上級睡眠健康指導士の加賀照虎さんによると、「体温」と「睡眠」には深い関係があるという。

「睡眠中とその前後の体温の変化を上手に促すと、睡眠の質を高めることができるんです」(以下、加賀さん)

体温と睡眠の関係性と、すぐにでも試せる“良質な睡眠を叶える方法”を教えてもらった。

睡眠と関係の深い“2つの体温”

加賀さんによると、睡眠に影響を及ぼす“体温”には2種類あるという。

一つは体の表面温度である「皮膚温」、もう一つは、脳や内臓など体の内部の温度である「深部体温」だ。通常、日中は体の中の深部体温のほうが、体の外の皮膚温より2度ほど高い。

「私たちの体温は、朝から夕方にかけて上昇し、夜眠る前から明け方にかけて下がり続けてまた起きる時間に上がる、といったリズムがあるんです」

夜に深部体温が下がることで、寝ている間に脳や体をしっかり休息させる。一方、皮膚温は眠りにつく前に上昇し、手足の表面から熱を逃すシステム(熱放散)によって深部体温を下げることを手助けする。そのため、眠ろうとすると手足がポカポカしているように感じられるのだ。

多くの子育て世代が知っている「赤ちゃんが眠くなる=手足が温かくなる」は、まさに熱を逃して深部体温を下げているから。また、冷え性の人がなかなか眠れないのは、手足から熱が放出されにくく、深部体温がスムーズに下がらないことが要因だという。

ポイントは体温を上げるタイミング

では、この眠りに影響を与える“体温”の変化を良質な睡眠につなげるためには、具体的にはどんな方法があるのだろうか。
加賀さんは、“入浴”・“冷え対策”・“室温のコントロール”の3つをオススメする。それぞれ詳しく解説する。

(1)就寝2~3時間前に入浴で体温を上げておく
「寝る前ギリギリにお風呂に入るのは、上がった体温が下がるまでに時間がかかってしまうのでおすすめしません」

加賀さんによれば、お風呂に入ることでいったん急上昇した体温は、約90分後から一気に下がり始める。このため、深部体温を上げるような「入浴」や「運動」は、寝る2~3時間前に行うと、自然な体温の低下を後押しすることができて、睡眠が深くなるとされているという。

入浴の仕方で特に加賀さんがオススメするのは、「ぬるま湯入浴法」だ。
「就寝の1〜2時間前に39度前後のぬるま湯に15分ほど入浴します。その際、浴室の外の照明やバスキャンドルを明かりとして使うなど、浴室をほの暗くしてみてください。浴室の照明は意外に明るいので眠気を遠ざけてしまいがちなんです」

さらに、ふくらはぎや太ももをマッサージしたり、好みで落ち着ける香りのアロマや入浴剤を入れたりすれば、心からリラックスできてその後の入眠がとても楽になるとのこと。

逆に、注意したいのは入浴後に着込みすぎないことだという。寒い時期にはついつい着込みがちだが、加賀さんによると、冬でも基本的には下着一枚、パジャマ一枚で十分。それ以上は着込みすぎになる可能性があるという。

「自然な体温の低下を妨げないよう気をつけてほしいですね」

(2)「冷え」には足湯や靴下で温める
冬場はもちろん、冷え性の人や夏のエアコンによる「冷え」で手足が冷たい人にもおすすめなのが「足湯」だ。

「40度前後のお湯に10分程度足をつけているとポカポカしてくるので、それを目安にしてもらえるとよいと思います。皮膚温とともに深部体温も若干上昇しますが、入浴ほどは上がらないので、入眠の1時間前に行っても寝つきを害するほどではありません」

また、靴下で足を温めたいという人は、「眠る時」ではなく「眠る前」に履いて温めておくのが効果的だという。

(3)室温のコントロールで目覚めをサポート
体温の変化をスムーズに促すためには、寝室の温度のコントロールも必要だ。加賀さんによると、パジャマを着て寝る場合の適温は、夏が26度、冬が16~19度だという。

特に寒い冬の朝、起きるのが辛いのは体温が上げづらいからだろう。そんな時は、オイルヒーターなど暖房のタイマー機能を使い、目覚めの前に室温を20~22度を目安に暖めてみてほしい。起きやすくなるかもしれない。

一方、暑い時期には、エアコンや扇風機で自然な体温の低下を促すのが望ましい。ただ、光熱費が気になる人も多いだろう。

そこで、加賀さんが暖房・冷房と併せて試してみてほしいと話すのが「窓用遮熱フィルム」だ。窓のサイズに合わせて手軽に自分で貼ることができるうえに、部屋の明るさはほとんど変えずに夏は「熱」冬は「冷気」を抑えることができるという。

「部屋の温度は、窓からの熱の影響が大きいと言われているんです。直接的な“快眠グッズ”ではありませんが、結果的に快眠に結びつくんじゃないかと思います」

睡眠を妨害?“冬の味方”も要注意

実は、私たちにとって身近な“素材”にも、体温の自然な変化を妨げやすいものがあるという。
それが、寒い時期の味方、“あったかインナー”などの「吸湿発熱」素材だ。加賀さんによると、睡眠と体温のメカニズムを乱す恐れがあるので注意が必要だという。

そもそもあったかインナーで使われている「吸湿発熱」とは、どんな仕組みのものなのだろうか。

「暑い夏に打ち水とすると、水が蒸発する時に周りの熱を奪う(気化熱)ことで気温が下がりますよね。『吸湿発熱』はこの逆の原理を利用したものなんです」

つまり、水蒸気が水に変わる時に周りに熱を生む(凝縮熱)ことを利用し、人がかく汗を水蒸気の状態で吸収して、繊維の中で水になる時に暖かく感じる仕組みだ。

では、一体なぜその仕組みが睡眠を妨害してしまうのか。

その理由も“体温”の変化にあるという。

人が一晩で約200mlの寝汗をかくのは、気化熱によって体温を下げるためだ。それなのにその汗を使って体の周りの繊維が発熱してしまうと、体温を下げようにも下げられなくなってしまうのだという。

「体温を下げるどころか、むしろ暑さで体温が上がってしまいます。その結果、睡眠を浅くしてしまう可能性があるのです」

正しい知識とちょっとした工夫で体温を眠りのために最適化できれば、きのうより睡眠の質を上げられるかもしれない。

加賀照虎
睡眠健康指導士。3,000万PV超の「快眠タイムズ」にて睡眠学に基づいた快眠・寝具情報を伝える。朝の情報番組にてストレートネックを治す方法を紹介。現在、雑誌、テレビ、ウェブなどの幅広いメディアで快眠の啓発活動に取り組んでいる。

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