名鉄、「再開発」で反転攻勢へ 高崎体制〝後半戦〟の課題 社風改革も焦点に 創業来の投資

前3月期決算や今期の見通しについて語る高崎社長(10日、名証で)

 名古屋鉄道の高崎裕樹社長(63)が、2021年6月に社長に就任してから丸3年を迎える。高崎氏の年齢や歴代の名鉄トップの在任期間を考慮すれば、折り返し地点だ。過去3年間はコロナ禍の苦しい経営環境の中で、構造改革など収益力向上に務める安全運転に努めてきたが、後半戦は名鉄の将来を左右する名鉄名古屋駅地区再開発プロジェクトに対する決断など課題も山積する。

 6月25日に創業130年を迎える名鉄にとって、文字通り創業来のプロジェクトが名鉄名古屋駅のリニューアルなどを含む名駅再開発プロジェクトだ。人件費や資材の高騰などで投資額は数千億円規模に上るとみられる。コロナ禍などを踏まえ、いったん計画を凍結し、「2024年度に事業の方向性を判断し、公表する」予定だ。
 過去数十年の大型投資は中部国際空港と名鉄名古屋駅を結ぶ空港線の開業や超高層ビル「名古屋ルーセントタワー」などがあるが、名鉄単独で数千億円以上の投資は過去最大規模だろう。経常利益375億円(24年3月期)の名鉄にとって、数千億円の投資で失敗すれば、経営の屋台骨が揺らぐ可能性もある。
異色のキャリア
 実は、高崎社長は名鉄の歴代トップの中で異色だ。歴代トップは日銀や運輸省から社長を招いた時代を除けば、人事や秘書出身者が多い。実際の商売で成功したり失敗したりした経験は少ない。
 しかし、高崎氏は名鉄不動産(現名鉄都市開発)に出向するなど、現場でビジネス感覚を磨いた。請け負ったビルの構造計算を偽装した姉歯事件に巻き込まれ、新築したばかりのビジネスホテル「名鉄イン刈谷」を取り壊さなければならない悲哀も味わった。
 グループ内では、「名鉄100年の計」となる名鉄再開発の最終意思決定者として「実業を知る高崎さんなら適切な判断を下すだろう」(名鉄関係者)と求心力を高めつつある。
 名鉄にとって、バブル崩壊後の失われた30年は文字通り、縮小均衡路線だった。名駅再開発は、反転攻勢ののろしになる。
起業マインド育む
 今年の人事の目玉の一つは、名鉄生活創研社長の足立洋平氏(66)を、7月11日に設立する流通事業の中間持ち株会社、名鉄リテールホールディングスの社長に抜てきした人事だ。足立氏は名鉄百貨店専務を務めるなど「営業に精通している」(高崎社長)が、名鉄本体の取締役に就任したことは一度もない。名鉄本体やグループ会社を問わず、ビジネスで実績を上げた人材を積極的に登用する、というメッセージだろう。
 社長肝いりで広報部に新設したのが、ブランディング担当。20代から40代の少数精鋭で組織し、グループ社員のエンゲージメント(働きがい)向上につながる施策の検討や、新しいことに挑戦する土壌づくりを進めている。
 鉄道やバスなど地域社会のインフラを担う交通事業者として、安全安心の文化をより一層高める一方、失敗を恐れず、挑戦する起業家マインドという新しいDNAを注入することが課題と考えているからだ。
 後半戦は、「100年に1度」の決断と社風を変える文化革命が焦点になる。

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