災害関連死認定の備え県内8市→20市町に増加 熱海土石流以降、条例改正スピードアップ 遺族「心が救われる」=静岡県

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さん>
「土石流で一瞬で流された方は無念だと感じる間もない。父の場合はせっかく助かって『伊豆山に戻るんだ、アパートを探してくれ』と言っていた中で、最後、病院の天井を見てどういう気持ちだったのか。たぶん、ただただ生きたかったと思うんです」

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岐阜県に住む伊東真由美さん。災害関連死で静岡県熱海市に住んでいた91歳の父親を亡くしました。

2021年7月、熱海市伊豆山で大規模な土石流が発生。違法に造成された盛り土が崩れ、流れ下った土砂が住宅を飲み込み、28人が死亡しました。
唯一の災害関連死が伊東さんの父親でした。

災害関連死とは災害そのものによる「直接死」ではなく、被災のストレスや避難生活などの間接的な要因による死亡です。

関連死が注目されたのは、2016年に震度7を2回観測した熊本地震でした。長引く避難所生活の影響などで死者273人のうち、災害関連死は218人。実に8割の人が関連死で命を落としています。2024年1月の能登半島地震では、石川県で15人が関連死で亡くなり、静岡県内でも2022年9月の台風15号で、自宅が浸水被害を受けた静岡市の高齢者3人が関連死と認定されています。

災害関連死が認められると、弔慰金という形で最大500万円が支給され、生活再建に役立てられます。

熱海土石流災害の発生当時、伊豆山の自宅にいた伊東さんの父親は、土砂で逃げ道をふさがれ消防や近所の人に助けられて避難したといいます。

行政などが用意した避難先はホテル。環境は整っていましたが1ヶ月半が経った2021年8月、父親の体調が急変し、脳出血により帰らぬ人となりました。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さん>
「え?え?という感じ。せっかく助かったんだからあちら側に行くことはもうないと思ってた。土石流を目の当たりにしたことだけでなく、やっぱり勝手の違う生活は高齢者にはストレスだったんだろうなと」

助かったはずの命がなぜ亡くなってしまったのか。答えが見つからない間は「遺族は暗い中にいる」と伊東さんは振り返ります。

その気持ちの落としどころを見つけるために、災害関連死の申請を決意。
熱海市役所を訪れましたが、そもそも熱海市には関連死を審査する条例と申請書類がないと説明され、伊東さんは拍子抜けしたと言います。

災害関連死の認定には、災害と死亡との因果関係を確認する必要があります。法律では、その判定を担う審査会を各自治体が設置するよう努力義務を定めていますが、熱海市にはその仕組み自体がありませんでした。

熱海市は急ピッチで条例を改正し、医師や弁護士などで作る審査会を設置。
伊東さんの父親の関連死を認定したのは、亡くなってから半年ほどが経ってからでした。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さん>
「(認定は)遺族の心が救われる部分があると思います。父は土石流がなければこういう死に方はしなかったと思う。原因は土石流だとはっきりさせたかった。もし申請が落ちても、条例ができただけで父親はきっと褒めてくれるかなと思って」

発災から1年が経った2022年8月、SBSでは県内35市町にアンケート調査を実施しました。災害関連死を認定する審査会の設置を規定している自治体は8つ。残りの27市町・全体の7割以上にあたる自治体で災害関連死の認定の備えが完了していないことがわかりました。
理由として挙げられていたのは、▼専門的知識が必要、▼過去に住居がなくなるような自然災害がない、▼災害によって認定のばらつきがある、などの意見です。

ところが、近年の風水害で県内にも大きな被害があったことや災害関連死の事例が増えていることなどから、条例改正の機運が高まり、自治体ごとに動きがありました。

<静岡県 健康福祉部長>県議会本会議2024年3月
「本県では現在20市町が災害弔慰金支給に関する条例を改正し審議会等の設置を定めております」

いざというときの関連死認定の仕組み作りを完了した自治体が、2年経たずして、8市から20市町へと大幅に増加しました。県によりますと、全国的に見ても比較的高い割合だということです。

まだ、着手していない自治体はその理由について、▼審査会のメンバーの選定が難しい、▼小規模な自治体は業務の兼ね合いがあり大変、などの意見を挙げているとのことですが、県は「発災後の条例改正などは負担が大きいため、平時からの整備の必要性を強く働きかける」としています。

伊東さん自身も関連死認定の条例整備を訴える活動を続けていて、全国の延べ100自治体にアプローチしました。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さん>
「訓練や備蓄だけでなく、法律・条例の準備も防災の一つ。なぜ人が亡くなったかという事例は、どうしたらその命を救えたかという反面の事例でもあると思う」

条例の改正などの機運の高まりとともに、まずは災害関連死について知ること。それが、生き残った命を守る出発点になりそうです。

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