「外国人だから」職務質問?レイシャル・プロファイリングを見かけたときに、できること

イメージ写真(記事中の警察官とは関係がありません)

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2020年5月のある日の夕方に、JR新宿駅の東口付近を通りかかったときのことだ。

Bさん(45)は、外国にルーツがある男性が、警察官2人に職務質問されているのを見かけた。警察官は、男性が財布を開いたところで横から手を伸ばし、カードを一枚ずつ取り出してチェックしていた。

Bさんが近寄り、職務質問の理由を尋ねると、警察官は「あなたには関係ないでしょう」と返した。

Bさんは、警察が権力を逸脱した行為をしている可能性があるなら、それはどんな市民にとっても無関係ではないと反論し、なぜカードを調べているのかを聞いた。

警察官は「カード詐欺が流行っているから」だと答えたが、なぜその男性が詐欺を疑われているかの説明はなかったという。Bさんが抗議を続けると、警察官たちはその場を離れて行った。

職務質問を受けていたのはベトナム人男性だった。ほっとした表情を見せ、Bさんにお礼を告げた。

「職務質問に応じることは義務ではないので、断ることができます」とBさんが伝えると、男性はそうなんですかと驚き、「私は外国人だから...」と声を落としたという。

「人種差別的な職務質問」の違法性を問う裁判も

職務質問は、どんな場合に行われるのか。

職務質問の法的根拠である警察官職務執行法第2条1項は「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」などを「停止させて質問することができる」と定めている。

挙動や周囲の状況と関係なく、「人種」や国籍、「外国人に見える」などの外見的特徴だけを理由とした職務質問は、法律上の要件を満たしていない。

警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすることは「レイシャル・プロファイリング」と呼ばれる。

国連の人種差別撤廃委員会は2020年の一般的勧告で、「レイシャル・プロファイリングとの効果的な闘いには、人種差別を禁止する包括的立法が欠かせない」と指摘し、禁止法の策定などを各国に求めた。

日本でもレイシャル・プロファイリングの違法性を問う裁判が始まっている。人種差別的な職務質問を受けたとして外国出身の3人が1月、損害賠償などを求めて国、東京都、愛知県を相手取り東京地裁に提訴した。4月15日の第一回口頭弁論で、被告3者はいずれも請求の却下や棄却を求め、争う姿勢を示した。

2021年には、「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった」として、在日アメリカ大使館が異例の警告を出している

「温かく迎え入れられた経験はずっと残る」

「レイシャル・プロファイリング」という言葉が日本で広まり始める前から、Bさんは外国ルーツの人への差別的な職務質問を目の当たりにすることが多かったという。

過去に介入したのは冒頭のケースだけではない。渋谷、池袋、下北沢などで、外国人とみられる人が不審な挙動をしていないにも関わらず職務質問を受けている場面を見かけ、これまでに4、5回ほど声を掛けたことがあるという。いずれも中東やアジア出身の人だった。

現在は埼玉県内で暮らすBさん自身も、東京都内に居住し、目立つ色合いの私服で電車通勤していた数年前までは、職務質問を受けることがあった。

職務質問が強制ではなく任意であることや、警察官職務執行法の規定を学び、服装や「外国人ふう」の見た目などに基づく、合理的な理由のない職務質問に疑問を抱くようになったと振り返る。

2020年当時、Bさんは外国人向けのシェアハウスを運営する会社に勤めていた。外国籍の同僚が多かったこともあり、外国ルーツとみられる人が駅構内やその周辺で警察官に呼び止められている現場を見かけるたびに気にかけていた。

「犯罪が疑われる相当な理由がある場合は別ですが、国籍や人種だけで職務質問の対象者を選別しているのであれば、それは差別です。人種差別は戦争にもつながってしまうという危機感が、私の考えの根底にあります」

人種差別的な職務質問が疑われる場面で、「見て見ぬふり」をしない。Bさんがそう決めているのは、海外滞在中の体験も影響しているという。アジアやヨーロッパを旅していたとき、現地の人たちから親切にされた思い出も、差別された経験もある。

大学時代にスペインのアルハンブラ宮殿を観光した際、見知らぬ学生たちから指をさされて笑われ、不本意に写真を撮られたことがあった。一方、旅行で訪れたベトナムでは、バイクがガス欠になりかけたときに住民が燃料を分けてくれたり、家に招いて食事でもてなしてくれたりもした。

「異国の地で明らかに不便な状況にいるとき、その国の人から温かく迎え入れられた経験はずっと記憶に残りますよね。外国から日本に来た人が目の前で困っていたら、これからもできる限り手を貸したいです」

介入するときに、知ってほしいこと

「外国人」だから、または「外国人ふう」に見えるから、という理由で職務質問したのでは━。

外国にルーツがある人が、レイシャル・プロファイリングの疑いがある職務質問を受けたときはどうしたら良いのか。そうした現場に遭遇した場合、第三者はどのように介入し、何に気をつけるべきなのか。人種差別の問題に詳しい宮下萌弁護士に聞いた。

━外国にルーツのある人や外国籍の人自身が、レイシャル・プロファイリングを受けていると感じたときはどうしたら良いのでしょうか

宮下萌弁護士(以下略):まずは「なぜ私に声をかけたのですか」などと、警察官に職務質問した理由を説明するよう求めてください。日本語で伝えるのが難しい場合は、「Why did you stop me?」など簡単な英語で尋ねると良いと思います。

例えば、夜間に無灯火の自転車に乗っていたり、交通違反があったりするなどの事情があれば、警察官が職務質問をする合理的な理由があると考えられます。

ですが、「外国人」や「外国人ふう」の見た目であること以外に職務質問をされる理由がないと感じたときには、何をもって(警察官職務執行法上の)「不審事由」があると判断したのかを警察官に対して質問してほしいと思います。

職務質問は、警察官が職務を執行する上で認められている行為ですが、市民にもその理由を問うことができると知ってほしいです。

宮下萌弁護士

残念ながら、レイシャル・プロファイリングの被害に遭った人たちからは、職務質問した理由を聞いても明確に説明されなかった、という声を聞いています。

それでも、「なぜ(他の人ではなく)私を止めたのですか」といった質問を重ねる中で「ドレッドヘアーの人は(違法)薬物を持っていることが経験上多かったから」「外国人が運転することは珍しいから」といった、明らかに合理性を欠く発言が警察官から出るケースもありました。

「職務質問は任意だから、応じる必要はないと知っています。最近、レイシャル・プロファイリングという言葉が話題になっていて、自分も『外国人に見える』という理由だけで職務質問をされたのではないかと疑念を持っています。そうではないなら、その理由を説明してください」

例えばこのように、本人が毅然とした態度で説明を求めれば、(単に職務質問に応じない姿勢とは受け取られず)不審事由が高まることにはならないと考えられます。

このほか、対応した警察官個人を特定することも重要です。人権侵害の程度が酷いとして、差別的な職務質問の違法性を問う訴訟を起こす場合などには、どの警察官だったかを特定できることは立証のうえで非常に重要です。

ただ、名前や所属を聞いても教えてもらえないことは多いですし、簡単には覚えられません。

一方で、職務質問をするのは制服を着た地域警察官であることがほとんどなので、制服の胸元の識別章に刻まれている識別番号(アルファベット2文字、数字3桁※)を記憶したりメモを取ったりしておくと、その警察官を特定することができます。

(※)アルファベットは所属を、数字は個人の番号を表す

━「人種差別的な職務質問」が疑われる現場に居合わせたとき、第三者としてできることはありますか

すぐに介入するのではなく、まずは状況を確認し、職務質問されている人が困惑している様子なのか、それとも積極的に職務質問に応じようとしているのかを判断するのが良いかと思います。レイシャル・プロファイリングの被害に遭った人でも、個人の考えやその後の予定など、状況によって本人が望む対応は異なるためです。

職務質問は、警察官職務執行法に基づく行政警察活動であり、任意のものとして行われなければなりません。そのため、された側は拒否することができますが、実際には応じるまで警察官から説得を続けられることがあります。時間に余裕がなく早く終わらせたいと考えている人にとって、第三者が割って入ることは迷惑になってしまいかねません。

ただ、本人が納得して職務質問に応じている場合とは異なり、合理的な根拠のない職務質問に抗議している様子だったり、戸惑っていたりするときには、「どうされましたか」「何か困り事がありますか」などと声掛けすることはとても効果的です。

━介入後は、警察官と本人の間で何をしたら良いでしょうか。気をつけるべきことはありますか

職務質問を受けている本人が対処する場合と同様に、警察官に「なぜこの人に声を掛けたのですか」と説明を求めることが大切です。また、介入する人は警察官に「職務質問と(それに付随する)所持品検査が任意であることを本人に説明したか」と確認し、していないのであれば改めて説明するように伝えてもらいたいです。

先ほど述べたように、当事者の意思を確認することは必ずしてほしいと思います。その上で、介入に当たっては警察官と物理的な距離を取ってください。興奮して手が当たってしまうなど、予期せぬ事態が発生した時には公務執行妨害の容疑をかけられる可能性もあります。警察官の手が届く範囲内に入らないことを意識してほしいです。

声を掛けて間に入ることだけが、第三者にできる介入の方法ではありません。ある知人は、レイシャル・プロファイリングが疑われる場面を目撃したとき、警察官を「ただじっと見つめる」ことを心がけていると言っていました。小さな行為に見えますが、「人種差別を許さず、警察官の言動をちゃんと見ていますよ」という市民からの目は、レイシャル・プロファイリングの抑止になり得ると思います。

━動画撮影はするべきでしょうか

警察官から差別発言が出るなど、レイシャル・プロファイリングと思われる現場に居合わせた人が、職務質問されている人に許可を取った上でスマートフォンなどでその様子を録画することには大きな意味があります。

当事者がその後、各都道府県の公安委員会に対する苦情申出制度を利用して訴え出たり、裁判を起こしたりする場合に、映像は重要な証拠になります。警察に対して恐怖心を抱いているときなど、職務質問を受けている本人が冷静に録画することが困難な状況もあるため、第三者が撮影する方法は有効です。

職務中の警察官にも肖像権(同意なく撮影されたり、撮影された写真や動画を公表・利用されたりしない権利)はありますが、公権力の濫用を証拠として記録するというような正当な理由があれば、肖像権の侵害が問題となる可能性は低いと考えられます。

動画撮影のハードルが高いと感じる場合は、警察官と当事者の発言や行動をメモに残す方法もあります。いつ、どこで起きたのか、警察官が何と発言し、どんな行動を取っていたかなどを、できる限り具体的に記録してください。

【アンケート】ハフポスト日本版では、人種差別的な職務質問やレイシャル・プロファイリングに関して、警察官と元警察官を対象にアンケートを行っています。体験・ご意見をお寄せください。回答はこちらから

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