荒城の月(5月11日)

 新緑が天守閣の白壁に映える。好天と相まって、鶴ケ城公園に多くの観光客が足を運ぶ。詩碑が敷地の一角にひっそりと立つ。碑文は、詩人土井晩翠が手がけた「荒城の月」。鶴ケ城がモデルとされたのを記念して建てられた▼戊辰の激戦で荒れた城、はかなく散った命―。土井自身が修学旅行で訪れ、わが身で受け止めた無常観が歌詞に刻まれている。名曲を歌い継ごうと、2000(平成12)年に始まったのが「荒城の月市民音楽祭」だ。観光ガイドの有志が呼びかけた。歌唱の機会が消えつつあるとの危機感があった▼歴史を紡いだ音楽祭は、あす12日に最終公演を迎える。関係者の高齢化に、新型コロナ禍などが追い打ちをかけ、ボランティアでの運営が難しくなったという。これまでの成果の集大成となる歌声を10団体が會津風雅堂に響かせる。記憶にしっかり焼き付けよう▼〈栄枯は移る 世の姿〉と荒城の月にある。人々の関心や流行は移ろいやすいが、優れた歌は時代をまたいで残る。お城は市民の熱意で再建され、昔の栄華の光が差す。今は一人一人が24年の歩みを胸に刻んで時を待ちたい。思いのこもる音楽祭にいつか復活の光が当たる、その日まで。<2024.5・11>

© 株式会社福島民報社