子どもの五月病や不登校 「向き合う覚悟」など親が考えるべき対処法を専門家に聞いた

子どもが学校へ行けなくなったとき、親はどう接するべきか…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

新しい環境で張り詰めていた緊張が、ゆるむことから起こるといわれる「五月病」。新社会人や大学進学時など大人に多い印象ですが、入学時やクラス替えといった環境の変化で、子どもも同じような状況になる可能性があるといいます。もし、我が子にそういったことが起きたら、親はどうすればいいのでしょうか。元国際線の客室乗務員で、現在はコミュニケーションインストラクターとして活躍し、親子関係についてのアドバイスに定評のある瀬川文子さんに、2回にわたってお話を聞きました。後編は「子どもを休ませると決めたときの対処法」についてです。

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「原因が精神的なものでも、体が疲れを感じる」

五月病や不登校の兆しが見えたときの対処法について、瀬川さんは「行きたがらないのには、何か必ず原因がある」と話し、その理由を知る必要性を解説してもらいました。メンタルの不調を“心の風邪”にたとえるように、闇雲に学校へ行かせるといった無理をさせると、重症化することもあると瀬川さんは懸念。

「原因が精神的なものでも、体が疲れを感じることはあります。原因がはっきりしていて、“大丈夫かな”と思っても、お子さんが深刻に考えていたら休ませたほうがいいケースもあるでしょう。

ただ、ダラダラ休ませるのではなく、気持ちが修復できるようにケアして、しっかり受け止めて話を聞く。前向きな気持ちになるよう、家の中でできる範囲で体を動かしたり、一緒に何か家事をしてみたり、“積極的に休む”という意識が大事です」

また、原因が子どもの心と体に深刻な影響を与える可能性があると感じ、休ませると決断をする必要があることも。瀬川さんは「そうしたとき親は、原因を解決するのに加え、休ませること自体にも腹をくくる気持ちが必要」と心がまえを語ります。

大切なのは子どもが「“向き合おうとしてくれている”と感じられること」

ただ、子どもがまだ小さいと、休ませるといってもひとりで留守番させられず、簡単に休ませるわけにはいかないケースもあるでしょう。子どもに向き合う時間を作るため、仕事の都合をつけるのが難しい状況もあり得ます。

「どうしても難しいとき、お子さんの様子を見て大丈夫と思えたら『今日は頑張って学校へ行って、帰ってきてから、ゆっくりお話ししよう』と送り出し、それをきちんと守るといった対応もひとつの方法でしょう。大切なのは、お子さんが“自分にちゃんと、向き合おうとしてくれている”と感じられることです」

学校や塾に任せられることはあるものの、ひとりの子どもと向き合って理解し、しっかり受け止めるには、家庭の存在が大切。親に理解されないと感じると、子どもは孤立感を深めてしまうといいます。その一方で瀬川さんは、子どもが学校へ行きたがらなくなったときの、親の気持ちについて「不安になりますよね。心配だし、先のことを考えて悩んでしまう」と理解を示しました。

ただ、学校へ行かせたいと焦り、内心で「学校へ行けないダメな子」「思い通りにならない」といった気持ちがあると、どんなに隠しているつもりでも、子どもは敏感に察するそう。

「だからこそ、親は腹をくくって、子どもと向き合う覚悟を決める必要がある」と瀬川さんは改めて言い、親の接し方で不登校から立ち直れた子の例のひとつを教えてくれました。

親の接し方で子どもが孤立感を深めてしまうことも…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

親が果たす役割で大事なのは「必ず立ち直れると信頼すること」

真面目な性格で部活動を頑張り、部長に抜擢されたAくん。きちんと役目を果たしていましたが、強豪校で顧問からプレッシャーがあり、部員たちの不満を解決する日々は、会社員でいう中間管理職状態です。Aくんはやがて疲れ果て、不登校になってしまいました。親は気を揉みましたが、息子の性格をよく知るだけに無理強いはせず、休ませたといいます。

最初のうち、Aくんは心身ともに疲労困憊で寝てばかりいたそう。その様子を見ながら、過干渉にならないよう疲れているのをいたわるうち、Aくんは少しずつ気力を取り戻し、本を読み始めるなど家の中では活動的になってきました。

それでも、まだAくんは「学校へ行く」とは言いません。息子の様子を観察し、“まだ学校へ行くだけの気力はない”と感じた両親は、普段通り接しつつ見守り続けたそう。学校へ行けない日々が重なると、不安になることもあります。しかし、そうした気持ちに惑わされず、息子のコンディションに注意を払い、ひたすら心と体が回復するのを信じて待ったそうです。

すると、Aくんが自分から「学校へ行く」と言い出しました。親はAくんと話し合い、大丈夫と感じましたが、今度は“また疲れ果ててしまうのでは”という不安を抑え、明るく送り出したといいます。そして、不登校がなかったかのように、Aくんは学校へ戻ることができました。

瀬川さんはAくんの親について、「何もしていないように思えるかもしれませんが、こうした接し方は、よほど覚悟しないとできません」と称賛します。疲れ切って寝てばかりの状態には、心配や“このまま学校へ行けないかも”という不安も。活動的になれば「もう学校へ行ったら?」と、つい言ってしまう人も多いでしょう。

しかし、親がそうした自分の感情を優先したら、Aくんは休息の地であるはずの家に居場所がなくなってしまうと、瀬川さんは指摘。親の態度に、Aくんは信頼感を覚えたからこそ、再び学校へ行く気力を取り戻せたといいます。

「お子さんを一番理解しているはずの親の役割は、子どもの力を信じて寄り添い、“必ず立ち直れる”と信頼を示すことです」

ちなみに五月病と呼ばれる不調は、5月だけとは限りません。瀬川さんによると、「特定の時期だけではないですが、一番多いのは夏休み明けという印象」だそう。子どもの健やかな成長のためにも、日々の様子に気を配りたいですね。

瀬川 文子(せがわ・ふみこ)
コミュニケーション・インストラクター。日本航空客室乗務員として14年間国際線勤務後、子育てをしながら米国のコミュニケーション訓練のプログラムの指導員をはじめ多くの資格を取得。コミュニケーションの大切さを講演、研修、著作で伝えることをライフワークとして活躍している。テレビや雑誌のインタビューに加え、主な著書に「聞く、話すあなたの心、わたしの気もち」(元就出版社)、「職場に活かすベストコミュニケーション」(日本規格協会)、「ママがおこるとかなしいの」(金の星社)ほか多数。

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