「定年」がない会社 ベテランは培ったスキルを若い世代に 80歳「死ぬまで働きたい」

トヨタ自動車は、この夏から65歳以上の再雇用をすべての職種に拡大し、70歳まで働ける新たな制度を始めます。これまで日本では「60歳で定年」が一般的でしたが、高齢化や人材不足を背景に、雇用を延長する動きが加速しています。

愛知県豊橋市にある工作機械メーカー「西島」。 100年前の創業当時から、ある特徴があります。 「定年がないことで企業競争力が上がる。ベテランたちの唯一無二の価値は、培ってきた技術と経験なので、価値を生み出すことができる」(西島 西島豊社長) 従業員に「定年」がない会社。 西島では週5日、午前8時から午後5時まで働くことができれば、何歳になっても勤務できるといいます。

「死ぬまで働きたい」

従業員136人のうち、60代と70代はそれぞれ6人。 最高齢は、80歳の関さんです。 「いままで働いていて、定年があるとか考えたことはなかったし、ずっと続けさせてくれているから本当にありがたいです。若手から教えてもらわないといけないこともいっぱいあります。死ぬまで働きたい」(最年長の社員 関賢一さん・80歳) 関さんと一緒に働く30歳の社員は、「尊敬というか、健康で働けてすごいなと思います。まだまだ教わりたいこともあるので、ベテランが退職すると困ります」と話していました。

それぞれの世代の持つ強みを生かし会社がさらに発展

最年長の社員と、今年の新卒社員の年齢差は、実に62歳。 会社は、家族ぐるみで参加できるイベントを定期的に開催するなど、世代を超えた交流ができるよう取り組んでいます。 「社員旅行に行ったり、山登りをやったり、そこが日々の仕事に生きているのかなと思います。ベテランと若手のコミュニケーションも、そこから生まれると思います」(西島社長) 若手は新しい技術を取り入れ、ベテランは培ってきたスキルを若い世代に伝える。 それぞれの世代の持つ強みを生かすことで、会社がさらに発展すると話します。 「ベテランの力と若手の力、役割に応じてそれぞれが相乗効果で、ベテランのいいところ、若手のいいところを見れば、この良さをこういう風に伸ばそうねってなったら健全だし、その相手も幸せになりますよね。この考え方が大事だと思います」(西島社長)

全国約24万の企業のうち約3割が定年制を廃止・引き上げ

高齢化や人手不足を背景に、期待されるシニアの活躍。 「高年齢者雇用安定法」の改正により、希望する従業員については、65歳までは雇うことが義務付けられ、70歳までについては就業機会の確保が「努力義務」となりました。 政府の調査では、全国の約24万の企業のうち、約3割が定年制を廃止したり、引き上げたりしています。 65歳以上の就業率は過去最高となり、65~69歳は2人に1人、70~74歳は3人に1人が働いています。 「いったん仕事は辞めますけど、体が元気だったらまだ、毎日じゃなくても時々働こうかなと思っています」(再雇用で働く60歳) 「やっぱり働くことによって生きがいというかね、楽しいじゃないですか。できるだけ働きたいと思っている。だんだん人がいない時代だから、できるだけ人を活用してほしいし、働きたいと思っている人がいっぱいいると思うので、できれば定年制は廃止してほしい」(再雇用で働く62歳)

トヨタ自動車は「再雇用制度」を拡大

こうした中、トヨタ自動車は8月から再雇用制度を拡大。 定年は60歳で、現在の再雇用は原則65歳までですが、全職種を対象に、職場の要望に応じて1年ごとに契約を更新する形で70歳まで働けるようにします。 人手不足が続く中で、専門的な知識を生かし、若手への指導など人材育成につなげる狙いがあるといいます。

高齢者雇用における課題は?

「多くの企業がいま65歳までの再雇用の対応で精いっぱいの中で、70歳までの雇用が努力義務ではあるが、トヨタ自動車が先んじてやるということは、この地域にとって影響は大きい。これに伴って考え始める企業も増えることは期待出来るところかと思う」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 南田あゆみさん) そう語るのは、ドデスカプラスのコメンテーターを務める、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの南田あゆみさん。 再雇用の広がりを歓迎しつつ、課題についてこう指摘します。 「高齢者雇用における課題は、働く人の個人差が大きくなること。健康・体力面もあるし、家庭の状況、能力をきちんとブラッシュアップできているかどうかでばらつきが大きくなる。企業の今の課題としては、会社への貢献に合わせた処遇ができているか、賃金の設定ができているか」(南田さん)

モチベーション維持が重要

2021年に行われた調査では、定年後に再雇用となった場合、賃金は定年前に比べて、平均4割ほど低下していたということです。 企業側と働く人との間で、仕事の内容や収入の条件などをしっかりすり合わせることがモチベーションを維持するために重要だと言います。 「再雇用にあたって、どういった貢献が出来るか。貢献に対する処遇や対価をうまく就労者との間ですり合わせているか。すでに就労者の方でモチベーションを持ってやれることが整理されていると、すり合わせも早く、企業にとってもきちんとしたポジションを作る意味でもスムーズになると思います」(南田さん)

60歳を超えても賃金水準が維持する企業も

シニアの活躍を促すために、賃金体系を見直した企業もあります。 名古屋に本社がある、セラミックス大手の日本ガイシです。 改定前は60歳を超えると1年契約の再雇用となり、賃金は以前の半分ほどになっていたといいます。 「再雇用となると、現役が終わったというような感覚にどうしても皆さんがなるということがあって、流したような働き方をする人が増えてくると会社としては問題がある」(日本ガイシ 山田忠明取締役) そこで、2017年に定年を60歳から65歳に延長するとともに、60歳を超えても賃金水準が維持されるようにしました。 「給料は維持するので、60歳のころと変わらない、現役のころと変わらない働き方を継続してもらいたいというのがメッセージの中心です」(山田取締役)

今後さらなる改革も検討

人件費の増加に対しては、会社側の負担だけでなく、労働組合との話し合いを重ねて、社員全体の賃金体系を見直したということです。 今後、さらなる改革も検討しています。 「我々としては、ベテランというのは会社の財産なものですから。本人が望んでくれるなら、力をこれから先も頑張って残って発揮してもらいたい。これから先は70歳までの雇用の機会を持つことが努力義務としてある以上、全社員に向けてどのような制度の仕組みを持っていくかということは、いままさに検討を試行しているところです」(山田取締役)

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