山下美月が乃木坂46に残したものとは? 「正直私には向いていない」卒業前に向き合ったアイドル像から考える

乃木坂46 山下美月の卒業コンサートが、5月11日と12日の2日間にわたって東京ドームで開催されている。

今年2月の卒業発表から約3カ月が経ち、約8年に及ぶグループでの活動に幕を閉じようとしている山下。アイドルとして、俳優として、モデルとして、あらゆる方面で活躍し、それを乃木坂46のために還元してきた山下からのバトンは同期の3期生や後輩の4期生、5期生へと受け継がれている。本記事では山下のアイドル人生のうち、この3カ月のあいだで残してきたもの、伝えてきたことに焦点を当てて山下の今を探っていきたい。

■山下美月のアイドル像

その大きな手がかりとなるのが、4月23日に発売された2nd写真集『ヒロイン』(小学館)だ。昨年8月開催の『乃木坂46 真夏の全国ツアー2023』の愛知公演と宮城公演の合間で敢行された5泊7日のアメリカ・ロサンゼルスでの撮影ロケ。「アイドルとしての集大成」をテーマに自ら企画書を持ち込みした本作で、山下は1万2000字を超えるエッセイを書き下ろしている。これまでとこれからを人間らしく、生々しく綴った文章のなかで筆者が目を疑ったのは、「アイドルのお仕事は、正直私には向いていないなと感じます」という書き出しの一文だ。

卒業シングルとなる35thシングル『チャンスは平等』を含む計3度のシングル表題曲センターに立ち、東京ドームで有終の美を飾ろうとしている山下は誰もが認めるアイドルであり、ヒロインだろう。だが、並んでいるのは、「劣等感」「緊張」「プレッシャー」といった意外なワードと自身を俯瞰視した冷静な目線。山下のアイドル像を紐解く鍵として、「諦め」という考え方が際立って見えてくる。一見するとそれはマイナスにも捉えられそうだが、「諦めが最大の自由だと気づいてから、少しポジティブになれた気がします」「こうしなきゃああしなきゃのしがらみから何かを一つ諦めたら、別の何かを拾えると信じています」と記す山下からは何事にも諦観した自身のあり方を感じさせる。過去には『CanCam』2023年5月号のインタビューで、「アイドルとは?」という質問に「理想の『アイドル山下美月』を演じているところがあったんですが、今はそれを突き抜けた感じがちょっとあって。ありのままの自分とまでは言えないけど、すごく自由に、楽しめている感じ。いい意味で、深く考えないようになったのかな」と答えており、諦めが自身の解放に、そして自身のアイドル像へと結びついていると言えるのではないだろうか。

もちろん、そこには同時にいついかなる時も努力を惜しまないアイドルとしての姿がある。たとえば、Instagramひとつ取っても、彼女が更新を怠る日はほぼない。そして投稿の1枚目はほぼ必ず自身の顔が写っている写真で徹底されている。5月8日放送の『乃木坂46 山下美月のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)では、Instagramにアップする写真のセレクトをマネージャーに頼んでいたと明かしていたが、それほどまでにアイドルとしての見せ方をセルフプロデュースしていたとも言えるだろう。その一方で、4月1日のエイプリルフールには、「タコ下美月」としてグッズを出してしまうような、そんな王道でありながらも自由に突き抜けた新たな乃木坂46像を確立した山下にとって、アイドルとはやはり“天職”である。

■山下美月の卒業コンサートとその後

『乃木坂工事中』(テレビ東京系)では、同期、後輩メンバーとの絆を確かめる卒業企画「山下といっしょ」がオンエア。バナナマンとのスリーショットトークでは、賀喜遥香や一ノ瀬美空といったメンバーからの愛を受け取った「バレンタイン大作戦」「お歳暮グランプリ」をきっかけにして、後輩とさらに仲を深められるようになったと明かしていた。そこで設楽統が話していたように、卒業生の齋藤飛鳥の存在は山下と切り離せない関係性にあり、『CanCam』2024年5月号では、「卒業を意識し始めたのは、齋藤飛鳥さんが卒業されたときでした」と語っている。かつての齋藤の役割を山下が担うようになったのと同じく、それを今後は賀喜や一ノ瀬といったこれからの世代が務めていくのだろう。

そのことが示されるのが、東京ドームでの卒業コンサートである。先述した『オールナイトニッポン』でのパーソナリティでは、セットリストを自ら考案し、演出打ち合わせにも参加。思い入れのある楽曲、先輩メンバーをリスペクトした楽曲、まだ歌ったことのない楽曲などを織り交ぜたオリジナリティ溢れる、それぞれセットリストの異なる2日間のコンサートになることを山下は明かしていた。

『チャンスは平等』に収録されている山下のソロ曲「夏桜」は、山下自身が作詞を担当した楽曲。1番の歌詞はファンを、2番の歌詞はメンバーを思い書かれている。各期への思いが感じられる〈全て包み込みたかった/風も 光も 絶望も〉、山下が去ったあとの乃木坂46をイメージさせる〈花の香り 残さないで/時々思い出すくらいでいい〉のリリックが印象的だが、ラストの〈夏が来る前に 君に見せよう 愛の花を〉はこの初夏に開催される卒業コンサートを指しているようにも捉えられる。

乃木坂46卒業後は、少しの休止期間を挟みながら、『CanCam』モデルは継続し、これからもファンと会える機会は作っていくことを約束している山下。今年11月22日には山下が出演する映画『六人の嘘つきな大学生』の公開も控えており、筆者としては変わらず役者としての姿も見ていきたい思いがある。そして、自由を楽しめる余裕を持った山下は、桜の花びらが空へと舞いあがっていくように、さらなる高みへと再び咲き誇ることができるはずだ。

(文=渡辺彰浩)

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