転倒リスクを見える化「立位年齢」 検査装置開発者に聞く身体機能と感覚機能を数値化する意味

身体バランスだけでなく感覚能力も評価する

「立位年齢」という指標をご存じだろうか。ある人の転倒リスクの高さを年齢表示で表している。立位年齢が実年齢よりも高い人は転倒リスクが高いことを表していて、簡単に計測できる検査装置も登場している。立位年齢検査の開発者に聞いた。

【転倒リスクを数値化したもの】

介護が必要となる原因は認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱などが多いが、病気以外で多いのが転倒、骨折だという。健康と転倒リスクは密接に関連している。

「スポーツセンターを常時利用しているなど運動習慣のある人は転倒しにくいことも分かっています。また転倒リスクは高齢者にとっての悩みだけでなく、職場の労働災害で最も多いのが転倒なのです」と語るのは、転倒リスクを計測する検査装置「ステイブル」を開発したUNTRACKED(アントラクト、横浜市)の神谷昭勝社長だ。同社は横浜国立大学発ベンチャーとして、研究シーズを事業化して社会に還元するために設立した企業。初めて事業化したものがステイブルで、転倒リスクを計測する検査装置を開発し、立位機能を改善するトレーニングの提供なども行っている。

転倒というと、筋力や体力など身体機能が衰えてリスクが高まると思われているが、実はそれだけではなく感覚機能も関係している。バランス感覚が衰えていると、感覚刺激の変化によって体のふらつきが大きくなりがちなことが判明している。それだけ転倒リスクは高まるのだ。

そこで感覚機能によって起こる転倒リスクをも含めて「見える化」し、年齢で表わしたのが立位年齢である。感覚刺激の変化に弱く、立位機能が弱まっているほど高い年齢に数値化される。実際の年齢よりも立位年齢が高ければ転倒リスクが高いことを意味する。

【医療・介護施設の転倒事故対策や従業員の転倒災害対策に活用】

その立位年齢を計測できるのが立位機能検査装置ステイブルだ。自分の立位年齢を把握しておくことで日常生活での転倒の予防になる。生活習慣病を予防するために血圧を測ったりウエスト周りを計測したり、あるいは血管年齢を計測したりするのと同様に、立位機能が衰えていないかをチェックしておくことができる。

写真は計測結果の評価レポートで、実年齢73歳の方のもの。身体バランスの年齢評価は72歳だから年齢相応のバランス能力だが、感覚能力はかなり低い。感覚反応の能力が100点満点で評価されていて視覚に起因する揺れが27点、体性感覚の揺れが20点、いずれも40点以下だと転倒リスクが高いとされる。

この結果、この被験者の身体バランスと感覚能力を併せた立位年齢は75歳という結果が出ている。つまり実年齢より立位年齢の方が高く、それだけ転倒リスクが高い。

医療施設や介護施設では、立位年齢を計測しておくことで転倒事故の対策となる。またリハビリのプログラム策定や進捗状況把握に利用できる。

医療・介護施設だけではない。会社でも従業員の転倒災害の防止に役立つそうだ。

「当社の検査装置は厚生労働省の実証事業でも労働現場での有用性があると認められています」と、同社の上條冬矢研究員は語っている。

次回は、この立位年齢をどのように計測するのかについて聞く。

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