なぜストリーマーはマダミスにハマるのか? 人狼、ソーシャルディダクション……「人を騙すゲーム」を一挙解説

現在、VTuberやストリーマーのあいだで流行っている「マーダーミステリー」(略称は“マダミス”)。与えられたキャラクターになりきって議論し、紛れ込んでいる殺人犯を捜し出すのが趣旨のゲームだ。

大の大人が頭をこねくり回して考えた「リアルな嘘」が垣間見れるところが面白いポイントなのだが、果たしてこの流れはどこから来たのか? 似たようなゲームにどういったものがあるのか? 「人狼」「ソーシャルディダクション」「正体隠匿」「マダミス」の四つにテーマを分けて、ひとつずつ解説していこう。

■敵を欺き、勝利をもぎ取れ……ボードゲームの一種「正体隠匿」

最初に紹介するのは「正体隠匿」。これは市販されているボードゲーム(アナログゲーム/非電源ゲーム)のメカニクスやジャンルの一種を指す。

プレイヤーはランダムに配られた役職に就き、それぞれに割り当てられた任務を達成するために動く。大抵の場合、ゲーム中に登場する役職と任務は参照できるので「誰が何をしようとしているのか」を推理してお互いに邪魔し合うのが面白いポイントだ。

任務はさまざまで、お金や資源を集める、特定の役職を倒す、あえて自分が倒されるなど多岐に渡る。ボードゲームということでコンポーネント(内容物)が凝っているものも多く、リプレイ性も高い。後述するマダミスと違ってロールプレイや演劇の要素はなく、ロジックで情報を整理するのが好きな人に向いていると言える。

代表作は『レジスタンス:アヴァロン』や『あやつり人形』。

特に『レジスタンス:アヴァロン』の続編である『クエスト:永遠の王の物語』は、近年の正体隠匿ゲームの中でも秀逸な出来なので、ぜひとも試してみてほしい。

■いつでもどこでも騙し合い……会話型パーティーゲーム「人狼」

それらの正体隠匿ゲームをよりカジュアルにしたものが「人狼」ゲームである。

人狼はボードゲームやデジタルゲームとしても大量に販売されているが、数人が集まり、お喋りできる環境さえあれば、紙やペンだけで遊ぶことも可能だ。

プレイヤーは村人陣営と人狼陣営に分かれ、村人は人狼を、人狼は村人を倒していき、過半数を超えた時点で勝利となる。夜と呼ばれる処刑フェイズが来ると、村人がひとり人狼に襲われてしまうので、昼と呼ばれる議論フェイズ中に人狼を探り当てて処刑しなければならない。処刑が上手くいけば村人が有利になり、間違えれば人狼の方が数で勝ってしまうというゲームだ。処刑先は投票によって決まるので、なるべく自分の意見が通るように口先で皆を納得させる必要があるのだ。

目の前の相手が人狼かどうかを判定できる「占い師」や、人狼に味方する「狂人」という具合に、ユニークな役職がたくさん考案されており、どれを採用するかでゲームバランスが変わっていく。ちょっと遊ぶだけならほとんどお金がかからないのが魅力だが、脱落があること(暇な人が出てきてしまう)や、初心者と上級者とで経験の差が生まれすぎてしまうなど、いくつか欠点もある。

なお、正体隠匿ゲームのなかにも、2陣営に分かれて相手陣営を処刑するという人狼ゲーム的な遊びが含まれていることも多く、必ずしも正確に分けて考える必要はない。

■Steamで探したい時はコレ……「ソーシャルディダクション」

「ソーシャルディダクション」というのは、ようは人狼ゲームの英語名であり、同じものを指すと考えてよい。Steamでこのタグが付いているデジタルゲームは、オンラインで人狼っぽい遊びが楽しめるということだ。ちなみにdeductionとは推論という意味である。

具体的には『Among Us』や『Project Winter』が当てはまる。巷で「宇宙人狼」「雪山人狼」と言われている作品のことである。

これらの作品も2陣営に分かれ、投票でもって相手陣営を処刑していくのが目的の遊びだが、村人側はあちこち動き回って機械を修理したり、タスクをこなしたりしなければならない。人狼は手伝うふりをしながら、いまこそというタイミングで村人を殺すわけである。この辺でデジタルゲーム的な快楽が担保されているわけだ。

原始的な人狼ゲームに比べると、忙しい分愉しくはあるのだが、初心者と上級者とで見える世界が違いすぎるという点は変わらない。これから始める人は……頑張って定石を覚えていこう。

■あらためて「マダミス」とは……シナリオに沿って遊ぶ人狼×TRPG

作家が書いたシナリオに沿って、騙し合いをするゲーム……それが「マーダーミステリー」だ。

プレイヤーたちはまず殺人事件が起きた直後までのプロローグを読み合わせ、現場に居合わせた人物からひとりを選ぶ。その人物の背景や性格、事件当日の動き、目的などが書かれたキャラクターシートを受け取り、じっくりと読み込む。その後は当該の人物になりきって、紛れ込んでいる犯人を捜したり、固有の目標をクリアしたりして楽しむゲームだ。

議論のなかで敵を炙り出すという作りは先の三つと同じだが、マダミスの最大の特徴は「一度遊んだら(ネタバレを知ってしまったら)同じシナリオは二度とプレイできない」ということだ。犯人が誰なのか、目的は何なのかというのは動かないので、また同じ世界に浸りたいというのであればGM(ゲームマスター)をして、初見の知り合いが楽しんでいる姿を見るほかなく、リプレイ性という意味では正体隠匿系のボードゲームに軍配が上がる。

作る側としてはコストがかかって大変だが、遊ぶ側としてはこのデザインが上手くハマることが多い。シナリオの存在が初心者と上級者のあいだの溝を埋めてくれるからだ。正確には、全員が初めて読むお話なので定石が通じにくいのである。

また、タイトルにある「なぜストリーマーはマダミスにハマるのか?」という点に対する解答だが、これはつまり、マダミスがゲームであるとともに“劇”でもあるからだ。

我々一般人が人狼や正体隠匿で遊ぶ際は、上手く立ち回って相手を出し抜くことに快楽を覚えるわけだが、こと配信者に関しては「ゲームが上手いかどうか」という点はひとつのステータスでしかない。配信者があたふたしている姿はファンからするとうれしいが、それでゲームがストップしたり、ミスが起きたりすると、ゲームの進行に差し支えてしまう。

だが、マダミスには「ロールプレイ」という逃げ場がある。ちょっとおバカな設定のキャラクターが議論や定石を無視してかき回すのも笑えるし、逆に知的な設定のキャラクターをやっていたはずなのに推理をド外ししても面白いだろう。その余白が、ゲーム強者ではない配信者にもウケる要因なのだ。

以上、4つの人を騙すゲームについて解説させていただいた。配信者を狂わせる魅惑の騙し合いゲーム……ぜひとも挑戦してみてはいかがだろうか。

ちなみに筆者も『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作している。無料版(協力プレイ・二人用)もあるので、良かったら遊んでみてほしい。

(文=各務都心)

© 株式会社blueprint