経産省が中堅・中小企業のDXを支援 推進を阻む予算よりも深刻な課題とは

経済産業省が中堅・中小企業のDX推進に乗り出す。3月には、DX支援を実施する際のポイントとなる「DX支援ガイダンス」を策定。中堅、中小企業等に向け、伴走支援となるアプローチ方法を打ち出した。

働き手不足が叫ばれる2024年の問題の真っただ中にいる日本の中小企業が、DXを実施し、業務効率化に結びつけていくために足りないものは何か、どんな支援が必要なのかについて、DX支援ガイダンスを作成した経済産業省 商務情報政策局情報技術利用促進課(ITイノベーション課)課長補佐の栗原涼介氏と、今回の取り組みをコンサルタントとして支援したEYストラテジー・アンド・コンサルティング コンサルティング公共・社会インフラユニットシニアマネージャーの武藤祐希氏に聞いた。

独力では難しい中堅・中小企業のDXを支援する仕組み

――まず、「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」について教えて下さい。

栗原氏:現在、経済産業省(経産省)ではDX推進策を実施しており、その中で、企業規模にかかわらず、補助金や表彰制度、認定制度という個社支援をしています。これによって一定の効果はでていますが、中堅、中小企業の方の場合は、人材、資金不足、情報が入ってきにくいなど、DXを進める上で課題があることがわかりました。

こういった課題からなかなか独力でDXを推進するのは難しいというお話も聞きますし、データを見てもDXの進み具合は、まだ道半ばというのが現状です。

その中で、新たなアプローチとして、支援機関の方々を通じてDXを進める方法が有効ではないかと考え、検討会を立ち上げて、DX支援のあり方について議論し、今回とりまとめたものがDX支援ガイダンスになります。

――人手、資金不足など課題はいろいろあるようですが、一番足りないものというのは。

栗原氏:アンケートを取ってみると「ITに関わる人材が足りない」というのが一番大きくでています。もちろんそれだけではないと思っていて、複数の課題が絡み合っていると認識していますが、企業の方からすると人材が大きなハードルになっているようです。

伴走支援を担うのは地域に根ざした金融機関やITベンダー

――支援機関の方々を通じてDXを進める方法は、人材不足を感じる企業の方の助けになりそうですね。どういった方を想定されていますか。

栗原氏:DXというのは、デジタルを活用した経営改革なので、デジタルとコンサルティング、2つの素養を持っていることが大事だと考えています。ですから、デジタルの知見を持った専門家の方限定ということではなく、支援企業の方の成長を見続ける存在になっていただけることが重要です。

具体的な支援機関としては、地域金融機関、地域ITベンダー、地域のコンサルタントの方などを想定しています。「地域」がポイントになっていて、日常的に企業の方と対話し、成長を見守り続ける存在だということですね。

地方銀行や信用金庫、信用組合など、地域の金融機関の方であれば、地域の企業の方となんらかの関わりがありますので、そういう意味では金融機関の皆様からDX支援をしていただくのは効果的だと思っています。

――金融機関の方と中小企業の方の接点は多そうですね。ITベンダーの方というのは。

栗原氏:自社のシステムやツールを導入しているITベンダーの方、またITコーディネーターの方という位置付けです。ITベンダーの方と直接つながりがなくても、コンサルティングの方を通して中小企業の方と知り合うケースもあると考えています。

ITベンダー企業は、各地域にいながら首都圏にある会社のお仕事を請け負っているというケースが多いので、身近な存在と捉えづらいかもしれませんが、数多くいらっしゃるというのが現状です。

首都圏にある企業とビジネスをしつつ、地域の中小企業におけるDXの支援企業としても活動できれば、地域ITベンダーの新たなビジネスの柱になる可能性があります。実際に地域企業のDX支援をしているITベンダーの数は、多いわけではありませんが、確実にいらっしゃいます。中小企業のDXを支援しつつ、ITベンダーの方の新たな活路を一緒に打ち出せるとよいなと思っています。

DXは経営改革を促す上で、避けては通れない

――EYストラテジー・アンド・コンサルティングでは、今回の策定においてどんな役割を担っているのですか。

武藤氏:DX支援ガイダンスの作成支援をしています。加えて、経産省ではDXで成果を残している優良企業を選定する「DXセレクション」という取り組みがありますが、そちらの選定基準作成のサポートや事務局対応などを担当しています。

――DXが進むと日本の中小企業はどのように変わっていきますか。

武藤氏:個人的には、経営改革が中心に来るべきだと思っていて、デジタルというのは手段に過ぎないと考えています。デジタルの発展に伴って、付加価値が低い業務は減ってきていますよね。その減った分の工数を経営の高度化や経営改革に結びつけていけるはずです。

今は、アナログ的な業務をデジタルに切り替える端境期で苦しい時期だと思いますが、経営改革を促す上で、避けては通れない部分だと思っています。

栗原氏:期待しているのは、DXを進めていただく中で独力ではできない部分を支援機関の方々と一緒に取り組むことで、しっかりとデジタル化、DX化まで進めていただくことですね。ただ、そのやり方は企業によってさまざまだと思いますので、着実に、一歩ずつやっていただきたいと思っています。

――今回、DX支援ガイダンスの策定にあたり、どのあたりが大変でしたか。

武藤氏:戦略からKPI、人材、仕組み、システムといくつか論点がありますが、DXと聞くだけでアレルギー反応を起こす方はいらっしゃいます。企業によって得意不得意はもちろんあるかと思いますが、なるべく多くの企業の方にDXを活用した経営変革を促したかったので、1つ1つ論点を出し、徹底して話し合うことにかなり時間を使いました。

策定までに約半年を費やしたのですが、長い時は4時間くらい話し合った日もありましたね。

栗原氏:今回、両者で密に連携をとって、かなり深いところまで議論させていただいたのがとても良かったなと感じていて、時間的には非常にタイトな部分もありましたが、そのあたりも武藤さんにバックアップいただいてありがたかったですね。

武藤氏:今までも企業変革につながることをやりたいというお話は以前からさせていただいていて、今回初めて形になりました。栗原さんの企業に対する思いがまずあって、そこを中心に議論をぶつけ合えたので、私自身も本当に学ばせていただいたという思いが強いですね。

――今まさにデジタルへの転換期かと思いますが、企業におけるこの状況はどのくらい続くでしょう。

栗原氏:直近1年ぐらいでも、生成AIの台頭をはじめ、新たな技術が続々とでてきます。そう考えると、終わりはないのかなと思っています。もちろん形自体は変わっていくと思いますが、ずっと変革し続けて、その時々に応じたあるべき形になるのではというイメージです。

武藤氏:過去にも機械化、OA化、IT化という流れがあり、今がデジタル化だと思いますが、その先になるとやはり経営改革だと思っています。ですから、終わりのないレースといいますか、マラソンに近い感じかなと。デジタル技術の発展は3年、5年といったスパンで変わっていきますが、経営を変えるというテーマは永遠だと感じます。

栗原氏:経営改革は企業が存続する限り続けていくことなので、そういう意味では終わりのない取り組みになるのかなと思っています。

経営改革を後押しするのは「危機感」と「情熱」

――先ほど、DXに対してアレルギー反応を見せる企業の方もいらっしゃるということでしたが、地域性や経営者の年代によって、反応の強弱はありますか。

栗原氏:地域や年代による違いはなくて、危機感の持ち方かなと思っています。危機感を持って、今後も存続し続ける企業にするためにはどうすべきかと考えられている経営者の方はDXを進めやすいですね。DXセレクションにもついても同様なのですが、表彰させていただく企業の方の年齢はバラバラで、あまり関係ないなと感じています。

武藤氏:私も実は驚きだったのですが、危機感を持っていること、そして情熱を持っていることが大事ですね。実際、70代の経営者の方で、大学院に行き直している方もいらっしゃいます。そういう方は社員にもきちんと発信をしていて、若い社員の方とも積極的に交流されている。年代や地域性ではないですね。

――今回の取り組みによって、変わってほしいと思うのはどのあたりでしょうか。

栗原氏:抽象的なのですが、デジタルを怖がらないでほしいという思いですね。デジタルと聞くと難しいものと感じる中小企業の方は意外に多い。危機感はあるが、デジタルは難しいから着手できないと思われている部分を変えたいです。そこが変われば、今後大きく変わっていく可能性があると思います。

デジタルはそんな難しいものではなく、企業価値の向上につながるもの、そう感じてもらうことが必要なのかなと。売上を伸ばすというのはもちろんですが、その途中にある業務のデジタル化は利益を確保するためにも十分効果があるものだと思っていますので、着実にDXを進めていただきたいです。中長期的な取り組みにはなりますが、一歩一歩進めていただきたいですね。

武藤氏:私は伴走支援者の方に向けてなのですが、今回のガイダンスでスキルやマインド、デジタルに対する心構えみたいなもののフレームができたと思っているので、これが広まってほしい。やはり属人化するのはコンサルとして一番よくないと思っているので、正しく理解され、広く使われることを期待しています。

経産省プレスリリース

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