〈遺産分割協議〉でモメたくないなら「弁護士」と「配偶者」の介入を避けるべき、納得のワケ【相続専門税理士の助言】

相続でモメたくないという思いは、誰にとっても共通のものです。それでも、遺産分割協議の際に、親族間での諍いの原因となりがちなのが「弁護士」もしくは「配偶者」が介入する場合である、と「税理士法人レガシィ」代表税理士の天野大輔氏は言います。天野氏の著書『相続でモメる人、モメない人』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。

遺産分割協議で「弁護士の立ち会い」は必要?

円満に遺産分割協議を進めるためには、「最初から弁護士に立ち会いをお願いする」と考えるのと、「弁護士に頼むのは実際にモメて収拾がつかなくなったらでいい」と考えるのでは、どちらがいいでしょうか。

数多くの相続に関わってきた立場からすると、最初から弁護士に依頼するのはやめたほうがいいでしょう。また、実際にモメた場合でも、必ずしも弁護士に依頼するのが効果的とは限りません。弁護士に依頼するのは、最終手段として慎重に考えたほうがいいでしょう。

一方でもし税金の計算に不安があれば、税理士には最初から関わってもらい、公平な立場でアドバイスをもらうのがいいでしょう。遺産分割をする際には、実際に相続税がどれくらいかかるのか、税金の計算なども必要になります。

親と同居していた長男などが窓口になって税理士に依頼するのが一般的ですが、税理士の反応が遅いと、他の相続人が「連絡を遅らせて、検討する時間をなくそうとしているのではないか」と疑心暗鬼になります。

自分が不利になってしまうのではないかと考えて、弁護士に相談してしまうこともあります。そこまでいってしまうと、モメなくていいケースでもモメてしまいます。

遺産分割の話し合いの「交渉」は弁護士にしかできない

一方でもめごとが発生してしまったときに、相続人の言い分を聞いて遺産分割の交渉ができるのは弁護士だけです。税理士や司法書士など他の専門家が行うと法律違反になります。また、ひとりの弁護士が複数の相続人の代理人になることもできません。

遺産分割の話し合いをしている間は、意見がぶつかりあったとしても「もめごと」ではありません。相続におけるもめごとは、相続人の中の誰かひとりが弁護士を雇った瞬間に始まります。

ひとりが弁護士に依頼すると、他の相続人も雇わざるをえなくなり、本当の意味でのもめごとになるのです。その後は弁護士同士の話し合いになります。そうなると家族間の仲はとてもギスギスし、遺産分割を終えても後味の悪さが残ります。ですから、相続人同士で分割協議ができる間は、本人たちで話し合いをして解決策を探ったほうがいいのです。

資産分割協議に「配偶者」は参加したほうがいい?

相続が発生したとき、相続人ではない配偶者に相談したほうがいいか、これは悩ましい問題です。結論としては、遺産分割協議に相続人の配偶者が加わるとモメやすくなりますから、配偶者は参加しないほうがいいでしょう。他の相続人が「姻族なのに介入してきて、自分に有利にしようとしているのではないか」と疑心暗鬼になってしまうので、慎重に考えたほうがいいのです。

ただし、農家などで長男夫婦が同居しており、親と長男夫婦の生活が一体化している場合には、配偶者にも相続が大きく関わるため、参加してもよいでしょう。

たとえば、自宅の土地の相続税評価額を一定面積まで8割減にできる小規模宅地等の特例があります。相続人が同居しているなど一定の条件を満たす場合に利用できますが、相続税の申告まで自宅に住み続けていることも条件となります。

この場合、同居している長男の配偶者の生活にも影響します。このように直接影響がある場合に限っては配偶者が参加してもかまいませんが、そうではない場合には、できるだけ参加しないほうがモメずにすみます。

なかには、「遺産分割の経過についても配偶者には一切話さないほうがいい」とアドバイスする専門家もいますが、そうは思いません。分割協議はきょうだいなどの相続人のみで極力行い、その内容は家に帰って配偶者に報告するのがいいでしょう。

家や土地を売却するならいつがベストか

相続した家や土地を売却する場合、相続後にすぐに売却するのと、相続からしばらく経過してから売却するのではどちらが有利かを考えてみましょう。

答えを先に紹介すると、相続後すぐに売却したほうが相続後に困りません。

一つ目の理由は、不動産を売却した際の売却益にかかる譲渡所得税の優遇があるからです。相続税の申告期限から3年以内に相続財産を売却した場合は、相続時に支払った相続税の金額を売却した資産の取得費に加算することができます。取得費が増えた分、譲渡所得税は軽減されます。

二つ目の理由は、後で嫌な思いをする可能性があるからです。相続税の支払いのために土地を手放した場合は、周囲から批判されることはないでしょう。しかし、相続から5年が経過した時点で売却したらどうでしょうか。「事業に失敗したんじゃないか」「先祖に申し訳ないだろう」「親の資産でぜいたくな暮らしをしたからではないか」──と無責任なことを言われ、嫌な思いをする可能性が高くなります。

ですから、いずれ売却することが決まっているなら、相続後すぐに売却したほうがいいのです。

天野 大輔
税理士

税理士法人レガシィ

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