TM NETWORK、The Street Sliders、さだまさし、松任谷由実……意外な組み合わせのトリビュートアルバム

『TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-』(5月15日リリース)が話題である。TM NETWORKのデビュー40周年を記念し、キャリアもジャンルも様々なアーティストが彼らの楽曲をカバーする作品で、CAPSULEやヒャダイン with DJ KOOといったクラブミュージックを取り入れたポップソングメイカーの同志に加え、くるりや満島ひかりといった予想もつかなかった参加アーティストもいる。また、代表曲「Get Wild」は盟友とも言えるB'zがカバーするなど歴史的にも重要な作品になるはずだ。

TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION- Digest Movie [Disc1]

キャリアが長ければ長いほど、トリビュート参加アーティストの世代やジャンルも多岐にわたり、トリビュートアルバムは独自の作品になり得る。本稿ではここ1年ほどでリリースされ、意外な参加アーティストが話題となった40周年以上のベテランアーティストのトリビュートアルバムを紹介していきたい。

2023年10月にリリースされたトリビュートアルバム『みんなのさだ』は、さだまさしのレコードデビュー50周年記念作品。ジャンルレスな後輩アーティストが名を連ねており、同郷の福山雅治やMISIA、フォーキーな楽曲を得意とするゆずや高橋優のほか、三浦大知や葉加瀬太郎といった多彩な面々が持ち味を存分に発揮してカバーしている。

さだが『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系/現『EIGHT-JAM』)で「気になる若手アーティスト」として名を挙げた折坂悠太は、「主人公」をカバー。原曲は穏やかなバラードだが、折坂はアコーディオンとパーカッションの音色が印象的なボサノバ調でこの曲を仕上げた。また木村カエラの「修二会」は激しいギターロックを展開する豪快なテイク。原曲にはない自由なアレンジが大きなインパクトを残す。

さらにMOROHAは「新訳『償い』」と題して、「償い」(1982年リリース)をモチーフとした完全新曲を書き下ろすという掟破りのアプローチを仕掛けた。原曲に刻まれた行き場のない悲しみと赦しというテーマが、コロナ禍を生きたバンドマンへと託され、その中でMOROHAらしさが炸裂した逸品だ。こうした幅広い解釈の“カバー”が生まれるのも、世代を超えた人気を誇るベテランアーティストならではだろう。

松任谷由実が2023年12月にリリースした『ユーミン乾杯!!~松任谷由実50周年記念コラボベストアルバム~』は一般的なトリビュートアルバムとは異なる。しかし、様々なアーティストが彼女の過去音源を再構築して“ユーミン”に捧げるという点では、正真正銘の“トリビュート(=贈り物)”作品だ。

「中央フリーウェイ(YOASOBI cheers 松任谷由実)」ではポップなサウンドに乗せてikuraがキュートに歌い上げる一方、くるりは「輪舞曲(ロンド)」のトラックをブラジル音楽成分を強めてドレスアップし、ボーカルとしては曲中に登場しない。このように様々な表現形のユーミン楽曲を楽しめるのだ。

岡村靖幸は「影になって」をよりダンサブルに仕立て、過去の松任谷とデュエットを繰り広げることで楽曲の湿った色気を引き出している。またRHYMESTERは「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」をサンプリングし、ラップパートを加えたリミックスで展開。別角度から楽曲の魅力に迫るような作品と言えるだろう。

The Street Slidersは22年半ぶりの再集結を記念して2023年3月にトリビュートとオリジナル音源の2枚組から成る作品『On The Street Again -Tribute & Origin-』をリリース。1980年の結成以降、多方面に影響を与えてきたバンドゆえ、本作には同年代から若い世代まで様々なミュージシャンが名を連ねた。

The Birthday、ザ・クロマニヨンズ 、エレファントカシマシといったトリビュートアルバムへの参加自体が貴重なバンドたちは各々の魂をぶつけるようにスライダーズの楽曲と向き合い、SUPER BEAVER、GEZAN、YONCE(Suchmos)といった世代の離れたミュージシャンたちもそれぞれの手法で楽曲を解釈。80年代から現代まで進化し続けるロックの多様さを実感できる作品だ。

ALIはスカビートで「EASY ACTION」をカバー。ホーンセクションや英語詞への書き換えなど、非常に挑戦的なアレンジを施した。また斉藤和義は「ありったけのコイン」を弾き語りでカバー。原曲の美しいメロディを抽出したシンプルな味わいだ。リスペクトと個性を両立させた名カバー揃いで、楽曲本来の味わいを損なわない本作はスライダーズを知らない人々への訴求力も抜群だ。

最後は少し特殊な作品。年末の恒例特番『クイズ☆正解は一年後』(TBS系)の企画で生まれたトリビュートアルバム『ザ・ブルーハーツ クイズ☆正解は一年後 トリビュート』である。本作は12組のお笑い芸人がTHE BLUE HEARTSの楽曲をカバーした作品で、2022年に首都圏の高速道路のサービスエリアやパーキングエリアで内容の詳細を伏せて密かにCDが流通していたもの。現在は配信にて聴くことができる。

田村淳がメインボーカル、田村亮はコーラスに徹するという2人の“関係性”を如実に表したロンドンブーツ1号2号の「TRAIN-TRAIN」や、パンクロック映えするしゃがれ声を聴かせるくっきー!(野生爆弾)の「終わらない歌」など、歌っている芸人のキャラクターと楽曲が絶妙にリンクしている。ミリオンヒットシンガーでもある有吉弘行による「青空」の穏やかな歌声も聴きごたえ十分だ。楽曲本来の魅力と、豊かなキャラクター性を備えた歌声によってトリビュートアルバムが成立する好例だろう

個性的なトリビュートアルバムが次々とリリースされる昨今。どの作品にも共通しているのは、名曲を歌い継ぐ意義深さだ。時代を超え、現代のシーンとも呼応する。名曲たちの普遍的な魅力はいつまでも色褪せないのだ。

(文=月の人)

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