「1ドル=156円」が正念場?…3度目の為替介入のタイミングと、浮上する「米ドル高・円安」の限界感【国際金融アナリストの見解】

(※画像はイメージです/PIXTA)

円安阻止介入と見られる動きから米ドル急落となった前週から一転、先週は1ドル=155円台まで米ドル高・円安へ戻す展開に。「今週も引き続き、3度目の介入をにらむ展開となりそうだが、別の懸念もある」と、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は予想します。今週の相場の展開予測を詳しくみていきましょう。

5月14日~5月20日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉
・介入と見られる動きを契機に米ドル急落となった前週から一転、先週は「3度目の介入はできないか」との見方から、155円台まで米ドル高・円安へ戻す展開となった。
・ただ、先週の米ドル/円上昇は、金利差からかい離が目立った。また米ドル買い・円売りも「行き過ぎ」懸念がある。
・今週も3度目の介入をにらむ展開となりそうだが、米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」への懸念もあり、「米ドル高・円安」の限界感が徐々に浮上する可能性もありそう。今週の米ドル/円は、153~158円中心のレンジで予想。

先週の振り返り=前週から一転、ほぼ一本調子の米ドル高・円安

米ドル/円は、日本のゴールデン・ウィーク中に、日本の通貨当局による円安阻止介入が再開されたと見られ、一時151円台まで急落しましたが、先週はほぼ一本調子で155円を超えるまで米ドル高・円安へ戻す展開となりました(図表1参照)。きっかけは、米イエレン財務長官の発言により、日本がこれ以上介入ができなくなるのではないかとの見方が広がったことが大きかったようです。

[図表1]米ドル/円の日足チャート(2024年2月~) 出所:マネックストレーダーFX

先週にかけての「米ドル高・円安」は、日米金利差からはかい離の目立つものでした(図表2参照)。米金利は低下する場面が多かったことから、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」も、むしろ縮小傾向となりました。ということは、金利差の変化とは別に、「日本の介入ができなくなったかもしれない」といった理由だけで、「米ドル買い・円売り」が続いた可能性があったと考えられます。

[図表2]米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

また先週、米ドル買い・円売りが再燃したもう1つの理由として、多少の金利差の変化は気にならないほどの日米金利差の「米ドル優位・円劣位」を受け、圧倒的に有利な円売りが続いた、という側面もあるでしょう。ただし、その意味での米ドル買い・円売りも、例えばCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のデータでは、すでに最近にかけて過去最高規模に拡大しました(図表3参照)。

[図表3]CFTC統計の投機筋の円ポジションと日米政策金利差(2005年~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円が151円台まで急落し、投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)も、この間のピーク、4月23日の17.9万枚から、先週5月7日には13.4万枚まで縮小しました(図表4参照)。ただ、すでに見てきたように、先週は週末にかけて、米ドル/円は156円近くまで上昇したことから、円売り越しはもっと拡大した可能性があります。そもそも13万枚以上は、過去の実績からすると、米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が依然として強いと言えます。

[図表4]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上から、金利差からかい離した米ドル買い・円売り、しかもそれは「行き過ぎ」懸念が強い可能性もあると考えると、日本の介入が再度あるかどうかは別として、その継続性にはおのずと限界があるのではないでしょうか。

今週の注目点=注目度の高い米経済指標発表が多い

今週は、注目度の高い米経済指標の発表が多く予定されています。なかでも注目を集めそうなのは、PPI(生産者物価指数)、CPI(消費者物価指数)といったインフレ指標、そして小売売上高など。おもな予想は、以下の通りとなっています。

〈14日〉4月PPI総合=前回2.1%、予想2.1%
同コア=前回2.4%、予想2.3%

〈15日〉4月小売売上高=前回0.7%、予想0.3%
4月CPI総合=前回3.5%、予想3.4%
同コア=前回3.8%、予想3.6%
5月NY連銀製造業景気指数=前回-14.3、予想-10.0

今のところ、インフレ指標も前回並みや前回より弱い数字が予想されています。このような予想を大きく裏切り、インフレ懸念が再燃するといったことにならない限り、米金利の上昇は限られる可能性が高いでしょう。すなわち、米ドル/円の上昇にもおのずと限度がありそうです。

テクニカルには、米ドル/円が156円を大きく越えられるかが注目されます。米ドル/円は、5月1日の2度目の介入があったと見られた局面で、急落後の反発は156円を大きく越えられないところで終わりました。また、先週の米ドル反発も、156円手前までにとどまりました。以上から、米金利の動向をにらみながら、再び156円を大きく越えてくるようなら、3度目の介入をめぐる思惑から、荒れた展開になる可能性があります。

3度目の介入があった場合はもちろん、介入がなくても、米ドルの上値が重くなるようなら、大量の米ドル買い・円売りポジションの損益確定売りから、米ドル下落リスクが拡大することも考えられるでしょう。

以上を踏まえ、今週の米ドル/円は153~158円中心のレンジで、3度目の介入をにらみながら、徐々に米ドルの上値の限界を確認する、といった展開を想定します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

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