60代で28本の永久歯のうち“平均4.2本”を失う…歯の3大治療法「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」の自由診療、〈治療費が高い〉以外の意外なデメリットとは【歯科医師が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

歯を失った場合の3大治療にあげられる「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」。保険診療ではなく、自由診療を選ぶと治療費が嵩みますが、よりよい治療を受けられると多くの方が思われているかもしれません。しかし、自由診療にも意外な懸念点があって……。本記事では医療法人社団アスクラピア統括院長の永田浩司氏が、歯の3大治療法における保険診療と自由診療のそれぞれのメリット・デメリットを解説します。

60代のうちに28本の永久歯のうち、平均3本を失う

永久歯は親知らず4本を除くと28本です。

あるデータによると40代までの歯の平均本数は27.8本ですが、50代前半になると26.4本になり、50代から歯が減り始めていることがわかります。さらに60代後半では23.8本まで減ってしまいます。

50代、60代が歯を失う主な原因は歯周病です。虫歯も原因の1つではありますが、直接的な原因とは言い切れない事情があります。日本では保険診療で気軽に治療を受けられるため、本来は残すことが難しい歯に虫歯治療をくり返してきた結果、歯周病が引き起こされ、抜歯を選ばざるをえないというケースが少なくないからです。

失った歯を補うための治療で考えるべきこと

歯を失ったとき、人工的に歯を補うために行うのが補綴(ほてつ)治療です。咬合(噛み合わせ)、発音、審美性の回復が目的ですが、これに加えて残っている組織を保存的に治療する「残存組織の温存」が非常に重要となります。たとえば歯を削らない、両隣の歯を傷めないといったことです。

補綴治療の主な選択肢として、部分入れ歯、ブリッジ、インプラントの3つがあります。それぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、自分に合った方法を選択しましょう。

・部分入れ歯
歯を失った部分に人工の歯と歯茎を入れ、両隣の歯にバネで止める。取り外し式。

・ブリッジ
失った歯の両隣の歯を削り、そこに橋渡しするように人工の歯を被せる。固定式。

・インプラント
歯を失った部分の骨に外科手術で人工歯根を埋め込み、新しい歯をつくる。固定式。

部分入れ歯…「保険診療」と「自由診療」との違い

保険診療の部分入れ歯がだんだんと緩くなるワケ

部分入れ歯のメリットは、保険診療であれば1万円台で安価に作れることでしょう。しかし、先述した「残存組織の温存」という観点からみると、歯を削らなくてよいものの、残った歯や歯茎に負担がかかる点がデメリットといえます。つまり、経済的負担は少ないが、自らの体のコスト(バイオロジカルコスト)がかかっているということです。

「以前はぴったり合っていたはずの入れ歯が緩くなった」とおっしゃる患者さんは多いですが、実はその原因のほとんどは入れ歯によって周囲の組織がダメージを受けたことにあります。また、噛む力はもとの歯の10%程度しか回復しません。

歯周病になりやすい!? 自由診療の部分入れ歯のデメリット

保険診療の部分入れ歯は、歯や歯茎の部分にプラスチック、バネに金属を使うことが定められています。しかし、金属のバネが見えてしまう審美性の問題があり、この20年ぐらいでバネにプラスチックを使った部分入れ歯が作られるようになりました。それが自由診療で作れるノンメタルクラスプデンチャーです。保険診療では金属だった部分が歯茎のような色になるので見た目の違和感がなく、粘膜にもなじみやすいのがメリットです。

ところが残った歯や歯茎を維持するための「よい入れ歯の3要素」という視点からみると、デメリットが見えてきます。その3つとは「汚れない、動かない、壊れない」。保険診療の部分入れ歯は残っている歯にバネを引っ掛けて使っていたのに対して、ノンメタルクラスプデンチャーは歯と歯茎を覆ってしまうため、唾液が溜まりやすく、歯肉炎、歯周炎、根面う蝕(歯の根元にできる虫歯)などのリスクが高まります。また、金属のバネに比べて入れ歯が揺れやすい、プラスチックのため3〜5年で作り直しが必要になるといった点も保険診療の部分入れ歯との違いとなります。

こうしたデメリットを解消できる自由診療の入れ歯にアタッチメント、コーヌステレスコープデンチャーなどがあります。しかし非常に高価なため、インプラントの普及によって選択されることは少なくなっているのが現状です。

自由診療で作る部分入れ歯は保険診療よりも満足度が高いと思われがちですが、筆者個人としては高い技術を備えた医療施設で作ったものであれば、保険診療でも十分に満足できる入れ歯が手に入ると考えています。

ブリッジ…「保険診療」と「自由診療」との違い

ブリッジは部分入れ歯のように取り外しが必要なく、噛む力ももとの歯の70%程度まで回復できます。さらに保険診療で1本1万5,000円〜3万円程度と経済的な負担が少ないことなどがメリットです。一方、両隣の歯を削らなければいけないことは非常に大きなデメリットといえます。

保険診療では金銀パラジウム合金とよばれる材料を使用しますが、前歯が銀歯だと審美性が低いため、保険診療でも前歯から数えて3本目までの歯にはレジンという白色の素材を使用できることになっています。

このように治療する歯の位置によって制約があることから、審美性が高く、汚れがつきにくく、割れにくいジルコニアが2000年ごろから自由診療で使われるようになりました。ジルコニアはセラミックの仲間で材料費は安価ですが、加工できる技工所が少ないため、高価になってしまっている現状があります。

ジルコニア使用ゆえの自由診療における懸念点

ただ、先述したようにブリッジは両隣の歯を削る必要がありますが、保険診療で金属使用の場合は0.5ミリなのに対して、自由診療でジルコニア使用の場合は1.5ミリ削る必要があります。歯が見えている部分を1cmとしたら、全体の15%も削らなければいけない点を考えると、ジルコニアを選択することが常に第一選択とは限らないというのが筆者の考えです。

高価だが、噛む力をもとの歯の80%程度まで回復できるインプラント

インプラントについては自由診療のみのため、経済的な負担の大きさが賛否両論ある理由の1つでしょう。費用は1本40〜50万円が一般的で、クリニックによっては100万円を超えるところもあります。また、外科手術が必要であり、期間も3ヵ月以上かかるなど、入れ歯、ブリッジと比較すると、患者さんの負担は非常に大きいといえます。

一方でメリットは周囲の歯と違和感のない審美性に加えて、噛む力ももとの歯の80%程度まで回復することです。そして、まわりの組織を傷つけず、両隣の歯や歯茎にもやさしいため、「残存組織の温存」という観点から10年後、20年後のことまで考えると、入れ歯、ブリッジにはない大きなメリットがあるといえます。

また、部分入れ歯やブリッジと比較すると、ご自身の歯とよく似た形態をしているため、日常の手入れもラクです。ただし、歯茎は傷む可能性があるので、汚れのコントロールやメンテナンスを怠ると、インプラント周囲炎という歯周病に相当する病気になるリスクが高くなります。装着から5年経過すると発症率が高くなり、インプラント治療よりも費用がかかってしまいます。

インプラント治療を行えない人とは?

そのほかの注意点として、重度の糖尿病、骨粗相症の薬を長く飲まれている方、放射線治療を受けた方などは治療ができないことがあります。禁煙してから半年経っていない場合も経過が悪くなるため、治療をお断りすることがあります。

ご自身の歯が目に見えて少なくなってくる60代。入れ歯、ブリッジ、インプラント、そして保険診療、自由診療どれを選ぶにしても、作った後の専門的なチェックとサポートが、残った歯を守ることにつながります。決して有名な先生が手がけたもの、高価なものならよいわけではなく、作ったあともしっかりと伴走してもらえる先生のもとで作ることがとても大切です。

永田 浩司
医療法人社団アスクラピア 統括院長

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