ゲーム好きの少年・宇野昌磨が氷の虜になるまで 重ねた21年、最後は4位でも「やり切った顔」に

引退会見をした宇野昌磨【写真:矢口亨】

都内で晴れ晴れとした引退会見

フィギュアスケートの宇野昌磨(トヨタ自動車)が14日、都内で競技者としての引退会見を行った。男子シングルで平昌五輪銀、北京五輪銅と2大会連続メダルを獲得。世界選手権も連覇するなど、長らく日本男子を牽引してきた26歳。涙はなく、終始笑顔の1時間を過ごした。時折ジョークも交えつつ、「前向きな気持ち。全然悲しい気持ちはない」などと自分の言葉で、これまでの競技生活と今後について語った。(文:THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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涙のイメージもある節目の日。宇野が臨んだ約1時間は、泣き顔どころか笑顔にあふれた、実に晴れ晴れとした引退会見だった。

「まさか僕がこういう選手になれると思ってなかったですし、人前でこうやって喋れる人間になれると思っていなかった。フィギュアスケートと出会えて感謝とともに驚きのことばかり。フィギュアスケートとの出会いは本当に感慨深いと思います」

競技者としての引退に「未練はない」と言い切る。言葉に迷いはない。最後のリンクでも、印象的な笑顔を作っていた。

3連覇が懸かっていた3月の世界選手権。ショートプログラム(SP)1位ながら、フリーでは転倒もあり総合4位。快挙を逃しても、カナダ・モントリオールの観客からの喝采に笑顔で応えた。

会場のスクリーンには、世界選手権フリーを終えた直後の自分の姿が映し出されていた。振り向き、眺めた宇野は「凄く満足そうな、やり切った顔」と感慨深げ。昨年12月の全日本選手権で優勝後、ステファン・ランビエールコーチに引退の意志を告げて迎えた最後の舞台だった。望んだ結果は出なくても、納得感があった。

「結果が一番大事というのもスポーツ選手としてあるかもしれないですけど、結果が振るわなかった時もこれだけの笑顔。この写真だけ見たらすごく幸せそう。それ(結果)だけじゃないんだよというところも見えた。

この表情に繋がったのは(練習した)3か月の全て。昔は練習した分だけ、試合でできなかった時に『悔しい』とか、落ち込んだりしていた。21年間フィギュアスケートをやってきて、毎日の積み重ねが、笑顔で終えられる選手になれたんだなと。小さい頃、僕がこうなりたいなって思っていたスケーターに一歩近づけたと思う」

宇野の会見では終始笑顔が絶えなかった【写真:矢口亨】

最後まで宇野らしい会見、自分自身へ「彼はよくやったなと思う」

この日の笑顔に辿りつくまでには苦悩もあった。共に日本フィギュア界を引っ張ってきた羽生結弦、しのぎを削ってきたネイサン・チェンが競技会から先に去った。「凄く寂しい気持ちと、取り残された気持ちがあった」。2年前から頭に引退がちらつき始めた。

落ち込んでも、悩んでも、スケート靴を履けば無心で打ち込めた。原動力は自分でも「正直、分からないです」。かつては大好きなゲームのためにスケートを頑張っていた少年が、いつしか競技の魅力に取りつかれていた。

「フィギュアスケートだけを全力でやってきた。もちろんゲームも全力でやってきたんですけど(笑)。新しい道というのをあまり考えていなくて、いろんなところに視野を広げて、いろんな経験をしていきたいと思っています」

真面目に今後を語った後「競技から離れた分、ゲームにも費やせる時間が増えるかな」とジョークも忘れないお茶目な26歳。昨年9月のインタビューに応じる自身の姿を見て「引退して間もないですけど、彼はよくやったなと僕は思います」とも笑顔交じりに話した。

今後はプロ転向を見据える。「前向きな気持ちで、まだまだスケートを続けていく意味でも全然悲しい気持ちはない。(プロスケーターは)自分の生き方にマッチしていると思う。すごく楽しみ」。退席時は何度もぺこぺこと頭を下げ、お辞儀を繰り返すようにして扉の向こうへ。最後まで宇野らしい引退会見だった。

THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi

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