業績絶好調のカクヤス、低価格競争に巻き込まれない独自の戦略とは?

酒類配送サービスのカクヤスグループ(東京都/前垣内洋行社長)がコロナ禍で落ち込んだ業績を急回復させている。主力の飲食店向けだけでなく、家庭向けも好調で、間もなく発表される2024年3月期決算はコロナ前を上回る過去最高の売上・利益を達成する見通しだ。今後は店舗間の密度を高めるなどの施策を打ち、配送効率を高めて収益力を拡大したい考えだ。

間もなく2024年3月期の通期決算が発表されるカクヤスグループ

2023年度決算は過去最高業績の見通し!

同社はピンクの看板で東京23区を中心に横浜や大阪などにドミナント展開(地域集中出店)するカクヤス(東京都/佐藤順一社長)を中核に、メーカーや一次卸商社から酒類や飲料、食品を仕入れ、飲食店や一般家庭に配送・販売している。

ユニークなのは、顧客に届ける物流を基本的には自社スタッフで賄っている点だ。「なんでも酒やカクヤス」(以下「カクヤス」)を中心に、主に家庭向けに配達する店舗を23年12月末時点で174店展開しているほか、飲食店向けの大型配送センターを15カ所、小型出荷倉庫を60カ所に構えている。

新型コロナウイルスの感染拡大で外食業が大きな影響を受けたこともあり、21年3月期と22年3月期は売上高が落ち込み赤字に転落したが、その後は業績が急回復。5月15日に発表される24年3月期通期業績では売上高、各段階利益ともに過去最高となる見通しだ。

23年4月~12月の9カ月間の連結売上高は985億9000万円(対前年同期比16.4%増)と前年の伸びをさらに上回った。飲食店向けの売上高は約7割を占め、前年同期に比べ22.2%増、コロナ前の18年4~12と比べても14.5%増と好調。約3割を占める家庭向けは同5.4%増、コロナ前比では23.4%増となった。

即配の優位性生かしシェア急拡大

カクヤスグループ担当者によれば、BtoB向けの酒類卸では、コロナ禍で飲食店が苦境に陥った際に、競合他社は配送人員を大幅に削減したという。その結果、コロナ期が明けた頃に採用活動が進まず、人員不足から従来は休日に配達していたのを一部休止したり、1回当たりの最低配送単価を引き上げるように要請するなど、サービスレベルが低下した。

一方、カクヤスグループではコロナ禍でも配送人員を削減せず、一部の人員を家庭向けの部隊に振り向けることなどの戦略をとったことで、コロナ期が明け飲食店の需要が戻ってきた際に、従来通りのサービスを維持・継続できた。この結果、他社の顧客が休日配達されない分をカクヤスに依頼したり、取引を丸ごと乗り換えたりする例が増えているという。

食品を中心とした物価高で消費者には節約志向が強まっているが、同社の家庭向け売上高は客数こそ前年の巣ごもり需要の反動などで前年維持にとどまったが、客単価が伸び、売上を押し上げた。

「家庭向け売上高のうち約6割が宅配でそれが当社の強みだ。価格では勝負しておらず、クイックデリバリーの優位性を武器に、いわば時間を買ってもらっている。その結果、競合他社の価格にはあまり左右されずに事業ができている」とカクヤスグループ経営戦略部の大谷実課長は話す。

23年4月~12月の家庭向け売上高のうち宅配は対前年同期比8.0%増、コロナ前の19年3月期比は36.3%増、店頭は同様に同2.2%増、同9.9%増に伸長している。

店舗間の距離を短縮する「密度向上型」の出店を強化

カクヤスグループでは出店戦略において「密度向上型」「エリア拡大型」と2つの戦略をとっている。このうち、店舗の約9割を占める首都圏、東京23区では今後。店舗と店舗の距離を短くして商圏密度を高める「密度向上型」の出店戦略を強化する。

現在、同社では1店当たり半径約1.2㎞圏内の顧客に酒を中心とした商品を届けているが、各店の配達能力は1時間当たり約4件。商圏が重ならないようにして出店地域を広げる「エリア拡大型」の戦略を取ると、5店で合計20件の配達が可能になる。

一方、店舗間の距離を短くし、商圏が一部重なっても空白エリアができないように店を設ける「密度向上型」の出店をすれば、商圏は1.2㎞から0.8㎞に短縮され、配送効率が高まるため、各店の配達能力は1時間当たり4件から5件に増える。5店あれば合計25件の配達が可能になるというわけだ。

配達距離が短くなれば、通常は軽バンや電動バイクを使用している配達もリヤカーや台車などを利用することで、女性やシニア層といった運転免許を持たない人材を採用しやすくなる。従来は注文を受けても断っていた空白エリアのお客も取り込める。

一方、東京23区以外や神奈川県、埼玉県ではまずは「エリア拡大型」で順次、出店地域を広げていく。現在11店ある大阪府も宅配需要が伸びており、都市部に出店を進める。20年に地元有力業務用酒類卸2社(サンノー、ダンガミ)を相次いで買収し、23年10月に吸収合併した福岡県と長崎県の事業は時間をかけて事業を拡大する計画だ。

コロナ禍で不採算店を一部閉鎖したが、業績の回復で収益が好転していることから、今後は店舗を増やす。なお、郊外型店「KYリカー」は23年3月に全店「カクヤス」に店名を統一している。

PB強化、酒類以外の商品の配送も!

商品戦略では自前の顧客接点を生かして酒類以外の多頻度配達商材を拡大する。

カクヤスグループでは23年から「お酒だけじゃない! カクヤス」キャンペーンを開始。米などの食料品、日用品、ペット用品、冷凍食品の即日配送を首都圏のほぼ全域で実施している。24年4月からは「王子店」「広尾店」など首都圏15店で、牛乳・ヨーグルトなどの乳製品の販売も始め、冷蔵での配送を加えた。

酒類以外を配送の乗り出すねらいは、朝10時~夜10時の営業時間内における受注の谷間となる時間を埋め、時間帯別の人時効率を平準化することにある。「酒とつまみをセットで購入するなど買い上げ点数を高めることにもつながっている」と大河原学部長は話す。

プライベートブランド(PB)も強化する。PBでは23年11月に発売した国産ウイスキーの「飛鳥山ピュアモルト」などヒット商品も登場している。商品開発は水やウーロン茶などの飲料は価格対応、国産ウイスキーなど原酒が枯渇している商品は商品軸で選ぶという具合に、価格対応軸と商品軸の両軸で進めていく考えだ。

カクヤスグループが展開するPB「Kprice(ケープライス)」

さらなる利便性・配送効率の向上へ

今後の課題は、営業利益率の引き上げだ。24年3月期の通期業績の見通しから算出した売上高営業利益率は2.2%と、ほかの小売業に比べるとやや見劣りする。

この主因は、飲食的向けの売上高が多くを占めることにある。同社は店舗や小型出荷倉庫などエリア内に拠点を設けて、そこに配送人員を配置。受注した商品を自社スタッフによる物流網に乗せて配送するというビジネスモデルであるため、販管費(販売費および一般管理費)のうち、売上高や販売数量にかかわらず発生する固定費が多くのウエートを占めている。

そこで人員の確保や設備の整備を通じて、現在はお客の要求に十分に応えられていない時間帯の配達枠を新たに設定することで、サービスレベルをさらに向上させ、売上を高めるとともに、利便性の向上によって非価格競争力を強める。また前述のPBの強化も合わせて、売上総利益率を引き上げ、営業利益率の向上に結び付けたい考えだ。

カクヤスグループでは1店当たり半径約1.2㎞圏内の顧客に商品を配送している

配送効率もさらに高める。「飲食店や家庭までの距離を短くすることが効率化の要だ」(大谷課長)として、繁華街を中心に小型出荷倉庫を増設している。これは主に個人飲食店向けだが、家庭にも一部宅配する。21年3月末に32カ所だった小型出荷倉庫は昨年12月末には60カ所に倍増した。今年も浜松町、神戸、東新宿、下北沢に新設した。

家庭向け配送では、配送員が持つハンディターミナルの補助システムとして同社オリジナルの「配達割り振りツール」を23年11月から試験的に導入した。従来は「毎日配達するメンバーの職人芸」だった配達ルートの設定を一方通行なども識別して最適化し、指示してくれる。今後は建物構造や建物への入り方なども考慮される機能を加える。

そのほか自社アプリやEC(電子商取引)のUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)の改善も検討しているという。

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