【コラム・天風録】沖縄の至宝戻る

 奪われた美術品に迫る潜入捜査。映画のようなことが実際あるらしい。1990年代から米連邦捜査局の専門チームを育てたロバート・ウィットマン氏の回想録「FBI美術捜査官」を読んだ。レンブラントやピカソなどの盗難品を追った事例をつづる▲身分を隠して取引に接近し、取り戻す。難しい捜査を支えたのは美術への深い敬意という。「歴史の一片、過去からのメッセージを守る」。彼の使命感は今も後輩に受け継がれていよう▲そのFBIが、沖縄戦で行方知れずになった文化財の数々を、沖縄県に返還した。歴代琉球国王の肖像画「御後絵(おごえ)」4点を含む。米東部の民家の屋根裏で見つけたという。米側の誰かがどさくさに奪ったと考えられる▲御後絵は至宝である。戦前の写真を基にした色鮮やかな復元模写を東京で見たことがある。県の求めでFBIは盗難美術ファイルに登録していたが、本物があるとは。捜査官も琉球文化の重みを忘れなかったのだろう▲きょう本土復帰52年。基地問題に関する限り、米国も日本政府も戦争の記憶が癒えない人々に敬意を払ってきたとは思えない。戻ってきた絵の数奇な運命を、沖縄の長い苦難の歴史と重ねたくなる。

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