「二次反応」という名の消えないノイズで頭が効率的に回らない【「不登校」「ひきこもり」を考える】

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【「不登校」「ひきこもり」を考える】#16

かなり以前、某雑誌の「なぜ人は自死に及んではいけないのか?」という特集で、何十人もの権威ある有識者がそれぞれに自説を載せていました。ただ、その大半がどれも「生きることの正しさ」「自死の罪深さ」といった頭でっかちで小難しい説教くさいものばかりで、自死を思い悩む方々の心に到底寄り添っているとは思えず、愕然としたことがありました。逆に高尚な有識者なんかよりも、草の根で電話相談などで思い悩む方の気持ちをひたすら傾聴・共感されて寄り添われている方々の方が、よっぽど本質的で救いになると思ったりもしたものです。

これらの反応も、ひきこもりや不登校に限らず、すべて一次感情不全に端を発した回避的な二次感情を含む、二次的な思考や行動、身体反応といった「二次的反応」の行き着く先として説明されます。

また、二次的反応という消えないノイズが膨らみ過ぎると、ワーキングメモリと呼ばれる限りある知的作業に重要な脳機能においても、その無駄に膨れ上がったノイズの情報処理に脳は労力を奪われ、キャパオーバーに陥ります。そうなると、必要なことに注力できないという優先順位の狂いが生じ、集中力が落ちて余計なことばかり考えて頭が効率的に回りません。その状態が続くと非常に疲弊もするため、ここぞという時に踏ん張りも効かなくなります。

実際、本音の気持ちを押し殺しているだけで、数学の難問ほど解答力が落ちケアレスミスが増えます。その一方で、本音の一次感情を書き記す「感情日記」(私の造語ですが)に20~30分かけて3回書くだけで、ワーキングメモリが改善し、数学の得点が上がり、米国では医学部や法科大学院の入試成績をも上げうるといった研究すら存在するほどなのです。

また、感情不全は正常の体の動きもバグを起こすため、パニック発作、過敏性腸症候群、不眠による昼夜逆転などの自律神経失調も生じさせます。今流行のマインドフルネスやヨガといった瞑想も、一次感情を感じれば苦悩が消退していき、突き詰めれば“ゾーン状態”が得られるという点では、じつは目指すところは一緒で、うまくいけばまったく同じ効果が期待されます。

■親による傾聴・共感に勝るものはない

ただ、これらのセルフで一次感情を感じるスキルは、ある程度一次感情を健康に感じる力があることが前提です。そのため、逆に不登校やひきこもり、精神疾患に罹患しているなどの状態では、一次感情にロックが強くかかっている感情不全を生じていますので、深呼吸やリラクセーション効果は得られても、それ以上の段階に進むとかえって雑念が増えて苦しくなったり、眠気ばかり襲ってきて何をしているのかわからなくなって挫折される方も少なくありません。本人が自らやりたいというのならばぜひ試されるとよいと思いますが、逆に感情不全を生じさせている親御さんが、「お前は気持ちが弱いでの瞑想でもやって心を整えた方がいい」などと一方的に押し付けるのは筋違いで、実際に逆効果となる危険性もあります。

結局、感情不全をこじらせた人ほど、そんな状況を一番救える方法は、人による傾聴・共感であり、特に親のそれに勝るものはないのです。どんな年齢の子どもであっても、親が子どもたちの言葉に耳を傾けて話を聞き、一次感情にただ共感をしているだけで、子どもたちのさび付いた一次感情を再活性させるべく感じさせていくことは、時間はかかりますが可能なのです。

その結果、病的に膨らんだ思考や価値観、感情、問題行動や心身の不調を含む二次的反応がその存在意義を失えれば、それらは勝手に消え、自然と前向きな気持がよみがえり、「自分らしさを大切にしたい」「そんな生き方を目指すには何をすればよいのか」と、現実と未来に目がいくようになっていくのです。(つづく)

▽最上悠(もがみ・ゆう) 精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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