夕飯はスーパーの半額弁当、洗濯物は高く積み上げられ…年収700万円の55歳・会社員夫、別れを切り出すも専業主婦妻は「断固拒否」→「妥当な離婚の値段」に衝撃【行政書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

もしいま、自分が離婚をする場合、配偶者へいくら支払うことになるでしょうか。「離婚の値段」は原因や婚姻期間などによってさまざま変わりますが、熟年離婚が増えている昨今、支払う金額は想像を超えるものになるケースが少なくないようで……。本記事では江口さん(仮名)の事例とともに、定年を前にした会社員男性における「離婚の値段」について、行政書士の露木幸彦氏が解説します。

「結婚は忍耐」ともいわれるが…

新型コロナウイルスの流行が一因となり、結婚するカップルが減り続けています。統計(厚生労働省の人口動態統計)によると、コロナ後の結婚数は令和2年が52万組、令和3年が50万組、令和4年が50万組と毎年、減少しています。コロナ前(令和元年は59万組)と比較して2割も少なくなりました。

一方、離婚はどうでしょうか? 令和2年から4年まで約18万組で推移しており、コロナ前(令和元年は20万組)と比べ、結婚数ほどは減っていません。

「結婚は忍耐」という言葉がありますが、誰にでも我慢の限界はあります。株式会社アールピーネットの調べによると、家に帰りたくないときが「よくある」「たまにある」という回答は5割を超えており、その理由の1位は「家族と不和、喧嘩中」です。

離婚を考える「年齢」

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、最近、離婚の相談にやってくるのは50代半ばの男性が多いです。なぜなら、60歳の定年を間近に控え、今後の人生をどうすべきかを考えるタイミングだからでしょう。

たとえば、このまま妻と添い遂げるか、妻と別れて1人で自由に暮らすか、それとも新しい彼女を見つけるか……。役職定年で仕事量が減り、時間に余裕があるのであれば、なおさら自問自答する回数は増えますが、今回の相談者・江口孝弘さん(仮名/55歳)もそんな1人です。結婚25年目で17歳の娘さんがいる家庭ですが、なにがあったのでしょうか?

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また年収や財産の内容、離婚の経緯などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

家庭内いじめにあっていた夫、定年を前に離婚を決断

<家族構成と登場人物の属性(すべて仮名、年齢は現在)>

夫:江口孝弘(仮名/55歳)、会社員(年収700万円) ※今回の相談者

預貯金 800万円

退職金 700万円(予定)

妻:江口清美(仮名/49歳)、専業主婦

財産不明

子:江口璃々花(仮名/17歳)、高校生

孝弘さんは「このまま結婚を続けても、なにかいいことはあるのだろうか」とため息をつきます。

たとえば、妻が用意する夕飯はスーパーの半額弁当だけ。そして孝弘さんの服だけ洗濯せずに積まれたままだったり、孝弘さんの書斎だけ掃除機をかけずにそのままだったり……。家庭内で「いじめ」を受けていたのですが、それだけではありません。

夫婦のあいだにほとんど会話はなく、どうしても伝えたいことがあれば、娘さんを通すようにしています。1つ屋根の下で暮らしているのに、なるべくすれ違わないよう、時間帯をずらして外出したり、帰宅したりする「家庭内別居」の状態。もちろん、性生活はまったくないので孝弘さんは「離婚できれば、それが一番です」と言います。

しかし、孝弘さんが「別れて欲しい」と切り出しても、妻は「わかりました」と2つ返事では応じませんでした。妻はどのような人物なのでしょうか?

「(娘さんに)養ってもらう」というのが口癖。そのため、娘さんを食いっぱぐれのない看護師にさせるべく、看護学校を受験させるつもりです。妻は自分で努力せず、ひとを頼ろうとする他力本願なタイプです。

男性はどんな場合でもタダで離婚できるわけではありませんが、妻が離婚を拒んでいる場合は、相応の代償を払わなければなりません。具体的には子どもの養育費、慰謝料、財産の分与、そして忘れてはならないのは離婚するまでの妻の生活費(婚姻費用)です。離婚をお金で買うのだから手持ちの財産が目減りするのは避けられません。

離婚の値段

相応な養育費

第一に養育費ですが、家庭裁判所が公表している算定表に夫、妻の年収を当てはめて計算するのが一般的です。たとえば、妻がパートタイマーの場合、夫の年収が900万円、妻が100万円、子どもが17歳なら養育費は毎月12万円が妥当な金額です。一方、夫婦が共働きの場合、夫の年収が500万円、妻が400万円、子どもが12歳と14歳なら、養育費は子ども2人で毎月4万円です。

孝弘さんの場合(年収700万円)、妻は専業主婦なので上記の算定表に照らすと毎月11万円が妥当な金額です。264万円(毎月11万円×24ヵ月)とは別に看護学校の学費(入学金、授業料、施設利用料など)として300万円を支払うことを約束しました。

慰謝料と財産分与

第二に慰謝料と財産分与ですが、司法統計年報によると全体の48%は慰謝料や財産分与の約束を取り交わす模様。具体的な金額ですが、結婚5~10年なら304万円、10~15年なら438万円、15~20年なら534万円、20年以上なら699万円が平均です。

孝弘さんの場合、預貯金は800万円しかありませんが、妻が「500万円払わないと別れてあげない!」と態度を硬化させたので、妻の言い値の慰謝料を支払うしかありませんでした。

結婚期間中に築いた財産は法律上、夫婦の共有です(民法762条)。離婚時は、財産の合計を夫5割、妻5割でわけ合うのが原則です(民法768条)。

孝弘さんの場合は、500万円という高額な慰謝料の支払いを約束しており、手元に300万円しか残っておらず、これは娘さんの学費に充当します。そこで5年後に受け取る予定の退職金(約700万円)でなんとかすることに。定年退職するときに半分の350万円を渡すことを約束したのです。

相応な婚姻費用

第三に婚姻費用ですが、離婚協議が長期化すればするほど膨らんでいくので無視できません。具体的な金額は養育費と同じく(婚姻費用)算定表を使います。

たとえば、妻がパートタイマーの場合、夫の年収が900万円、妻が100万円、子どもが17歳なら婚姻費用は毎月19万円が妥当な金額です。一方、夫婦が共働きの場合、夫の年収が500万円、妻が400万円、子どもが12歳と14歳なら毎月10万円です。

孝弘さんの場合、算定表に照らすと毎月15万円が妥当な金額です。すでに離婚が決定的になっているにもかかわらず、条件を決めるのに1年間、かかったので婚姻費用として計180万円を支払うしかありませんでした。

熟年離婚は高くつくが…

こうして孝弘さんはなんとか離婚に漕ぎつけたのですが、一方で1,594万円(養育費264万円、学費300万円、慰謝料500万円、退職金350万円、婚姻費用180万円)を失い、大きな代償を払った格好です。

孝弘さんのように同居20~25年の夫婦の離婚は30年で3割近く増えています。(1990年は1万2,801組、2020は1万7,321組。厚生労働省の令和4年、人口動態統計特殊報告)。残りの人生は決して長くありません。ない袖は振れませんが、この年代はこれから退職金や企業年金、公的年金などを受け取るため、選択肢は豊富です。財産を上手く使って離婚を勝ち取るのも1つの選択肢でしょう。

露木 幸彦
露木行政書士事務所

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