『虎に翼』岩田剛典演じる花岡が“トドメの一撃” “信用のための結婚”があまりにつらい

『虎に翼』(NHK総合)第33話で、晴れて弁護士になった寅子(伊藤沙莉)は性別を理由になかなか依頼をしてもらえなかった。寅子は「結婚」が社会的地位を示すものであることをあらためて思い知ることになる。

物語冒頭で、花江(森田望智)の実家で長年働いていた女中・稲(田中真弓)が言った「女の幸せより大事なものか」という問いかけや、決して悪気はないのだが、雲野(塚地武雅)の言った「結婚前のご婦人に頼みたいのは、弁護よりお酌だろうな」という言葉が胸をえぐる。また寅子が、女性弁護士として初めて法廷に立った久保田(小林涼子)が結婚し妊娠していることを知った瞬間の面持ちもまた胸を衝く。

寅子を演じている伊藤は、初の女性弁護士となった久保田を純粋に祝う気持ちと羨ましさが同時に存在する複雑な胸中と、結婚している久保田と結婚していない自分では社会的信頼度が違うという現実にショックを受ける様を、どこか悄然とした面持ちで見せてくれた。

トドメの一撃となったのは、花岡(岩田剛典)が婚約者を連れて現れたことだ。「こちら小高奈津子さん。僕の婚約者だ」と言われた瞬間、寅子の口元からふっと笑みが消え、その目は戸惑ったように花岡と奈津子(古畑奈和)を見る。よね(土居志央梨)も轟(戸塚純貴)も言葉を失う中、寅子は「ご婚約おめでとうございます」と笑いかけた。しかしその笑顔はどことなくかたく、動揺する胸の内を無理やり抑え込んでいるように見える。そんな寅子に対し、花岡が心苦しそうに視線をそらして目を合わせないようにしていたことにはまだ救いがありそうだ。

「結婚」で社会的地位が決まることなど馬鹿馬鹿しいと感じているが、弁護士として活躍するために寅子は覚悟を決めた。凛とした佇まいは魅力的だ。だが、花岡との関係を問い詰めるはるに「花岡さんはとってもおきれいな方とご婚約されました」と口にした寅子に覇気はなかった。

物語冒頭で稲が言っていた「全ては手に入らないものですよ?」という言葉に、そんなことがあってたまるかという気持ちを抱いた視聴者もいることと思うが、寅子が生きる世界にはまだまだたくさんのしがらみがある。

それに寅子や視聴者の心をえぐるような内容は「結婚」だけに限らない。初の女性弁護士の取材に来ていた竹中(高橋努)は、世の中の流れに女性たちが利用されているという現状を皮肉めいた口調で語った。

「男どもは徴兵されて、どんどん戦争に行く。社会機能を維持していくためには、これから女性がさまざまな役割を担わなければならなくなる。挙国一致の総動員体制。お国のために輝かしく法廷デビューしたご婦人弁護士様。ハハハハハ」

久保田が所属する弁護士事務所の錦田(磯部勉)は「事務所一丸となり、今後も弁護士としての、そしてよき妻、母としての久保田君を支えていく所存であります」と豪語していたが、それが錦田自身の本心であろうとなかろうと、人々の注目は久保田の弁護士としての活躍ではないところに集まってしまうのだろう。
(文=片山香帆)

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