バイデン政権、中国製EVなどへの関税引き上げを発表

ナタリー・シャーマン、ビジネス記者(ニューヨーク)

アメリカのジョー・バイデン大統領は14日、中国製の電気自動車(EV)やソーラーパネル、鉄鋼などへの関税を引き上げると発表した。

バイデン氏は、EVやバッテリー、半導体チップ、基本的な医療用品を含む重要な製品について、中国に「不当に市場を支配させない」と述べた。

「(新型コロナウイルスの)パンデミックが教えてくれたように、我々は自国で必需品を安全に供給する必要がある」

ホワイトハウスは、一連の関税は不公正な政策への対抗措置であり、アメリカの雇用を守るためだと説明。推定180億ドル相当の輸入品に打撃を与えるという。

今回の施策で、EVへの関税は年内に25%から100%に引き上げられる。ソーラーパネルへの関税は25%から50%に、特定の鉄やアルミ製品では7.5%以下から3倍以上の25%になる。

これに対し中国の商務省は、アメリカの新たな動きは「二国間協力の雰囲気に深刻な影響を与える」と述べ、経済問題の政治化を批判した。

中国外務省の報道官も「合法的な権利と利益を守るために必要なあらゆる措置をとる」と述べた。

一方アナリストらは、これらの関税は象徴的なもので、厳しい選挙の年に票を集めるのが目的だと指摘している。

今年11月の大統領選でバイデン氏と戦う見通しのドナルド・トランプ前大統領は、ここ数カ月、バイデン氏のEV支援がアメリカの自動車産業を「殺す」ものだと批判してきた。

今回の動きは、不公正な貿易慣行を理由に、トランプ政権下でアメリカが中国製品に課した関税を大幅に拡大するものだ。

バイデン政権がトランプ政権時代の関税を再検討した際、政府には1500件近くのコメントが寄せられた。その大半は企業経営者からのもので、関税が日常的なアメリカ人の物価を押し上げていると主張し、関税撤廃を求める内容だった。

しかしインフレが長引き、支持率が低下している中でさえ、バイデン氏はこれらの関税を維持し、新たな領域にまで広げる決定を行った。これは、長年グローバルな貿易の利点を擁護してきたアメリカの民主・共和両党が、通商に関する見解を劇的に変化させたことを物語っている。

元米商務省職員で、現在はアジア社会政策研究所の副所長を務めるウェンディー・カトラー氏は、アメリカ国民は、アメリカ企業と雇用を守るためなら自動車の値上がりを喜んで受け入れるだろうと述べた。

「すでにソーラーパネルや鉄、アルミなどでこうした動きはあった。自動車やその他の製品について、アメリカは先手を打つ必要がある」

「これは、何と何を引き換えにするかの問題だ。短期的には自動車価格は上がるだろうが、長期的には競争力の高い産業が国内に残る」

米政府は内政とのつながりを否定

米政府高官は記者会見の中で、今回の決定に内政が関わっているという見方を否定した。

また、中国はアメリカに損害を与える慣行から離れる兆しを見せていないと指摘。これには、情報を盗む目的で西側企業に情報共有を強要する規則や、予想される需要をはるかに超える量の生産を可能にする企業補助金などが含まれる。

バイデン大統領は、「(中国製品が)市場にあふれかえっている」、「これは競争ではなくずるだ」と述べた。

ホワイトハウスは、今回の関税は対象を絞っており、インフレを進めるものではないとして、トランプ政権とのアプローチの違いを強調している。

かつて自らを「関税マン」と称したトランプ前大統領は、外国からの輸入品に一律10%の関税をかけるという公約で選挙戦を戦っている。実現すれば、中国製品への関税は60%となる。

トランプ氏はまた、バイデン氏がEVを推進することで、アメリカの米自動車企業を破壊すると主張している。11月の大統領選で鍵となるミシガン州などでは、自動車メーカーが大きな雇用主となっている。

シンクタンク「タックス・ファウンデーション」のエリカ・ヨーク上級エコノミストは、バイデン氏もトランプ氏も貿易障壁を引き上げ、「アメリカの産業の競争力を実際に高められる政策を模索するのではなく」、内政ばかりを見るという「同じ道をたどっている」と指摘した。

また、バイデン政権の戦略としての関税推進策は、「現政権にとって政治的に重要なセクターを保護するための遠回しの表現」だと述べた。

「こうした政策は、何が最も経済的に理にかなっているか、何がアメリカの消費者にとって最も手に届きやすいかよりも、政治経済上の計算に終始している」

欧州に波及するのか

アメリカはすでに中国製EVに大きな関税をかけており、国内での売り上げはごくわずかだ。

しかしアメリカ政府は、欧州やその他の国々における中国企業の売り上げ増も警戒している。

政府高官は、長期的なグリーン・テクノロジーへの移行を成功させ、持続させるためには、技術が一国に独占されないようにすることが重要だと述べている。

投資会社アルテミス・インヴェストメント・マネジメントのナターシャ・エブテハジ氏は、EVの関税引き上げは、実際には最小限の効果しか生まないかもしれないが、産業界は欧州が同様の段階を踏むかどうか見守っていると指摘した。

欧州連合(EU)とイギリスでは、EVの普及を遅らせる危険をおかしてでも、中国製EVの輸入を抑制するかの議論が行われている。

「米大統領選の候補者がどちらもあまり親中派ではないなかでは、(こうした状況は)投資家や中国企業にとって驚きではない」とエブテハジ氏は述べた。

「アメリカへのEV輸入は比較的少ないことを踏まえると、次に欧州で何が起きるかの方が興味深いだろう」

アメリカと中国の貿易戦争は2018年、トランプ氏が中国製品の3分の2に関税をかけたことで始まった。当時、3600億ドル相当の製品に影響が出たと推定されている。

これにより、中国政府は対抗措置に踏み切った。その後、トランプ氏が関税の一部を引き下げる一方、中国は米国からの購入を増やすことを約束したため、2020年初頭にデタント(緊張緩和)となった。

これらの約束は守られなかったが、関税はその後、アメリカ政府に2000億ドル以上の税収をもたらし、同時に世界の貿易パターンの大きな入れ替えを促した。

その多くは、家具や履物、その他の商品の価格上昇という形で、アメリカ国民が負担している。

しかし英調査会社オックスフォード・エコノミクスは調査報告書の中で、今回の関税引き上げを「噛みつくというより、象徴的なほえ声」だと評している。

報告によると、この引き上げはインフレ率をわずか0.01ポイント上昇させるだけで、成長率に与える影響も同様だとし、その影響を「丸め誤差」と呼んだ。

(英語記事 Biden hits Chinese electric cars and solar cells with higher tariffs

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